伝説の男、黒崎天斗!

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伝説の男、黒崎天斗!第42話

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夏休みに突入し、連日の真夏の暑さに体が溶けてしまうのではと思ってしまう。この日の朝、炎天下の下で天斗と小山内は合流してこの暑さに恨めしい表情で愚痴っていた。

「暑いなぁ…何でこんなに暑いんだろ…」

「あぁ…温暖化とは言うがこれからもっともっと暑くなって行くんだろうなぁ…」

「こんな暑い日は海で思いっきり泳ぎてぇよなぁ…」

「海?いいね!海行こうよ!」

「行こうよって…この辺海なんてねぇじゃん…」

「黒ちゃん!こういう時こそ親を遣わないでいつ遣うんだよ!」

「いつって…親は基本そんな風に遣うもんじゃないと思うけど…」

「早速かおりちゃんと母ちゃんに聞いてみるわ!」

「それなら理佳子も誘いたいけどな…」

「わかった!じゃあ、理佳子ちゃん呼んで行こうよ!」

「いやいや、そんな急に理佳子呼べるわけないだろ…」

「だから、行きに拾って行けば良いんだろ?どうせ理佳子ちゃん家方面通るんだし…」

「あっ、そうか!それもそうだな…」

そして小山内は吟子に電話して海に連れて行ってくれるように頼む。吟子は快く承諾した。薫も大喜びし、理佳子もまた天斗と会える口実に大はしゃぎしていた。吟子が運転するワンボックスカーに揺られ一行は海水浴場に到着する。
薫が車から降りて

「んー、潮の香りがするぅ~!」

理佳子も続いて降りてきて

「海なんて久しぶり~!」

「やっぱり海の風は良いよな」

天斗が言った。

「よーし!早速着替えて海に入ろう!」

小山内も張りきっている。海水浴場は小さい子供達を連れた家族でひしめき合っていた。その中でも若い女性や男性達も多く見られ、ビキニ姿のギャル達が波にのまれキャーキャーと黄色い声を上げている。天斗達も全員水着に着替えて海へ向かって歩く。
理佳子は細かいフリルの沢山付いた、オレンジ色の可愛いワンピースの水着に着替えて現れた。色白の肌が更に透明感を引き立てる。
り…理佳子…お前…メチャクチャヤバイぞ…周りの男達がみんなチラチラ見てる…ダメだよ…そんな…可愛すぎる…
かおりん…かおりんのビキニ姿可愛い~!ちょっとお尻くい込んでるぞ…り…理性が…
薫はモスグリーンのビキニを着て肌を露出している。薫もまた若く綺麗な肌と肢体を覗かせ男達の理性を狂わせる。

「よし!みんな海に飛び込もう!」

そう言って小山内は全力で海の方へ走りザバザバァーっと勢いよく入って腰まで浸かる。おぉ~危ねぇ~…俺の下半身の一部が急激に変化してヤバイことになるとこだった~!小山内はその下半身を隠すために急いで海に入ったのだった。

「お前、張り切り過ぎだよ…心臓麻痺起こすぞ…」

「早く来いよ!気持ちいいぞ!」

理佳子と薫は波打ち際で足に海水の冷たさを感じてキャーキャー言っている。

「気持ちいいねぇ理佳!」

「うん、もう何年も海に来てないからすっごく嬉しい!」

「ねぇ、清!一緒に砂に埋まろ?」

「か…かおりちゃん…今はちょっと…そっちに行けないんだよ…」

「どうして?早く来てよ…」

かおりん…君はなんて罪深い女なんだ…君のせいで俺は今海から上がれないって言うのに…小山内は薫の身体に釘付けになり、更に下半身がおさまるのに時間がかかっていた。
あいつ…やっぱりバカなのか?天斗はそれを察して笑っていた。

「清~!早く~!」

かおりん…それ以上俺を挑発しないでくれ…

吟子はサングラスをかけ、上は白いTシャツ、下はショートパンツ姿で薄いTシャツに下着が透けて見える。元々美人系な吟子はとても高校生の息子が居るとは思えない程のプロポーションを保っていた。砂浜ではしゃぐ薫を見て思わず笑みがこぼれる。あの娘ほんと無邪気…まるで小さい子供みたい!可愛いねぇ~…吟子は薫に心から愛情を注いでいた。まるで本当の娘のように。吟子は持ってきたパラソル付のキャンピングチェアに足をくんで座っている。そして吟子の妖艶な姿に若い男達もまた釘付けになっていた。
薫が

「お母さーん!」

吟子に向かって大きく手を振っている。吟子もそれに応え大きく振り返す。かおりん…何故あなたは私の娘として産まれて来てくれなかったの?小さい頃からあなたを育ててあげたかったわ…可哀想なかおり…出会うのがもっと早ければ…吟子は薫の心情を考えると思わず胸に込み上げてくるものを感じた。ただ懐いてくれるから可愛いという訳ではない。母の愛を知らずに育った薫が、一心に吟子にその愛情を求める姿が不憫でならないのだ。清にも感謝だね…こんなに良い娘に巡り合わせてくれて…お前も幸せ者だよ…あの子はきっと家庭を大切にする!お前にはこれ以上無いってくらい良い女だよ…吟子はまだ薫の父がまさか矢崎拳だとも知らずに早く嫁に来て欲しいと切に願うのであった。

「お母さん!すっごく楽しかった!ありがとう!」

「おばさんありがとうございます。私も凄く楽しかったです!」

理佳子も大はしゃぎだ。

「そうかい、そうかい!そりゃ連れてきた甲斐があったよ。そうだ!帰りは新鮮な魚介類でも食べて帰ろうか!」

「やった!母ちゃん出っ腹!」

「清…私のどこが腹出てるってんだい?」

「お母さんって…凄く綺麗…スタイル抜群!」

吟子は嬉しそうに

「あら、あんた今のポイント高いよ~!よし!お母さん奮発しちゃう!何でも好きなもの食べな!」

「いや、でも…小山内の母さんほんと綺麗…」

「うん、おばさん綺麗です!」

だんだん吟子も恥ずかしくなり

「もうわかったわかった、ありがとう!さ、ご飯食べに行くから着替えて!」

照れ隠しにそう言った。四人が着替えに行ってる間、吟子も帰り支度をしていたが、若者から中年、はたまた年配のおじさんまでが吟子の姿をチラチラ見ながら通り過ぎていくのであった。
まだまだ私も捨てたもんじゃないのかねぇ…男達の熱い視線を感じて吟子はまんざら悪い気はしていない。全員準備が出来て車に乗り込んだ。

「母ちゃん、良かったな!さっき若い男達が母ちゃんの噂してたぞ!」

「何て?」

「メチャクチャ綺麗な女だったって…」

「フッ…もう一花咲かせようかな?」

「母ちゃんそれは無理!」

「あ?」


この日、理佳子と天斗がそれぞれ家に帰り風呂に浸かって一段落してから、天斗から理佳子に電話をかけた。

「もしもし?理佳子?」

「うん」

「今日は楽しかったな!」

「うん、凄く楽しかった!」

「重森だけど…」

「うん」

「あいつ凄く変わったよな?」

「そうだねぇ…小山内君のお母さんにあんなに懐くなんてちょっとビックリ!」

「だろ?俺のあいつのイメージは人見知りで、人とは深く関わりたがらない、冷めたイメージだったんだけどな…」

「うーん…薫はあの事件をキッカケに心を閉じちゃったんだよね…」

「そうなのか…」

「もともとあんまり活発な子じゃ無かったんだけど、大人に対してあんなに心を開くことは最初から無かったと思う…」

「なるほど…」

「きっと薫…母親の愛情に飢えてたから、小山内君のお母さんと凄く相性が合って居心地良いんだと思うの」

「確かに小山内の母さん元ヤンですって感じだもんな…」

「うん、それにあのお母さんの薫を見る目が、凄く優しかった。あのお母さんも薫を可愛く思ってるんだなぁ~って…」

「そうか…小山内がかおりの帰る場所だぞって言ってたのが解るわ」

「薫ね…口には出したことが無いけど、いつも淋しそうだった。私のお母さんも薫には凄く甘えさせてたんだけど…あんなに慕ってるって感じが無かったもん…きっと私のお母さんであって、自分のお母さんじゃないからって、どこか線を引いてたんだと思う…ずっと甘えられるお母さんが欲しかったんだよね…」

「なるほどね」

「ところでたかと君?この間の件…まだ何も聞いて無いけどどうなったの?ちゃんと約束は守ってくれた?」

「ん…んん…大丈夫だよ…ちゃんと俺達生きてる…」

やっぱりね…でも…今回のことはたかと君を止めても、多分薫が黙ってられなかったんだろうから…たかと君を責めるのはかわいそうだよね…

「たかと君…ありがとう…」

「え?あ…あぁ…」

天斗は拍子抜けした。てっきり理佳子から説教を喰らうと覚悟してたからだ。

「薫を止めてくれてありがとう…私…凄く心配だったの…薫のことは全部手に取るようにわかるから…解りすぎるからむしろ辛かった…でも、今日薫の表情見て安心したの…もう過去から卒業出来たんだって…」

「そうだな…確かにあの時思い止まったのがその答えだな…小山内が身を呈して重森を闇から救いだしたんだと思うよ…あいつの器は底が無いからな…」

「薫…幸せになれそうで良かった…ずっと心配してたもん…もう二度と人を好きになることは無いんじゃないかって…薫の過去は…色々と複雑だから…助けてあげたかった…」

「理佳子…」

理佳子は薫の母親が失踪したことは知っているが、その理由までは聞かされていない。当然矢崎拳が父親だとは知っているが、その人物の過去は全く知らない。それはまた、別の話…


夏休みも中盤、薫は自分の家と小山内家とを行ったり来たりする二重生活が続いた。吟子はいつも薫に対して愛情深い目で見つめた。薫もそれに気付き、吟子を心から慕った。そんなある日、兄矢崎透が珍しく仕事を早めに切り上げて帰って来た。

「兄ちゃんお帰り~」

薫は自分の部屋から顔を出して透にそう言った。

「お前…ほんと最近変わったな…なんか、すげぇ幸せそうな表情して…その小山内ってとこの家では随分と可愛がってもらってんだな?」

「うん、お母さんが凄く良くしてくれるから…だからいつかあの家に…」

薫は兄の心情を考えそれ以上言わなかった。自分の稼ぎで妹を高校に通わせる兄に薫は余計な心配をかけたくないからだ。しかし透は透で、薫の幸せを誰よりも願ってやまない。薫が幸せならば、薫自身が信じて選んだ相手を受け入れてやるつもりだった。

「なあ、薫…今度そいつ連れてこいよ…どんな奴がお前のその心を溶かしたのか見たくてよ」

「兄ちゃん…うん!わかった!きっと兄ちゃんも気に入ってくれると思うよ!だって、清は…彼は究極の愛の戦士だもん!」

「ハハハ、愛の戦士か…お前にそこまで言わせる程の器のデカイ男が居たとはな…てっきり黒崎に行くのかと思ってたよ…」

この透の言う黒崎は伝説と謳われた方の黒崎である。

「兄ちゃん…お母さんって覚えてる?」

薫…お前…今まで一度もそれを口にしたこと無かったのに…急にどうして?そうか…小山内家の母親がお前に感じさせたんだな…お前は我慢強いからずっと聞かずに来たけれど、やっぱり知りたいよな…

「薫…会ってみたいか?母さんに…」

「え?兄ちゃん知ってるの?お母さんの居場所!」

本当に知ってるの?そんな事一度も言ったことないじゃん…兄ちゃんずっと隠してたの?兄ちゃんはお母さんと会ってたの?どんな人…どんな顔…どんな声…知りたい…会えるなら会ってみたい…お母さん…お母さん…

「薫…すまない…ずっと黙っていて…いつか…お前からその言葉を切り出して来たら話そうと思ってた…母さんは…ずっとお前の成長を見てた…ずっと…お前のことを心配してたんだ…いつも…いつだって…だから…母さんはお前の全てを知ってる…」

え?え?お母さんが私のことを全部知ってる?どうして?どうして?じゃあ何で一度も私に会いに来てくれなかったの?何で一度も声をかけてくれなかったの?ずっとずっと淋しかったのに…ずっと抱き締めて欲しかったのに…てっきり…もう死んだのかとさえ思って…諦めてたのに…どうして今更そんな事言うの?それって…いつでも会おうと思えば会えたってことでしょ?そんなのないよ…そんなの…会いたい…よ…お母さん…
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