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第70話 空虚感
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菜松がキラリの横に立って
菜松「さぁキラリさん、先ずは基本の立ち方を」
キラリはそう言われて姿勢をピシッと正し教わった通りの立ち方を鏡で確認する。
菜松「はい、それではゆっくり行きましょう。先ずは足の前に足を置きますよ、良いですか?」
そう言って菜松が先に一歩踏み出す。それに習ってキラリも踏み出す。
キラリ「ほっ!」
キラリは慣れないやり方に一瞬身体がグラついた。
菜松「真っ直ぐ前を見て頭は上下させません。出した足のつま先は軽く外を向けましょう!下を見ると方向が定まりませんよ」
キラリ「は……はい……」
再びキラリは姿勢を確認し、菜松と共に2歩目を踏み出した。
菜松「はい、キラリさんお上手ですよ。その調子で連続で進んでみましょう」
キラリ「はい……」
前を……見て……頭は……動かさない……こうかな……
するとキラリは菜松と共に、それは見事な歩き姿を鏡に映し出した。
え!?これ……私!?ウソ!?
キラリは自分でも驚く程の、まるでモデルのように美しい自身の歩き姿に驚き歓喜する。
キラリ「な……菜松さん……」
キラリが呆けたような声を上げると菜松は
菜松「えぇ、とてもお美しいですとも!キラリさんは元々体幹が出来ていらっしゃるようですね。こんなにも早くマスターする方を私は見たことがありませんよ!」
キラリ「あっ……ありがとう……」
キラリの頬は紅く染まり思わずニヤけてしまう。
菜松「キラリさん、これからは常にこの立ち姿勢と歩き方を忘れずに自然に出来るように心掛けて下さい!」
キラリ「はい……」
それからしばらく二人は広い鏡張りの部屋を何度も往復して姿勢を確認した。
次第にキラリはこの掴みどころのない菜松のことを少し好きになりかけていた。
ここで菜松が自分の腕時計に目をやる。
菜松「あら、キラリさんお時間ですわ!今日の所は早めに切り上げるよう仰せつかっておりますので、それではここまでにしておきましょう」
菜松はそう言ってキラリと向き合いクールな瞳でキラリのことを見つめた。
菜松「キラリさん、あなたは本当に美しいわ!この全てのカリキュラムを終えたとき、きっととても素晴らしい女性に生まれ変わっているはずですよ!」
そう言って菜松の白くて細く柔らかい右手がキラリの頬に優しく触れる。
キラリはその優しい感触に思わず胸がキュンと締めつけられるような感覚を覚える。
翼……
それは久しく忘れていた翼の手の感触に似ていた。キラリは我を忘れて菜松の顔を見入っている。
菜松「どうされましたか?」
その言葉にキラリはふと我に返り
キラリ「あっ……いや……あの……ありがとうございました……」
菜松は薄い唇をほんの少しだけ動かし微笑んで再び無感情に
菜松「いえ、お礼など要りませんよ。これが私のお仕事なのです」
菜松のその言葉に、キラリが菜松に対して抱きかけたある感情をバッサリと切られたような気持ちになる。
キラリ「はい……」
菜松は入口のドアの方に手を指して
菜松「それでは行きましょう!」
そう言って先に歩き出した。キラリもその後をついて行く。
菜松はドアを開けてキラリに部屋の外へ出るよう促す。
キラリは自分でもわからない何とも言い難い空虚感に襲われながらもこの部屋を出る。
菜松が先導して行く間、キラリはうつ向いたまま目だけは菜松のことを見ていた。
何だろこの感覚……凄く淋しくなっちゃった……翼……翼に会いたい……この菜松さんと居ると……翼のことを思い出しちゃう……
二人はエレベーターに乗り一階まで降りてエレベーターのドアがゆっくりと開く。
菜松はエレベーターのボタンを押しキラリが出るのを待っている。
エントランスの中にはまだ何人も慌ただしく行き交う人が見えた。
菜松「キラリさんお疲れ様でした。」
キラリはゆっくりとこの密室空間を出てエントランスの中を自動ドアの方へと歩いていく。
その背中に菜松がそっと
菜松「キラリさん?基本姿勢お忘れですよ!」
と声をかけた。
キラリはビクッとなり、姿勢を正し教わった通りの綺麗な歩き姿で歩を進めた。
そしてふと立ち止まり、クルリと菜松の方へ振り向く。
菜松はエレベーターを出てすぐの所でマニュアル通りなのか、深すぎず浅過ぎずの角度でお辞儀をしてキラリを見送っている。
菜松さん……
キラリは不思議ともう少し一緒に居たいという気持ちになっていたが、その立ち止まっているキラリに、スラリと背の高い紺色のスーツを着たロマンスグレーのいかにも紳士という清潔感漂う男が駆け寄ってきた。
紳士「キラリ様お疲れ様でした。どうぞ車にお乗りください!」
そう言って入口自動ドアの方へ手を指して外へと促す。
外はまだ陽は沈みきっておらず夕陽の光が辺りを包み込んでセピア色に輝く。
ビルのすぐ前に横付けされた車の運転手に紳士の男が相づちを打ち、運転手が後部座席のドアを開けてキラリを乗せてドアを閉め自分も運転席に乗り込む。
シルバーの高級車は、無情にもキラリの空虚感を置き去りにして去っていった。
菜松「さぁキラリさん、先ずは基本の立ち方を」
キラリはそう言われて姿勢をピシッと正し教わった通りの立ち方を鏡で確認する。
菜松「はい、それではゆっくり行きましょう。先ずは足の前に足を置きますよ、良いですか?」
そう言って菜松が先に一歩踏み出す。それに習ってキラリも踏み出す。
キラリ「ほっ!」
キラリは慣れないやり方に一瞬身体がグラついた。
菜松「真っ直ぐ前を見て頭は上下させません。出した足のつま先は軽く外を向けましょう!下を見ると方向が定まりませんよ」
キラリ「は……はい……」
再びキラリは姿勢を確認し、菜松と共に2歩目を踏み出した。
菜松「はい、キラリさんお上手ですよ。その調子で連続で進んでみましょう」
キラリ「はい……」
前を……見て……頭は……動かさない……こうかな……
するとキラリは菜松と共に、それは見事な歩き姿を鏡に映し出した。
え!?これ……私!?ウソ!?
キラリは自分でも驚く程の、まるでモデルのように美しい自身の歩き姿に驚き歓喜する。
キラリ「な……菜松さん……」
キラリが呆けたような声を上げると菜松は
菜松「えぇ、とてもお美しいですとも!キラリさんは元々体幹が出来ていらっしゃるようですね。こんなにも早くマスターする方を私は見たことがありませんよ!」
キラリ「あっ……ありがとう……」
キラリの頬は紅く染まり思わずニヤけてしまう。
菜松「キラリさん、これからは常にこの立ち姿勢と歩き方を忘れずに自然に出来るように心掛けて下さい!」
キラリ「はい……」
それからしばらく二人は広い鏡張りの部屋を何度も往復して姿勢を確認した。
次第にキラリはこの掴みどころのない菜松のことを少し好きになりかけていた。
ここで菜松が自分の腕時計に目をやる。
菜松「あら、キラリさんお時間ですわ!今日の所は早めに切り上げるよう仰せつかっておりますので、それではここまでにしておきましょう」
菜松はそう言ってキラリと向き合いクールな瞳でキラリのことを見つめた。
菜松「キラリさん、あなたは本当に美しいわ!この全てのカリキュラムを終えたとき、きっととても素晴らしい女性に生まれ変わっているはずですよ!」
そう言って菜松の白くて細く柔らかい右手がキラリの頬に優しく触れる。
キラリはその優しい感触に思わず胸がキュンと締めつけられるような感覚を覚える。
翼……
それは久しく忘れていた翼の手の感触に似ていた。キラリは我を忘れて菜松の顔を見入っている。
菜松「どうされましたか?」
その言葉にキラリはふと我に返り
キラリ「あっ……いや……あの……ありがとうございました……」
菜松は薄い唇をほんの少しだけ動かし微笑んで再び無感情に
菜松「いえ、お礼など要りませんよ。これが私のお仕事なのです」
菜松のその言葉に、キラリが菜松に対して抱きかけたある感情をバッサリと切られたような気持ちになる。
キラリ「はい……」
菜松は入口のドアの方に手を指して
菜松「それでは行きましょう!」
そう言って先に歩き出した。キラリもその後をついて行く。
菜松はドアを開けてキラリに部屋の外へ出るよう促す。
キラリは自分でもわからない何とも言い難い空虚感に襲われながらもこの部屋を出る。
菜松が先導して行く間、キラリはうつ向いたまま目だけは菜松のことを見ていた。
何だろこの感覚……凄く淋しくなっちゃった……翼……翼に会いたい……この菜松さんと居ると……翼のことを思い出しちゃう……
二人はエレベーターに乗り一階まで降りてエレベーターのドアがゆっくりと開く。
菜松はエレベーターのボタンを押しキラリが出るのを待っている。
エントランスの中にはまだ何人も慌ただしく行き交う人が見えた。
菜松「キラリさんお疲れ様でした。」
キラリはゆっくりとこの密室空間を出てエントランスの中を自動ドアの方へと歩いていく。
その背中に菜松がそっと
菜松「キラリさん?基本姿勢お忘れですよ!」
と声をかけた。
キラリはビクッとなり、姿勢を正し教わった通りの綺麗な歩き姿で歩を進めた。
そしてふと立ち止まり、クルリと菜松の方へ振り向く。
菜松はエレベーターを出てすぐの所でマニュアル通りなのか、深すぎず浅過ぎずの角度でお辞儀をしてキラリを見送っている。
菜松さん……
キラリは不思議ともう少し一緒に居たいという気持ちになっていたが、その立ち止まっているキラリに、スラリと背の高い紺色のスーツを着たロマンスグレーのいかにも紳士という清潔感漂う男が駆け寄ってきた。
紳士「キラリ様お疲れ様でした。どうぞ車にお乗りください!」
そう言って入口自動ドアの方へ手を指して外へと促す。
外はまだ陽は沈みきっておらず夕陽の光が辺りを包み込んでセピア色に輝く。
ビルのすぐ前に横付けされた車の運転手に紳士の男が相づちを打ち、運転手が後部座席のドアを開けてキラリを乗せてドアを閉め自分も運転席に乗り込む。
シルバーの高級車は、無情にもキラリの空虚感を置き去りにして去っていった。
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