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第68話 不気味な女、菜松照代
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キラリは一人ポツンと部屋に取り残され、これから何が起こるのかという不安に駆られキョロキョロと周りを見回す。
こんな何も無い所でいったい何をするんだろ……
キラリは落ち着かず立ち上がって壁の鏡を覗き込む。
社長夫人かぁ……こんなバカな私が本当になれるの?
キラリは鏡に映る自分に問いかけてみる。
その時ドアがガチャッという音を立てて開いた。先程の若い女性は部屋に入りドアを閉めて
菜松「お待たせいたしました。これから少しの間キラリさんをお世話させて頂きます、菜松照代(なまつてるよ)です。宜しくお願い致します」
そう言って菜松は深々と頭を下げる。
それにつられてキラリもペコッと頭を下げた。
そしてカツカツとヒールの音を立てながら座っているキラリに対面して立った。
キラリの印象としてはこの菜松という女性、かなり垢抜けた都会育ちの教養溢れる女性だと感じていた。
顔立ちは華やかさとは真逆の目は細く切れ長で、鼻筋が通っていて唇も薄い。化粧はその薄い顔立ちを軽く引き立たせる程度の控えめで、情熱とはかけ離れた冷たい印象を受ける。
自分とは全く住む世界が違い、とても仲良く出来そうに無い予感がする。
キラリ「よ……宜しくお願いします……」
キラリはこの女性に引け目を感じてこの場から逃げ出してしまいたい衝動に駆られた。
菜松はキラリの目の前に立ち淡々とした口調で
菜松「それでは早速ですが、カリキュラムを説明させて頂きますね」
キラリ「か……かり……?」
菜松「簡単に言うとこれからどんなお勉強をするか、その予定のことです」
キラリ「あっ……なるほど……」
お勉強……それって絶対学校の勉強とは違って硬っ苦しいやつだよな……何かで見たことあるような……歩き方とか言葉遣いとか色々うるさく言われて……ちょっとおかしなことやったらバシィ~とか叩かれるやつ……
菜松「先ずは初歩的な立ち姿、歩き方、そしてお辞儀等をしっかりと覚えて頂きます。その過程が修了しましたら次は話し方、言葉遣い等を覚えて頂きます。この過程が修了しましたら次は夫人としての心得や、お客様に対しての対応等を覚えて頂きます。その過程が修了しましたら次は…」
キラリはこの話を聞いてるだけで気が遠退いて行くような感覚に襲われる。
キラリ「ちょっ……ちょっと待って……ムリムリムリムリムリ……やっぱ無理だって!私になんか絶対そんなの出来っこないよ!やっぱ無理だって!」
菜松はキラリの顔を無表情で見つめている。
ちょっ……何!?だって絶対無理だもん!!
キラリは菜松の視線から目を逸らすように壁の鏡に目を向けると、菜松はその鏡越しにキラリを見つめ視線が合ってしまった。
うわっ!怖っ!
慌ててキラリは視線をそらし、今度は反対の壁の鏡の方へ振り向く。すると、菜松もまた鏡越しにキラリを見つめていた。
ヤバイって!!この人絶対ヤバイって……
キラリは非常に気まずくなり、うつ向いて黙っている。
菜松は無感情な声で
菜松「キラリさん、立って下さい!」
菜松が冷たい表情で言うので、キラリは気圧され思わずのけぞってしまう。
この人なんか怖い……何考えてるのかさっぱり読めない……もう嫌だよぉ~……もう帰りたい~……母ちゃん助けて~!
しかし菜松はたたみかけるように無感情な声で
菜松「さあ、早くお立ち下さい」
キラリは観念して恐る恐るゆっくりと立ち上がる。
菜松はテーブル越しに立っているキラリの目の前に移動し立ち止まる。
なっ!!なに!?何か怒ってんの!?
キラリが緊張して固まっていると、いきなり菜松の右手がキラリの顔に近づいてきた。
キラリはいきなり殴られるのかと目を細め身構えた次の瞬間、菜松の冷たい手がキラリの緊張で火照った頬に優しく触れた。
菜松「なんて可愛らしいお嬢さんでしょう……」
えっ!?
菜松の目は笑っていないが、薄い唇がほんの少しだけ動いて軽く微笑んでいるようにさえ見えた。
キラリ「あ……ありがとう……」
菜松「キラリさん、心配要りません。あなたならきっとやり遂げますわ!私は貴女を信じてます。さぁ、こちらへ……」
透き通るような静かな口調でそう言って菜松はキラリの頬から手を離し、今度はキラリの汗ばんだ手を引いて壁の鏡の方へ向かった。
菜松「キラリさん、鏡に向かってニッコリ笑って。そして自分に向かってこう言うのです。
『私なら出来る!』
さあ!」
さあ!って……言われても……そんな恥ずかしいこと出来ないよ……
キラリはこの菜松のクールな表情とは裏腹におかしなことを言うギャップに戸惑う。
キラリが黙ってモジモジしている横顔を菜松が覗き込み
菜松「どうなされたの?」
と、聞いてきた。
キラリ「いや、何ていうか……恥ずかしい……」
そう言った瞬間、菜松は大きな声で笑った。
菜松「あはははははは……」
キラリはその笑い声に驚き首をかしげて顔を上げた瞬間、すでに菜松の表情は素に戻りクールな眼差しをキラリに向けていて、その変わり身の速さに驚愕(きょうがく)した。
え!?いま笑って無かった!?
キラリは人間がこんな一瞬でこうも表情を変化させられるものかと驚き戸惑っていると
菜松「さぁ頑張って言ってみて!」
キラリは何とも言い難い怖さを秘めている菜松に逆らえず
キラリ「わ……私なら……で……出来る……」
と、小さな声でつぶやいた。
こんな何も無い所でいったい何をするんだろ……
キラリは落ち着かず立ち上がって壁の鏡を覗き込む。
社長夫人かぁ……こんなバカな私が本当になれるの?
キラリは鏡に映る自分に問いかけてみる。
その時ドアがガチャッという音を立てて開いた。先程の若い女性は部屋に入りドアを閉めて
菜松「お待たせいたしました。これから少しの間キラリさんをお世話させて頂きます、菜松照代(なまつてるよ)です。宜しくお願い致します」
そう言って菜松は深々と頭を下げる。
それにつられてキラリもペコッと頭を下げた。
そしてカツカツとヒールの音を立てながら座っているキラリに対面して立った。
キラリの印象としてはこの菜松という女性、かなり垢抜けた都会育ちの教養溢れる女性だと感じていた。
顔立ちは華やかさとは真逆の目は細く切れ長で、鼻筋が通っていて唇も薄い。化粧はその薄い顔立ちを軽く引き立たせる程度の控えめで、情熱とはかけ離れた冷たい印象を受ける。
自分とは全く住む世界が違い、とても仲良く出来そうに無い予感がする。
キラリ「よ……宜しくお願いします……」
キラリはこの女性に引け目を感じてこの場から逃げ出してしまいたい衝動に駆られた。
菜松はキラリの目の前に立ち淡々とした口調で
菜松「それでは早速ですが、カリキュラムを説明させて頂きますね」
キラリ「か……かり……?」
菜松「簡単に言うとこれからどんなお勉強をするか、その予定のことです」
キラリ「あっ……なるほど……」
お勉強……それって絶対学校の勉強とは違って硬っ苦しいやつだよな……何かで見たことあるような……歩き方とか言葉遣いとか色々うるさく言われて……ちょっとおかしなことやったらバシィ~とか叩かれるやつ……
菜松「先ずは初歩的な立ち姿、歩き方、そしてお辞儀等をしっかりと覚えて頂きます。その過程が修了しましたら次は話し方、言葉遣い等を覚えて頂きます。この過程が修了しましたら次は夫人としての心得や、お客様に対しての対応等を覚えて頂きます。その過程が修了しましたら次は…」
キラリはこの話を聞いてるだけで気が遠退いて行くような感覚に襲われる。
キラリ「ちょっ……ちょっと待って……ムリムリムリムリムリ……やっぱ無理だって!私になんか絶対そんなの出来っこないよ!やっぱ無理だって!」
菜松はキラリの顔を無表情で見つめている。
ちょっ……何!?だって絶対無理だもん!!
キラリは菜松の視線から目を逸らすように壁の鏡に目を向けると、菜松はその鏡越しにキラリを見つめ視線が合ってしまった。
うわっ!怖っ!
慌ててキラリは視線をそらし、今度は反対の壁の鏡の方へ振り向く。すると、菜松もまた鏡越しにキラリを見つめていた。
ヤバイって!!この人絶対ヤバイって……
キラリは非常に気まずくなり、うつ向いて黙っている。
菜松は無感情な声で
菜松「キラリさん、立って下さい!」
菜松が冷たい表情で言うので、キラリは気圧され思わずのけぞってしまう。
この人なんか怖い……何考えてるのかさっぱり読めない……もう嫌だよぉ~……もう帰りたい~……母ちゃん助けて~!
しかし菜松はたたみかけるように無感情な声で
菜松「さあ、早くお立ち下さい」
キラリは観念して恐る恐るゆっくりと立ち上がる。
菜松はテーブル越しに立っているキラリの目の前に移動し立ち止まる。
なっ!!なに!?何か怒ってんの!?
キラリが緊張して固まっていると、いきなり菜松の右手がキラリの顔に近づいてきた。
キラリはいきなり殴られるのかと目を細め身構えた次の瞬間、菜松の冷たい手がキラリの緊張で火照った頬に優しく触れた。
菜松「なんて可愛らしいお嬢さんでしょう……」
えっ!?
菜松の目は笑っていないが、薄い唇がほんの少しだけ動いて軽く微笑んでいるようにさえ見えた。
キラリ「あ……ありがとう……」
菜松「キラリさん、心配要りません。あなたならきっとやり遂げますわ!私は貴女を信じてます。さぁ、こちらへ……」
透き通るような静かな口調でそう言って菜松はキラリの頬から手を離し、今度はキラリの汗ばんだ手を引いて壁の鏡の方へ向かった。
菜松「キラリさん、鏡に向かってニッコリ笑って。そして自分に向かってこう言うのです。
『私なら出来る!』
さあ!」
さあ!って……言われても……そんな恥ずかしいこと出来ないよ……
キラリはこの菜松のクールな表情とは裏腹におかしなことを言うギャップに戸惑う。
キラリが黙ってモジモジしている横顔を菜松が覗き込み
菜松「どうなされたの?」
と、聞いてきた。
キラリ「いや、何ていうか……恥ずかしい……」
そう言った瞬間、菜松は大きな声で笑った。
菜松「あはははははは……」
キラリはその笑い声に驚き首をかしげて顔を上げた瞬間、すでに菜松の表情は素に戻りクールな眼差しをキラリに向けていて、その変わり身の速さに驚愕(きょうがく)した。
え!?いま笑って無かった!?
キラリは人間がこんな一瞬でこうも表情を変化させられるものかと驚き戸惑っていると
菜松「さぁ頑張って言ってみて!」
キラリは何とも言い難い怖さを秘めている菜松に逆らえず
キラリ「わ……私なら……で……出来る……」
と、小さな声でつぶやいた。
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