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第15話 夏の日の少年
しおりを挟む 案内された部屋は、どう見てもケルローン騎士候の私室。
そりゃまあ、絶対安全だわ。ここが襲撃されるようだったらこの砦は終わりよね。
そんな訳でベッドに入る。とにかく疲れたわ。
ああ、なんだか懐かしい。
今までもクラウシェラが寝ている時はそんな感覚もあったけど、やっぱり生身で感じると違うわねー。
同時に、ここがやっぱりリアルな世界なんだと再認識。
あたしってば、よくあそこで吐いたり気を失ったりしなかったわね。
生まれて初めて人を殺めた。
もちろんそうしなければ、全員生きてはいなかった。
そうされる理由も――いやクラウシェラにはあるかもな—と思うけど、少なくともあたしには無い。
様子から見て、アリアンも無かったと思う。
でも、それは頭では分かっていても、実際に焼け焦げた人を見た時は内心恐怖に震えた。
それなのにああしていられたのは、多分だけどあの時のあたしがクラウシェラだったから。
何度もゲームで対峙し、その強さに憧れた。
分かりやすい悪役だったけど、それでも何度も戦いたい欲求を抑えられなかった。
高難易度というだけあって、それはもう本当に凄かったんだから……。
▼ ▲ ▼
「……それで、これはどういう事なのか説明してもらえるかしら?」
「ん? え? ほえ?」
「馬鹿面に磨きがかかっているわよ。シャンとしなさい!」
「あ、あれ? クラウシェラ!?」
「やっとまともになったのね。なんかこんな変な空間に閉じ込められるし、誰もいないし、ようやく貴方が来たと思ったらぐーすか寝ているし。一体どうなっているのよ」
「えっと、どうなっていると言われても……」
確かに此処はいつもあたしがいる空間。
だけどいつもと違う。本当に真っ暗で、互いの姿しか見えないわ。
いつもはクラウシェラが寝ていても、外の様子を見る事が出来たのに。
というか、あたしの考え――は、さっきの様子だと読まれていないわね。まずは一安心だわ。
「まだ腑抜けた顔ねえ。昔はもっと年上っぽい感じだったけど」
「かなり追い付かれちゃったかな。あたしの姿は変わらないから」
「そう……それで、ここはどこなの?」
「どこって、クラウシェラの中だよ。あたしはずっとここに住んでいるの」
「憑いているでしょ。それはそうとして、こんなに暗い所に? 上も下も無い様な変な感覚の所に? ずっと? よく耐えられるわね。やっぱり精霊は人間とは精神構造が違うのかしらね。というよりも、ここからどうやってあたしや周りの様子を知る事が出来たのよ」
紙は降って来ない。
でも、クラウシェラはいつもより饒舌だ。
ちょっと焦っている? まあアレからずっと閉じ込められていたとしたら、気持ちは分からないでもない。
あたしも慣れるにはちょっと時間がかかったし。
ただ慣れる前にオーキスの事件があったしね。それどころじゃなかったわ。
それに、外も見る事が出来たし。
「まあ落ち着いて。ここからは朝には出ていると思う。その時はもういつもの貴方よ」
まあそれで戻らなかったらあたしが困る。
でも感覚的に分かるわ。今は入れ替わりの最中。元に戻りつつあるって事ね。
「だから今の内に説明しておくわ。方法は分からないけど、相手はクラウシェラの力を封じるアイテムを持っていたの」
「そう……ある事は知っていたけど、持っていたとなると……」
「ええ。全部知っていて、貴方の命を狙ってきた」
「それにあれは正規軍。そんじょそこらのチンピラじゃないわ。今回の一件、さすがに不問にするわけにはいかないわね。当然騎士候は一族郎党――」
クラウシェラが言い淀むのは珍しい。
ゲームじゃ絶対に見なかったわね。
でも、その理由もわかる。
「今回の一件は、ケルローン騎士候は関わっていないわ」
「まあそうでしょうね。でもそれとこれとは――」
「大ありよ。あたし……コホン。精霊の立場で言わせてもらうわね。貴方の力を封じるアイテムなんて、この世にホイホイとある物じゃないの」
「そりゃあそうでしょうよ」
「そんな物を用意できる相手。それはもう、ケルローン騎士候の力が及ぶ相手じゃないわ。そんな相手がいるのに、ここで立場にこだわって味方どうして潰し合っている状態じゃないの」
「こだわっているわけじゃ……いいえ、そうね……考えてみればそうだわ。騎士候が敵だったら、こんなものじゃすまない。それに貴方の言う通り、わたくしの敵は、相当に頭が切れ、用意周到で、それが出来る権力や財力、それに公爵家さえ知らない知識がある」
「ええ、大きすぎる相手だわ。正体なんて見当もつかない。ここにもその敵の一部が侵入……じゃないわよね。最初からいた。今後も何処に潜んでいるか分からないわ。でも、今回の事でここでの敵と味方は判別出来たのよ。小さいかもしれないけど、とても大きなことだと思うの。多分だけど、もう王様には連絡が向かっていると思う。ねえ、どうするの?」
「ふう……分かったわよ。万が一、王家から騎士候に何らかの処罰が下されるようなら、全力で止めれば良いのね」
「話が早くて助かるわ」
「それにしても……ふふ、今の言い様、まるでわたくしみたい」
「長く一緒に居て、一番身近で見て来たからね。それとなく影響されてきたのかしら」
そしてそれは、きっとクラウシェラにも当てはまる。
今の彼女は、ゲームとは別人だわ。
悪くなったんじゃない。相変わらず強く賢い。だけど、狂気よりも気高さを感じる。
「それはそれとして、敵は何人位捕らえたの? それにわたくしの力を封じるというアイテム。それは徹底的に調べなければいけないわ。どんな代物なのか。何処で作られたのか。誰が作ったのか。もちろんご丁寧にそんな事は書いていないでしょうけど、どんな些細な特徴でも、調べていけば分かるものよ。それに捕らえた敵の情報も合わせれば……ん
? そもそも、どうやってあの状況を切り抜けたの? 援軍が間に合うような状況じゃなかったと思うけど。そもそもオーキスは何をしていたのよ!」
やばい、本来のクラウシェラに戻って来た。
「ええとですね、敵はその……全滅しちゃった。それとアイテムだけど、持っていた人が炭になってその……溶けちゃった」
「貴方何をしているのよ!」
怒声と共に、散々に説教された。
そりゃまあ、絶対安全だわ。ここが襲撃されるようだったらこの砦は終わりよね。
そんな訳でベッドに入る。とにかく疲れたわ。
ああ、なんだか懐かしい。
今までもクラウシェラが寝ている時はそんな感覚もあったけど、やっぱり生身で感じると違うわねー。
同時に、ここがやっぱりリアルな世界なんだと再認識。
あたしってば、よくあそこで吐いたり気を失ったりしなかったわね。
生まれて初めて人を殺めた。
もちろんそうしなければ、全員生きてはいなかった。
そうされる理由も――いやクラウシェラにはあるかもな—と思うけど、少なくともあたしには無い。
様子から見て、アリアンも無かったと思う。
でも、それは頭では分かっていても、実際に焼け焦げた人を見た時は内心恐怖に震えた。
それなのにああしていられたのは、多分だけどあの時のあたしがクラウシェラだったから。
何度もゲームで対峙し、その強さに憧れた。
分かりやすい悪役だったけど、それでも何度も戦いたい欲求を抑えられなかった。
高難易度というだけあって、それはもう本当に凄かったんだから……。
▼ ▲ ▼
「……それで、これはどういう事なのか説明してもらえるかしら?」
「ん? え? ほえ?」
「馬鹿面に磨きがかかっているわよ。シャンとしなさい!」
「あ、あれ? クラウシェラ!?」
「やっとまともになったのね。なんかこんな変な空間に閉じ込められるし、誰もいないし、ようやく貴方が来たと思ったらぐーすか寝ているし。一体どうなっているのよ」
「えっと、どうなっていると言われても……」
確かに此処はいつもあたしがいる空間。
だけどいつもと違う。本当に真っ暗で、互いの姿しか見えないわ。
いつもはクラウシェラが寝ていても、外の様子を見る事が出来たのに。
というか、あたしの考え――は、さっきの様子だと読まれていないわね。まずは一安心だわ。
「まだ腑抜けた顔ねえ。昔はもっと年上っぽい感じだったけど」
「かなり追い付かれちゃったかな。あたしの姿は変わらないから」
「そう……それで、ここはどこなの?」
「どこって、クラウシェラの中だよ。あたしはずっとここに住んでいるの」
「憑いているでしょ。それはそうとして、こんなに暗い所に? 上も下も無い様な変な感覚の所に? ずっと? よく耐えられるわね。やっぱり精霊は人間とは精神構造が違うのかしらね。というよりも、ここからどうやってあたしや周りの様子を知る事が出来たのよ」
紙は降って来ない。
でも、クラウシェラはいつもより饒舌だ。
ちょっと焦っている? まあアレからずっと閉じ込められていたとしたら、気持ちは分からないでもない。
あたしも慣れるにはちょっと時間がかかったし。
ただ慣れる前にオーキスの事件があったしね。それどころじゃなかったわ。
それに、外も見る事が出来たし。
「まあ落ち着いて。ここからは朝には出ていると思う。その時はもういつもの貴方よ」
まあそれで戻らなかったらあたしが困る。
でも感覚的に分かるわ。今は入れ替わりの最中。元に戻りつつあるって事ね。
「だから今の内に説明しておくわ。方法は分からないけど、相手はクラウシェラの力を封じるアイテムを持っていたの」
「そう……ある事は知っていたけど、持っていたとなると……」
「ええ。全部知っていて、貴方の命を狙ってきた」
「それにあれは正規軍。そんじょそこらのチンピラじゃないわ。今回の一件、さすがに不問にするわけにはいかないわね。当然騎士候は一族郎党――」
クラウシェラが言い淀むのは珍しい。
ゲームじゃ絶対に見なかったわね。
でも、その理由もわかる。
「今回の一件は、ケルローン騎士候は関わっていないわ」
「まあそうでしょうね。でもそれとこれとは――」
「大ありよ。あたし……コホン。精霊の立場で言わせてもらうわね。貴方の力を封じるアイテムなんて、この世にホイホイとある物じゃないの」
「そりゃあそうでしょうよ」
「そんな物を用意できる相手。それはもう、ケルローン騎士候の力が及ぶ相手じゃないわ。そんな相手がいるのに、ここで立場にこだわって味方どうして潰し合っている状態じゃないの」
「こだわっているわけじゃ……いいえ、そうね……考えてみればそうだわ。騎士候が敵だったら、こんなものじゃすまない。それに貴方の言う通り、わたくしの敵は、相当に頭が切れ、用意周到で、それが出来る権力や財力、それに公爵家さえ知らない知識がある」
「ええ、大きすぎる相手だわ。正体なんて見当もつかない。ここにもその敵の一部が侵入……じゃないわよね。最初からいた。今後も何処に潜んでいるか分からないわ。でも、今回の事でここでの敵と味方は判別出来たのよ。小さいかもしれないけど、とても大きなことだと思うの。多分だけど、もう王様には連絡が向かっていると思う。ねえ、どうするの?」
「ふう……分かったわよ。万が一、王家から騎士候に何らかの処罰が下されるようなら、全力で止めれば良いのね」
「話が早くて助かるわ」
「それにしても……ふふ、今の言い様、まるでわたくしみたい」
「長く一緒に居て、一番身近で見て来たからね。それとなく影響されてきたのかしら」
そしてそれは、きっとクラウシェラにも当てはまる。
今の彼女は、ゲームとは別人だわ。
悪くなったんじゃない。相変わらず強く賢い。だけど、狂気よりも気高さを感じる。
「それはそれとして、敵は何人位捕らえたの? それにわたくしの力を封じるというアイテム。それは徹底的に調べなければいけないわ。どんな代物なのか。何処で作られたのか。誰が作ったのか。もちろんご丁寧にそんな事は書いていないでしょうけど、どんな些細な特徴でも、調べていけば分かるものよ。それに捕らえた敵の情報も合わせれば……ん
? そもそも、どうやってあの状況を切り抜けたの? 援軍が間に合うような状況じゃなかったと思うけど。そもそもオーキスは何をしていたのよ!」
やばい、本来のクラウシェラに戻って来た。
「ええとですね、敵はその……全滅しちゃった。それとアイテムだけど、持っていた人が炭になってその……溶けちゃった」
「貴方何をしているのよ!」
怒声と共に、散々に説教された。
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