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第11話
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「朋美…さん…あの…」
僕はこのシチュエーションでもしかしてこのままキスまで行くのかと思ったが、その期待は裏切られてしまった。
「和ちゃん、明日寝不足になったら困るから、今日はもう帰って休んで!」
「そう…そうですよね…明日も早いし…って…そう言えば忘れてたけど、明日僕休みだった!シフトで明日休みでした!」
すっかり忘れていたが、僕は明日休みだったのだ。だから…だから朋美さんさえ良ければ…今日はもう少しゆっくり出来るんだけどなぁ…でも、朋美さんもお風呂入ったりいろいろ忙しいのかなぁ…
「でも、朋美さんも忙しいですよね…やっぱり帰って休みます…」
僕は心とは真逆なことを言って朋美さんの反応を見る。
「そっかぁ~…明日休みだったんだねぇ。んー…」
んー…ってやっぱり早く帰れって思っても、そのきっかけを失ってどうしようか悩んでるってこと?ほんとは朋美さんは僕が思っているより一緒に居なくてもいいって感じなのかな?僕はまたまた疑心暗鬼に陥っている。いや、でも待てよ…さっき毎日でも来ていいよって言ったよな。てことはそうじゃないのか…ということは、もしかしてこの後何か違う展開を考えているのか?朋美さんはまだ僕の手を上から握っている。僕はゆっくり朋美さんの手の外側から包み込むように握り返し、朋美さんの腕を僕の手がゆっくり肩の方へ滑り上がって朋美さんの肩を抑えた。そしてそっと僕の方へ抱き寄せた。朋美さんはそれに全く抵抗する素振りも見せず、僕の方へ力を抜いて身を委ねてくる。朋美さんの身体は僕に包み込まれるように倒れこむ。そして僕は朋美さんをハグする形で抱きかかえた。朋美さんの頬は僕の胸に埋もれ、そして僕の身体に腕を巻き付けてじっとしている。きっと僕の波打つ鼓動が朋美さんの鼓膜に大きな音を立てて響いているのだろう。朋美さん?いったい今何を考えていますか?朋美さんは何も言わず動かない。朋美さんを包む僕の手は緊張で震えている。こんな大胆な行動に出ながらも、実は自分自身信じられない思いでいた。恋愛などしたこともない僕が、いきなりこんな風に大人の女性をリード出来るもんだろうか?でも、大人の女性だからこそ出来たのかもしれない。安心感とか、包容力とか、そう言ったものを僕は求めている。きっと自分の中で朋美さんにそれがあると確信して、こういう行動に出てもきっと受け入れてくれるであろうと感じていたんだ。僕は震える左手でそっと朋美さんの頭を抱えそっと撫でた。朋美さんはその瞬間、僕の身体に回した腕にギュッと力が入った。
「朋美さん…」
僕は囁くような小さな声で朋美さんの名前を呼んだ。朋美さんも小さな声で
「うん…」
と返事して僕の腕の中で小さくうなずいた。この状態でだいたい10分間くらい僕と朋美さんは抱き合っていた。そして朋美さんがゆっくり顔を上げて
「和ちゃん…ありがとう…」
そう言って僕から離れ、ゆっくりと立ち上がり僕に手を差しのべて僕の手を取り立ち上がらせた。そしてもう一度朋美さんは僕に抱きついて来て
「もういいよ…もう行って…ありがとう…これ以上こうしてると…和ちゃんを返したくなくなっちゃうから…」
「朋美さん…」
「あまり深入りすると…もう戻れない所まで突き進んじゃいそうだから…だから…もう…」
朋美さん…きっと朋美さんは必死で僕との境界線を敷こうと自分の中の気持ちと抗っているんだ。僕は朋美さんにどっぷりハマってしまっているけど、朋美さんは僕の為にそうなるまいと留まろうとしているんだ。僕はもっと朋美さんを求めたい気持ちはあったが、そうすると、きっと朋美さんのことを苦しめることになるのかもしれないと思い、いさぎよく引くことにした。
「わかりました。今日はもう帰りますね…やっぱりメリハリは必要ですよね…僕も恋愛経験無いからどうしていいか全然わかりません。ここは大人の朋美さんに従います。今日はありがとうございました」
「和ちゃん、二人の時は敬語なんて使わないで…なんか他人行儀に感じちゃうから…」
「え…でも…なんか難しいな…」
僕は緊張して頭を掻いた。
「私を女として扱って…」
凄くドキッとするなぁ~、そういう言い方…女として?それって僕の女として見てってことかな?もう半分彼女としてって感じでいいのかな?
「朋美さん…」
僕がそう言った瞬間、朋美さんは僕から離れ
「もう行って…」
そう言って玄関の方へ歩いていく。僕もその後を追い、玄関ドアを開けて
「また…来ます…」
そう言って小さくうなずく。朋美さんも無言で小さくうなずいた。そしてゆっくりドアを開けて外に出る。お互い小さく手を振り無言で別れた。朋美は、自分に歯止めがきかなくなるのを恐れていた。
僕はこのシチュエーションでもしかしてこのままキスまで行くのかと思ったが、その期待は裏切られてしまった。
「和ちゃん、明日寝不足になったら困るから、今日はもう帰って休んで!」
「そう…そうですよね…明日も早いし…って…そう言えば忘れてたけど、明日僕休みだった!シフトで明日休みでした!」
すっかり忘れていたが、僕は明日休みだったのだ。だから…だから朋美さんさえ良ければ…今日はもう少しゆっくり出来るんだけどなぁ…でも、朋美さんもお風呂入ったりいろいろ忙しいのかなぁ…
「でも、朋美さんも忙しいですよね…やっぱり帰って休みます…」
僕は心とは真逆なことを言って朋美さんの反応を見る。
「そっかぁ~…明日休みだったんだねぇ。んー…」
んー…ってやっぱり早く帰れって思っても、そのきっかけを失ってどうしようか悩んでるってこと?ほんとは朋美さんは僕が思っているより一緒に居なくてもいいって感じなのかな?僕はまたまた疑心暗鬼に陥っている。いや、でも待てよ…さっき毎日でも来ていいよって言ったよな。てことはそうじゃないのか…ということは、もしかしてこの後何か違う展開を考えているのか?朋美さんはまだ僕の手を上から握っている。僕はゆっくり朋美さんの手の外側から包み込むように握り返し、朋美さんの腕を僕の手がゆっくり肩の方へ滑り上がって朋美さんの肩を抑えた。そしてそっと僕の方へ抱き寄せた。朋美さんはそれに全く抵抗する素振りも見せず、僕の方へ力を抜いて身を委ねてくる。朋美さんの身体は僕に包み込まれるように倒れこむ。そして僕は朋美さんをハグする形で抱きかかえた。朋美さんの頬は僕の胸に埋もれ、そして僕の身体に腕を巻き付けてじっとしている。きっと僕の波打つ鼓動が朋美さんの鼓膜に大きな音を立てて響いているのだろう。朋美さん?いったい今何を考えていますか?朋美さんは何も言わず動かない。朋美さんを包む僕の手は緊張で震えている。こんな大胆な行動に出ながらも、実は自分自身信じられない思いでいた。恋愛などしたこともない僕が、いきなりこんな風に大人の女性をリード出来るもんだろうか?でも、大人の女性だからこそ出来たのかもしれない。安心感とか、包容力とか、そう言ったものを僕は求めている。きっと自分の中で朋美さんにそれがあると確信して、こういう行動に出てもきっと受け入れてくれるであろうと感じていたんだ。僕は震える左手でそっと朋美さんの頭を抱えそっと撫でた。朋美さんはその瞬間、僕の身体に回した腕にギュッと力が入った。
「朋美さん…」
僕は囁くような小さな声で朋美さんの名前を呼んだ。朋美さんも小さな声で
「うん…」
と返事して僕の腕の中で小さくうなずいた。この状態でだいたい10分間くらい僕と朋美さんは抱き合っていた。そして朋美さんがゆっくり顔を上げて
「和ちゃん…ありがとう…」
そう言って僕から離れ、ゆっくりと立ち上がり僕に手を差しのべて僕の手を取り立ち上がらせた。そしてもう一度朋美さんは僕に抱きついて来て
「もういいよ…もう行って…ありがとう…これ以上こうしてると…和ちゃんを返したくなくなっちゃうから…」
「朋美さん…」
「あまり深入りすると…もう戻れない所まで突き進んじゃいそうだから…だから…もう…」
朋美さん…きっと朋美さんは必死で僕との境界線を敷こうと自分の中の気持ちと抗っているんだ。僕は朋美さんにどっぷりハマってしまっているけど、朋美さんは僕の為にそうなるまいと留まろうとしているんだ。僕はもっと朋美さんを求めたい気持ちはあったが、そうすると、きっと朋美さんのことを苦しめることになるのかもしれないと思い、いさぎよく引くことにした。
「わかりました。今日はもう帰りますね…やっぱりメリハリは必要ですよね…僕も恋愛経験無いからどうしていいか全然わかりません。ここは大人の朋美さんに従います。今日はありがとうございました」
「和ちゃん、二人の時は敬語なんて使わないで…なんか他人行儀に感じちゃうから…」
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僕は緊張して頭を掻いた。
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凄くドキッとするなぁ~、そういう言い方…女として?それって僕の女として見てってことかな?もう半分彼女としてって感じでいいのかな?
「朋美さん…」
僕がそう言った瞬間、朋美さんは僕から離れ
「もう行って…」
そう言って玄関の方へ歩いていく。僕もその後を追い、玄関ドアを開けて
「また…来ます…」
そう言って小さくうなずく。朋美さんも無言で小さくうなずいた。そしてゆっくりドアを開けて外に出る。お互い小さく手を振り無言で別れた。朋美は、自分に歯止めがきかなくなるのを恐れていた。
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