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伝説の男、黒崎天斗!第36話
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黒崎天斗と薫が初めて会ったのは薫が小学三年生の時だった。二人は学区が違ったため、小学校は違ったのだが、矢崎透がいじめっこに苛めに会っていた黒崎天斗を薫の元へ連れてきたことが始まりだった。矢崎透は小学六年生、薫や天斗とは随分体格に差が出ている。
「薫…こいつ…黒崎天斗だってよ!しかもお前と同級生だぞ!顔は似ても似つかねぇけど、面白い偶然だよな!」
「ふーん…また弱虫連れてきたの?兄ちゃん…」
「まぁ、そう言うな!世の中皆が皆、心が強い奴ばかりじゃないさ。お前、こいつ鍛えてやれよ!」
「えぇ!やだよ…私は弱虫大っ嫌いなんだってば!」
「わかんねぇぞ!こいつはもしかしたら化けるかもしれん!」
「兄ちゃんいつもそういうけど、みんなすぐに逃げだしちゃうじゃん!」
「そりゃお前のやり方の問題だろ?お前はやり過ぎるんだよ!」
「兄ちゃんが言うか…女の私をスパルタで鍛えといて…お嫁に行けなかったら一生恨むからね!」
「そんときはこいつに貰ってもらえ!」
そう言って透は大声で笑った。それから薫は毎日毎日黒崎天斗をスパルタで鍛えた。薫は兄から空手や合気道の手解きを受けていて、小学生なら男子でさえなかなか敵う者が居ないほど強くなっていた。そして天斗も薫の厳しい特訓に毎日毎日欠かさず付いていく。そして中学入学する頃には、薫も天斗も地元で有名過ぎるほど名を轟かせるほどに成長していた。天斗がこれほどまで熱心に薫の特訓に耐えたのにはある理由があった。
薫…俺は…お前のことが…それはずっとひた隠しにしてきた天斗の薫への想いだった。しかし、その日は突然…
「ねぇ…天斗…もし私がお嫁に行けなかったら…あんたどうする?」
「どうって…そりゃお前ほど男勝りだったらそれは不思議じゃ無いからな…笑ってやるよ…」
天斗は素直になれず薫に自分の気持ちを伝えることは出来なかった…
「フンッ!あっそ!笑うんだ…もう二度とあんたには聞かない!」
薫は強くなった天斗に少しずつ想いを寄せつつあったのだが、この一言で気分を害してしまった。薫はとても気性が荒く短気だったからだ。後にも先にも天斗が薫に告白出来るチャンスが訪れたのはこの時一度きりだった。もし…あの時…俺が素直に好きだって言えたなら…今頃お前のことを…あんなに淋しい想いはさせなかったのに…あんな悲しい目には…合わせなかったのに…薫…俺は今、死ぬほどあの時の事を後悔してるよ…もし時が戻せるのなら…絶対お前を…
天斗…今更なに?何を言おうとした?もう遅すぎるんだから…ずっと気付いてたのに…あんたの気持ち…だからあの時…なのにあんたは…バカだよ…いつもクール気取って、カッコ付けて…肝心なことは何も言ってくれなくて…私はいつも淋しかったんだから…いつも愛情が欲しかったんだから…
梅雨があけて一気に本格的な夏が到来した。連日のうだるような暑さの中、薫と小山内、そして天斗軍団なる仲間達がゾロゾロと学校を出て歩いている。
「ねぇ、清…今度知り合いがライブやるから一緒に行こ?」
「お!良いねぇ!行く行く!でもチケットは?」
「大丈夫!私と私が紹介する知り合いはみんな永久無料って約束だから!」
「マジか!あそこは人気あってなかなか入るのは難しいと言われてるのに…かおりちゃんはどんだけ顔が広いんだよ!」
「私の兄貴が色々オーナー助けたりしてきたから、顔パスで良いって話しになってるの」
「そっか…それは嬉しい!」
「たかとも行く?」
「ん?うーん、まぁタダなら行こうかな…」
「オッケー!じゃ今週の土曜日夜だよ。忘れないで」
「なんか最近の重森…すっかり丸くなっちゃったな…」
「黒ちゃん…どこに目を付けてんだよ!かおりちゃんはめちゃくちゃスマートだぞ!」
「いや…」
そう言いかけて面倒だから言うのを止めたのだが…
「小山内先輩!それは性格が角取れて穏やかになったという意味で…」
「あ?あぁ…そ…そんなのわかってるって!ギャ…ギャグだボケ!」
流石に後輩には良いところを見せたいらしく、自分のバカさ加減をすぐにギャグにすり替える…
「流石小山内先輩!オヤジギャグ炸裂っすね!」
「いいか、お前ら!男はカッコいいだけじゃダメなんだ!時には三枚目も円陣切ってこそ本当の男なんだ!」
「あの~…円陣じゃなくて…演じきってだと思いますけどぉ~…」
「お…お前…今の良いぞ…そのツッコミの速さ…それが大事だ!ちゃんとメモっとけ!」
「はい!先輩!」
俺は小声で…
「重森…このままじゃ後輩達がみんな小山内に染められてバカ集団になりそうだぞ!」
「そこは…あんたがフォローしてよ!」
薫もヒソヒソと囁く。
「お前がしつけろよ!」
「私は小山内を甘やかす役だから!」
ここまでは小声で話す二人だったが…
「あぁ?お前が保護者みたいなもんだろ!」
「清を子供扱いすんなよ!」
いきなりバトルが始まった二人を見て一同が止めに入る…
「黒ちゃん…かおりちゃん…どうしたんだよ…そんな大声で喧嘩して…大人気ないよ?」
「お前が言うな!」
「清が言うな!」
二人がハモった。薫先輩…黒崎先輩…この人の世話は大変なんだろうなぁ…後輩達はちゃんと小山内の伝説のバカさを理解していた。天斗と薫の気苦労は取り越し苦労となるのであった。
「かおりちゃん…この可愛い後輩達はどうする?」
後輩達は期待に胸を膨らませた表情で必死に薫に訴えかけている。
「わかった、わかった…あんた達のことも頼んでおくから…その代わり!これ以上増やすなよ!」
ここはライブハウス会場、若者…特に十代の学生に大人気な場所だった。
「あ!薫ちゃん!いらっしゃい。入って入って!」
そう言って薫を中へ案内するのは、ここのオーナーの息子だった。
「ありがとう、今日は悪いけど沢山連れてきちゃった…」
「大丈夫!薫ちゃんのお友達なら何人だって大歓迎!」
「ありがとう、みんな入って良いって!」
天斗軍団一行はゾロゾロと中へ通された。会場の中は大音量と熱気に包まれていて、ライブが始まる前から若者達は踊って騒いでの大盛り上がりだった。薫はVIP席に案内される。
「ここは特別席だから!」
「お前…いつもこうなのか?」
「そうだよ…」
「かおりちゃんスゲェ!」
かなり大きな声で喋らないとなかなか会話にならない。急に大歓声が上がりステージには四人のバンドが姿を現す。
「やぁ!みんな!今宵は俺達の為に集まってくれてありがとう~!」
ワァーーーーー!
「今夜もお前達全員を夢の世界に連れてくぜぇ~!」
ワァーーーーー!
「まず始めに、この曲を恋する彼氏彼女達に捧げます!」
ヴォーカルがマイクを通して話し、ノリノリの曲が始まった。場内は盛り上がりを見せ、曲に酔いしれながら会場の観客は身体を揺らす。そして一人の影が小山内の元へ近寄ってくる。それは…片桐だった。片桐と言えば、小山内の軍師と呼ばれた非常に計算高い男で、小山内との考え方の違いで今は対抗勢力だった橋本の元に身を寄せている男だ。片桐が小山内の後ろから肩をポンと叩きジェスチャーでこっちへ来てと誘う。小山内は一瞬驚いたが、片桐の後を追って歩きだす。薫はその姿を黙って見送っていた。会話が出来る静かな場所まで移動して片桐が話し出す。
「なぁ、最近ちょっと耳にした噂でな…過去に黒崎達と乱闘事件起こした安藤って奴が居てさ…人を刺して殺した罪でネンショウ(少年院)にぶちこまれた奴なんだけど、仮退院で一時的に出られたって噂聞いてな…それがどうも…あのメチャクチャ強い女いるだろ?お前の女…あれの元カレが殺されたっていう話しらしくて…名は武田剛…黒崎の側近って話だ…それと…お前の相棒は伝説の黒崎じゃなくて影武者の方だったって知ってたか?」
その時小山内は、前に薫から聞いた話を思い出した。最愛の人を亡くした…絶対に死なないでというフレーズ…かおりちゃんからしたら仇になる男か…それと、黒ちゃんが影武者…何となくそんな気はしてたが…別にそこはどうでもいい…
「その安藤ってのがクレイジーな奴でな…黒崎とその女にも逆恨みで根に持ってるらしいんだ…一応報せておきたいと思ってさ…」
「片桐、悪いな!それは凄く良い情報だぞ!」
片桐は照れて頭を掻きながら
「せめてもの罪滅ぼしっつーか…こんなことしか俺にはしてやれなくてよ…でも、何かあったら俺達はお前らを全力サポートするつもりだから…」
「悪ぃな…そんときは頼むわ!」
「おぅ、いつでも声かけてくれよな!」
そう言って二人は握手を交わす。そのまま片桐は出口の方へと歩いていった。小山内は薫の元へと戻る。
薫は戻ってきた小山内を心配そうに見守る。小山内は何か神妙な面持ちで席に座っている。
「清、何があったの?」
大声で叫んだ。それで何とか聞こえるほどだ。
「後で話すよ…」
小山内も大きな声で言ったが、どこか元気がない」
「良いから教えてよ!」
その時急に曲が終わりピタッと静まり返った瞬間に小山内が
「安藤って奴が…」
大きな声でその名を口にしてしまった…当然シーンとなったタイミングで安藤の名前を大声で叫んだので周囲の人達の視線が一斉に薫と小山内に向けられた。ヤベッ!デカイ声で喋っちまった…薫の表情がみるみる険しくなっていく。安藤…安藤…安藤…安藤…安藤…!あいつがなに?もしかして…戻ってきた?剛…私の最愛の人、剛…返せ…返せ~…安藤…安藤…殺してやりたい…殺してやりたい…薫は一瞬にして怒りの感情に呑まれ身体が震え出した。
「か…かおり…ちゃん?」
既にマイクでヴォーカルが次の曲案内をしながらしゃべっているので小山内の声は薫には届かない。薫は清の手首を掴んで引っ張っていく。その無意識の力は恐ろしいほど強く、手首が折れてしまうのではと小山内が心配するほどだった。二人は先ほど片桐と小山内が話していた場所に出てきた。
「清…安藤がどうしたって?」
薫の顔は鬼のような表情になっている。
「かおり…ちゃん…落ち着いて聞いてね…」
「落ち着いてるよ!」
語気がかなり強く、とても落ち着いているようには感じられない…」
「安藤って奴が…仮退院で出てきてるって片桐が…それで…黒ちゃんと…かおりんを…狙ってくるんじゃ無いかって…」
薫は下を向いて全身を震わせている…両手も固く拳を握ってブルブルと震えている。怒りの頂点に達したと小山内は感じた。今の薫にとてもかけられる言葉が見つからない…
「清………悪いけど先に帰る…皆には具合悪くなったと伝えといて…ごめん…」
その言葉は静かで穏やかだったが、その中でくすぶっている怒りはとても抑えきれていない。
「あ…あの…送ってくよ…」
「いいから…一人にして…ごめんね…」
小山内はとてもこれ以上何も言える空気でもないと悟り、わかったと一言だけ言った。
薫はクルッと小山内に背を向けうつ向いたままゆっくりと歩いて行ってしまった。すぐに小山内は天斗の元へと戻り事情を話す。
天斗と小山内は二人で席を外し会場の外に出る。
「なるほど…重森にそんな過去があったのか…しかし…アイツを一人にしたのはまずかったな…あの気性の荒い重森だ…怒りに呑まれ一人でどんな無茶をするか…小山内、とりあえずアイツの家に行こう…アイツの身が心配だ…」
「じゃ、とりあえずあいつらに声かけてくるわ!」
そう言って小山内は天斗軍団なる一行の元へと戻っていく。その時天斗の側に一人の男が近づいてきた。
「ヨッ、あんたが伝説の黒崎って人だろ?」
「………あんたは?」
天斗は見ず知らずの男に自分のことだと思われる名前を出されて警戒している。
「ここに来れば色々と情報交換出来るって聞いたからちょっと立ち寄ってみたんだけど…あんた有名人だからさ…」
普通名前を知ってたとしても、顔まではわかるもんじゃねぇよな…誰なんだコイツは…
「薫…こいつ…黒崎天斗だってよ!しかもお前と同級生だぞ!顔は似ても似つかねぇけど、面白い偶然だよな!」
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「えぇ!やだよ…私は弱虫大っ嫌いなんだってば!」
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「兄ちゃんいつもそういうけど、みんなすぐに逃げだしちゃうじゃん!」
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「そんときはこいつに貰ってもらえ!」
そう言って透は大声で笑った。それから薫は毎日毎日黒崎天斗をスパルタで鍛えた。薫は兄から空手や合気道の手解きを受けていて、小学生なら男子でさえなかなか敵う者が居ないほど強くなっていた。そして天斗も薫の厳しい特訓に毎日毎日欠かさず付いていく。そして中学入学する頃には、薫も天斗も地元で有名過ぎるほど名を轟かせるほどに成長していた。天斗がこれほどまで熱心に薫の特訓に耐えたのにはある理由があった。
薫…俺は…お前のことが…それはずっとひた隠しにしてきた天斗の薫への想いだった。しかし、その日は突然…
「ねぇ…天斗…もし私がお嫁に行けなかったら…あんたどうする?」
「どうって…そりゃお前ほど男勝りだったらそれは不思議じゃ無いからな…笑ってやるよ…」
天斗は素直になれず薫に自分の気持ちを伝えることは出来なかった…
「フンッ!あっそ!笑うんだ…もう二度とあんたには聞かない!」
薫は強くなった天斗に少しずつ想いを寄せつつあったのだが、この一言で気分を害してしまった。薫はとても気性が荒く短気だったからだ。後にも先にも天斗が薫に告白出来るチャンスが訪れたのはこの時一度きりだった。もし…あの時…俺が素直に好きだって言えたなら…今頃お前のことを…あんなに淋しい想いはさせなかったのに…あんな悲しい目には…合わせなかったのに…薫…俺は今、死ぬほどあの時の事を後悔してるよ…もし時が戻せるのなら…絶対お前を…
天斗…今更なに?何を言おうとした?もう遅すぎるんだから…ずっと気付いてたのに…あんたの気持ち…だからあの時…なのにあんたは…バカだよ…いつもクール気取って、カッコ付けて…肝心なことは何も言ってくれなくて…私はいつも淋しかったんだから…いつも愛情が欲しかったんだから…
梅雨があけて一気に本格的な夏が到来した。連日のうだるような暑さの中、薫と小山内、そして天斗軍団なる仲間達がゾロゾロと学校を出て歩いている。
「ねぇ、清…今度知り合いがライブやるから一緒に行こ?」
「お!良いねぇ!行く行く!でもチケットは?」
「大丈夫!私と私が紹介する知り合いはみんな永久無料って約束だから!」
「マジか!あそこは人気あってなかなか入るのは難しいと言われてるのに…かおりちゃんはどんだけ顔が広いんだよ!」
「私の兄貴が色々オーナー助けたりしてきたから、顔パスで良いって話しになってるの」
「そっか…それは嬉しい!」
「たかとも行く?」
「ん?うーん、まぁタダなら行こうかな…」
「オッケー!じゃ今週の土曜日夜だよ。忘れないで」
「なんか最近の重森…すっかり丸くなっちゃったな…」
「黒ちゃん…どこに目を付けてんだよ!かおりちゃんはめちゃくちゃスマートだぞ!」
「いや…」
そう言いかけて面倒だから言うのを止めたのだが…
「小山内先輩!それは性格が角取れて穏やかになったという意味で…」
「あ?あぁ…そ…そんなのわかってるって!ギャ…ギャグだボケ!」
流石に後輩には良いところを見せたいらしく、自分のバカさ加減をすぐにギャグにすり替える…
「流石小山内先輩!オヤジギャグ炸裂っすね!」
「いいか、お前ら!男はカッコいいだけじゃダメなんだ!時には三枚目も円陣切ってこそ本当の男なんだ!」
「あの~…円陣じゃなくて…演じきってだと思いますけどぉ~…」
「お…お前…今の良いぞ…そのツッコミの速さ…それが大事だ!ちゃんとメモっとけ!」
「はい!先輩!」
俺は小声で…
「重森…このままじゃ後輩達がみんな小山内に染められてバカ集団になりそうだぞ!」
「そこは…あんたがフォローしてよ!」
薫もヒソヒソと囁く。
「お前がしつけろよ!」
「私は小山内を甘やかす役だから!」
ここまでは小声で話す二人だったが…
「あぁ?お前が保護者みたいなもんだろ!」
「清を子供扱いすんなよ!」
いきなりバトルが始まった二人を見て一同が止めに入る…
「黒ちゃん…かおりちゃん…どうしたんだよ…そんな大声で喧嘩して…大人気ないよ?」
「お前が言うな!」
「清が言うな!」
二人がハモった。薫先輩…黒崎先輩…この人の世話は大変なんだろうなぁ…後輩達はちゃんと小山内の伝説のバカさを理解していた。天斗と薫の気苦労は取り越し苦労となるのであった。
「かおりちゃん…この可愛い後輩達はどうする?」
後輩達は期待に胸を膨らませた表情で必死に薫に訴えかけている。
「わかった、わかった…あんた達のことも頼んでおくから…その代わり!これ以上増やすなよ!」
ここはライブハウス会場、若者…特に十代の学生に大人気な場所だった。
「あ!薫ちゃん!いらっしゃい。入って入って!」
そう言って薫を中へ案内するのは、ここのオーナーの息子だった。
「ありがとう、今日は悪いけど沢山連れてきちゃった…」
「大丈夫!薫ちゃんのお友達なら何人だって大歓迎!」
「ありがとう、みんな入って良いって!」
天斗軍団一行はゾロゾロと中へ通された。会場の中は大音量と熱気に包まれていて、ライブが始まる前から若者達は踊って騒いでの大盛り上がりだった。薫はVIP席に案内される。
「ここは特別席だから!」
「お前…いつもこうなのか?」
「そうだよ…」
「かおりちゃんスゲェ!」
かなり大きな声で喋らないとなかなか会話にならない。急に大歓声が上がりステージには四人のバンドが姿を現す。
「やぁ!みんな!今宵は俺達の為に集まってくれてありがとう~!」
ワァーーーーー!
「今夜もお前達全員を夢の世界に連れてくぜぇ~!」
ワァーーーーー!
「まず始めに、この曲を恋する彼氏彼女達に捧げます!」
ヴォーカルがマイクを通して話し、ノリノリの曲が始まった。場内は盛り上がりを見せ、曲に酔いしれながら会場の観客は身体を揺らす。そして一人の影が小山内の元へ近寄ってくる。それは…片桐だった。片桐と言えば、小山内の軍師と呼ばれた非常に計算高い男で、小山内との考え方の違いで今は対抗勢力だった橋本の元に身を寄せている男だ。片桐が小山内の後ろから肩をポンと叩きジェスチャーでこっちへ来てと誘う。小山内は一瞬驚いたが、片桐の後を追って歩きだす。薫はその姿を黙って見送っていた。会話が出来る静かな場所まで移動して片桐が話し出す。
「なぁ、最近ちょっと耳にした噂でな…過去に黒崎達と乱闘事件起こした安藤って奴が居てさ…人を刺して殺した罪でネンショウ(少年院)にぶちこまれた奴なんだけど、仮退院で一時的に出られたって噂聞いてな…それがどうも…あのメチャクチャ強い女いるだろ?お前の女…あれの元カレが殺されたっていう話しらしくて…名は武田剛…黒崎の側近って話だ…それと…お前の相棒は伝説の黒崎じゃなくて影武者の方だったって知ってたか?」
その時小山内は、前に薫から聞いた話を思い出した。最愛の人を亡くした…絶対に死なないでというフレーズ…かおりちゃんからしたら仇になる男か…それと、黒ちゃんが影武者…何となくそんな気はしてたが…別にそこはどうでもいい…
「その安藤ってのがクレイジーな奴でな…黒崎とその女にも逆恨みで根に持ってるらしいんだ…一応報せておきたいと思ってさ…」
「片桐、悪いな!それは凄く良い情報だぞ!」
片桐は照れて頭を掻きながら
「せめてもの罪滅ぼしっつーか…こんなことしか俺にはしてやれなくてよ…でも、何かあったら俺達はお前らを全力サポートするつもりだから…」
「悪ぃな…そんときは頼むわ!」
「おぅ、いつでも声かけてくれよな!」
そう言って二人は握手を交わす。そのまま片桐は出口の方へと歩いていった。小山内は薫の元へと戻る。
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大声で叫んだ。それで何とか聞こえるほどだ。
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「か…かおり…ちゃん?」
既にマイクでヴォーカルが次の曲案内をしながらしゃべっているので小山内の声は薫には届かない。薫は清の手首を掴んで引っ張っていく。その無意識の力は恐ろしいほど強く、手首が折れてしまうのではと小山内が心配するほどだった。二人は先ほど片桐と小山内が話していた場所に出てきた。
「清…安藤がどうしたって?」
薫の顔は鬼のような表情になっている。
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「落ち着いてるよ!」
語気がかなり強く、とても落ち着いているようには感じられない…」
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薫は下を向いて全身を震わせている…両手も固く拳を握ってブルブルと震えている。怒りの頂点に達したと小山内は感じた。今の薫にとてもかけられる言葉が見つからない…
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その言葉は静かで穏やかだったが、その中でくすぶっている怒りはとても抑えきれていない。
「あ…あの…送ってくよ…」
「いいから…一人にして…ごめんね…」
小山内はとてもこれ以上何も言える空気でもないと悟り、わかったと一言だけ言った。
薫はクルッと小山内に背を向けうつ向いたままゆっくりと歩いて行ってしまった。すぐに小山内は天斗の元へと戻り事情を話す。
天斗と小山内は二人で席を外し会場の外に出る。
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「じゃ、とりあえずあいつらに声かけてくるわ!」
そう言って小山内は天斗軍団なる一行の元へと戻っていく。その時天斗の側に一人の男が近づいてきた。
「ヨッ、あんたが伝説の黒崎って人だろ?」
「………あんたは?」
天斗は見ず知らずの男に自分のことだと思われる名前を出されて警戒している。
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