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第26話

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それから数日、スーパーは年末の大売り出しで多忙な日々が続いた。
僕は仕事に忙殺されながらもあの日の晩のことを思い出し、あの幸せな出来事は一生忘れることは無いだろうと思っていた。

大晦日、この日は普段よりも営業時間を短縮して夕方6時には閉店して切り上げとなった。

僕は実家には帰らず朋美さんと年を越す予定で、朋美さんを車で迎えに行った。
初詣、初日の出の為に事前に計画していた某有名神社に向けて夜中の内に車を走らせた。深夜のまだギリギリ日付が変わる前に現地に到着することが出来た。そこでは既に除夜の鐘が低い音を鳴り響かせていた。
有名な神社なだけに、人の数も驚くほど多い。僕達は日付が変わると同時に神様にお参りし、そしておみくじを引きに行った。
僕は不安と期待を胸におみくじを開いて読んだ。


な…


なんと…


僕の引いたおみくじは超超レアな大凶を引いてしまった…


そ…そんな…


まさか年の初めからこんな不吉なことが起こるなんて…


僕が動揺して落ち込む姿を見た朋美さんが僕の手に持っているおみくじを覗き込んで、笑いながら信じられないことを口にした。

「あら!和ちゃん良かったじゃない!」

え!?良かったじゃない?何が良かったじゃない?全然良くないじゃん!大凶ですよ!大凶!!!朋美さんは大吉と見間違えたんですか?

その時朋美さんは思いもよらぬことを言った。

「ねぇ和ちゃん、知ってる?大凶って神社によってはおみくじの箱に入れてない所の方が圧倒的に多いのよ?そんなレアなおみくじを引き当てるなんて凄くラッキーじゃない!それにね、大凶ってことはこれ以上下はもう無いってことなの!ていうことは、この先はもう今より上しかないのよ!今が大凶ならこの先は明るい未来が待っているってことなの!だからそんなに落ち込むのは間違いよ!」

と…朋美さん…そんな眩しい笑顔でそんなポジティブ発言されたら説得力満点じゃないですか!

僕の気持ちは一気にV字回復していた。

「そうですよねぇ!全ては考え方一つ!何もかも悪い方に考えれば心も辛くなるけど、ポジティブに考えたらどんなことも良い方向へ向かう気がします!ありがとう朋美さん!」

僕は朋美さんのお陰で気持ちが落ち着いた。
そしてまた車を少し走らせ、水平線の日の出が綺麗に見える場所近くまで移動して車中泊することにした。

狭い車内の中で僕らは用意してあった毛布をかぶり、身体を小さくして横になる。仕事の忙しさからか、そんな狭い車内でも二人は一気に深い眠りに落ちていった。
僕らは朝の6時にアラームをセットしていて、その音で目が覚めた。辺りはまだまだ暗く日の出にはもう少し時間がありそうだ。
僕は痛む身体を起こしてエンジンをかけ、初日の出が見える場所へと車を寄せた。

「朋美さん、多分あともう少しで日が登り始めますよ」

「ありがとう。この初日の出も一緒に記念撮影しましょう」

日の出の時間が近付くにつれ、人の数は次第に増えていき、我先にと前へ前へ並ぶ人が出て来て、僕らも慌てて車から降りて場所の確保をした。せっかく車中泊までしてこの日の出を見に来たのに、危うく台無しにしてしまうところだった。

やがて水平線の向こうからゆっくりゆっくりと明るく綺麗な太陽が優雅に顔を出し始めた。
朋美さんはすぐにスマホを手に日の出をバックにツーショット写真を撮り始めた。幻想的な背景と共に映った朋美さんの最高の笑顔は、それはそれは本当に綺麗で幸せいっぱいの表情に見えた。

記念撮影…まだこのときはただ単純に今年初の二人の想い出として撮影をするだけなのだと思っていた。

しかしこれは本当の意味でお互いの想い出となるものだと知るのは後になってからだった…


それから数日後


僕が今まで心に抱いていた漠然としていた不安と恐怖は、突風のように吹き荒れることになる。

それは、社員の急な欠員による時期外れの人事異動から始まった。
大々的な異動は無いものの、僕の職場にもその異動の話が出て、パートさん方がある情報でざわめき始めた。

それは、僕の人生を大きく狂わす出来事になるとは露程も思っていなかった。
一人のパートさん、同じ鮮魚コーナーの上田恭子さん…僕と朋美さんの噂を広めたとされる悪の元凶だ!その上田さんが僕のところへ寄ってきて小声で話してきた。

「ねぇねぇ、聞いた?今度ここに異動になった高橋さんのこと?」

「いえ…まだ何も聞いてないですけど…」

「高橋さんてねぇ、もう歳は四十越えてるんだけど、けっこう女性問題が絶えない人で、ここにも何年か居たことがあるんだけど、過去にウチの鈴木さんとも関係が噂されてた人なのよ!それで高橋さんが他所に異動になった経緯もあるって聞いたけど…それに鈴木さんも色々男性との遍歴があるって聞いたことがあって…あくまでこれは噂だからあまり広めちゃ駄目よ!でも、また焼けぼっくりに火が付いてなんてことにならなきゃいいけどね…」

それって…噂を広めるなと言ってるアナタが一番面白おかしく広めて歩いてるんじゃないんですか?僕と朋美さんのことだって、何の根拠もなくあること無いこと言いふらしていたのはアナタなんじゃないですか?
その話を僕に伝えに来る神経が理解出来ない!

僕は上田さんの話をまともに聞く気は無いが、火の無いところに煙は…もしかしたらその高橋って人と朋美さんに過去に何かしらの繋がりがあったのかもしれない…いや…もしかして…あの電話の主こそが…
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