伝説の男、黒崎天斗!

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伝説の男、黒崎天斗!第19話

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小清水信行(こしみずのぶゆき)、高谷耕介(たかやこうすけ)は小山内清の側近の主力メンバー。この二人は朝からブラブラと残り少ない夏休みをただ無駄に住宅街を歩いていた。

「高谷、今日は川で釣りでもしながらバーベキューでもやるか?」

「おっ!それいいな!じゃあみんな集めて準備していっぱい魚釣って肉も買い込んでやろうか?」

「良いねぇ!先ず、きよちゃんに聞いてみるか」

と、その時後ろからいきなり小清水の頭にガツーンという衝撃が走った。小清水はクラっと目が回り倒れこんだ。高谷は6人の見知らぬ男達に殴られ気を失う…

「た…か…や…」

小清水はぐるぐると目が回り身動きが取れない。高谷が連れていかれるのを目で追ったがすぐに意識を失ってしまった。
しばらくして小清水は目を覚ました。高谷…やべぇ…高谷が拐われちまった。きよちゃんになんて言やぁいいんだよ…アイツらもしかして…そうか…俺達の行動は監視されてる?他の仲間達にも早く連絡しなきゃ更に被害が拡大するかも知れねぇが…頭がメチャクチャ痛ぇ…しばらく小清水はその場に座り込んだ。きよちゃんの話では原の奴がまたトラブル持ち込んだとか言ってたが…きっとそれは口実の一つだろう…これは多分…裏切り者の片桐の策略に決まってる…ただの女絡みの嫉妬やそんなのなら俺達を単独で狙う理由がねぇからな…


「なぁ片桐、次は誰を狙うんだ?」

「そうだな…とにかく小山内の側近は手当たり次第に行くぞ。アイツの仲間全員潰してたっぷりと俺を捨てた恨みを晴らしてやらなきゃ気が済まねぇ」

片桐は元々小山内の仲間だったのだが、仲がこじれて片桐は仲間を抜けた。そしてずっと虎視眈々(こしたんたん)と復讐する機会を窺っていた。片桐はプライドが高く蛇のようにしつこい性格だ。二年から転校して自分の手足となる兵隊を集める為にはどんな労もいとわなかった。頭はキレ者で全てを自分の思いのままにしたい支配欲が非常に強い男なのだ。当時は小山内の元で右腕として権力を振るってきたが、小山内との方向性の違いから決別し裏切られたという逆恨みによる復讐に燃えることになったのだ。橋本達也(はしもとたつや)という番長的な男と打倒小山内で意気投合し側近まで登り詰めた片桐が原とのトラブルを口実にして全面戦争をけしかけることになった。


俺達がバカな言い合いをしてるとき小山内の携帯に着信、それはクラスメートの小清水、小山内の側近に当たる男だった。この男も小山内に比肩されるほどやる奴だ。

「もしもし、きよちゃん?高谷がアイツらに捕まって…どうしよう…」

かなり動揺してる。高谷は小山内の側近の一人でうちの学年で5本の指に入る強者だ。

「どこ連れてかれたかわかるか?」

「いや、それが俺達二人で道を歩いてたらいきなり後ろから何かで殴られてよぉ…5~6人で高谷が強引に拐われたから…」

「で、お前は大丈夫なのか?」

「あぁ、俺はそのまま意識失ってただけで大丈夫だったんだけど…恐らくアイツら少しずつ戦力削いでくる作戦なんじゃないかな?」

「なるほど…それでうちの主力ばかりやられてんのか…これはあまりもたもたしてらんねーな」

「小山内、奴らの溜まり場とかわかんねーのか?」

「んー…アイツらちょくちょくアジト変えるからよぉ…なかなか特定すんのは難しいんだわ…」

その時俺は閃いた!そうだ、重森この前佐々木日登美の件であの繁華街まで突き止めてた。もしかしたらあいつに頼めば意外とわかるかも知れねぇ…

「小山内!ちょっとお前の女借りるぞ!」

「はぁ!?何でお前理佳子ちゃんいる分際で俺の女寝取ろうとしてんだよ!」

「だから何でいつもそういう発想が生まれるんだよ…」

「俺だってまだキスしかしてねーんだよ!」

「悪ぃ…モンスターには興味ねぇわ…」

「だから誰がシュレックだこらぁ!」

誤解を招きかねない為に特筆しておくが、決して重森薫はシュレックのようにソーセージのような指でもなく、ちゃんと赤い血が流れていてナメック星人のように緑の肌でもない。背は157センチ、スタイルはやや細身、髪型は刈り上げショートのバランスの取れた普通の女子高生。オマケで胸はCカップの美乳…因みに顔は上の下くらいのやや平均を上回る。意外に女なんです!

「いや…言ってないし…それお前の心の声だろ?」

「で、かおりちゃん巻き込む気か?」

「いや、ちょっと頼みたいことがあるだけだ」

俺はそう言って重森に電話をかけた。

「もしもし重森、ちょっと頼みたいことがある」

「あぁ、来ると思った。高谷のことでしょ?小清水と高谷、奴らのリストに入ってたって」

いきなりズバリ言い当てた…やっぱりこいつただもんじゃねぇ…

「さっすがかおりちゃん!俺のテレパシーが届いたんだね?俺達通じ合ってんのかなぁ~」

小山内がまるでお花畑の中で花の香りに包まれているような幸せそうな顔をしてる。このアホ面を俺は放っておいて

「わかるか?アイツらのアジト」

「それは今調べてる。近々ウチと一戦交える為にかなり綿密に計画して行動してるね。奴らの中に参謀の片桐ってのが居るんだけど、こいつがかなりの策士!気を付けた方が良いよ…油断してると足元すくわれかねない」

「わかった、サンキュー!」

重森との電話を切って

「と、言う訳だ。ま、アジトがわかるのも時間の問題だろ…」

「なぁ、黒ちゃん…かおりちゃん…何で全部お見通しなんだ?もしかして…俺に盗聴器しかけてる?」

「んなわけあるか!」

小山内の妄想力に俺は脱帽する…それにしても随分とうちの動きに詳しい奴が居るみたいだな…うちの主力メンバーを知ってる上にその行動まで的確に掴める…これはもしかして…超能力者の仕業か?んなわけ…俺は小山内のバカさに看過されてきてるのかも知れない。

「なぁ小山内、何か変だと思わないか?」

「あぁ、俺もそれ思ってた。かおりちゃんが何故俺にキスして来たのか…」

「そこじゃねーよ!」

「あっ、何故俺のテレパシーが通じたのか!そこか?!」

「だから、んなわけ!アイツらやたらこっちの動きに詳しいってとこだよ。妙だと思わないか?お前の側近ばかり立て続けに狙われて、しかも行動だってバレバレみたいだし、もしかして…」

そう言って二人息ピッタリに同時に

「スパイ?」
「テレパシー?」

だ…ダメだこいつ…こいつにはやっぱりついていけない。二人同時に言ったときスパイシーみたいになっちまったもんな…お笑いコンビの漫才じゃないんだから、とても相棒としてやってく自信がない…

「なぁ小山内、何か心当たりないか?」

「うーん…超能力かぁ?」

「だからそっちじゃねーんだよ!」

「居るぞ!一人思い当たる奴が…」

「誰だ!」

「一年の時にな、仲間裏切りで締め上げた奴がいてな、そいつはそうとう頭切れる奴なんだよ。喧嘩は全然なんだが、あだ名が軍師と言われてた。その名は…」

小山内が少しもったいぶるので俺が先に

「片桐だろ?」

小山内は目玉が飛び出しそうなほど見開いて

「黒ちゃんが超能力者かぁーーーーー!」

「アホか…てことは…そいつが転校してそっちに居るってことか…そりゃあかなり厄介だな…」

「黒ちゃん…お前そっちの世界で食って行けるぞ!俺の思考全て読みやがった。まさかそんな才能が…」

だいたい今の話の流れでこういう展開はお決まりなんだよ…全く疲れるわ…

一方薫だが
薫は今は正体を隠しているが実は元レディース総長。訳あって引退…しかしレディースと言いながらも男ヤンキーからも絶大な支持を受ける身で、あちこちに薫の密偵となる仲間達が居る。薫の情報網は実は探偵以上に幅広く迅速に集めることが出来る。

「もしもし、なるべく早めに情報集めて欲しい、頼むよ」

「わかってます!姉(あね)さんの為なら俺達は全力で頑張りますよ!」

「ありがとな、いつも悪いけど頼むよ!」

「オッス!」

姉さんと呼ばれるのは実は矢崎透の妹というだけで、同級生や上級生なのだが、兄妹に敬意を払いみんなそう呼んでいた。
矢崎透もまた黒崎天斗以上に裏では名の通った大物だったのだ。この兄妹に助けられた者は実に200は下らない。

次の日の朝、薫から連絡が入った。

「もしもし」

「あっ、たかと?あんた知ってる?高谷も含め主力、頭から順番に6人が潰されたの…」

「あぁ!全然知らんかった。いつやられた?」

「昨日の夜だよ。もう小山内は病院かけつけてるけどたかとはどうする?」

「そりゃあ行くだろ、何処だ!」

「たかと、それより先ずはあの男止めないと」

「ん?誰だ?」

「片桐だよ。アイツを野放しにしてるともっと事態は悪化していく。何よりそっちが優先だよ」

「そ、そうか。わかった。で、片桐の居場所はわかるのか?」

「アイツら最近隠れ家ってライブハウスで溜まってるわ。今から動ける?」

「うん、俺は大丈夫だけど…足になるものが…小山内も居ないし…」

「今からそっち行くから外に出て待ってて」

「わかった」

外はどんよりと曇り空で今にも雨が降りだしそうな重い空気に包まれていた。朝の9時に重森から電話が来てすぐに支度をし、20分程して外に出た。ちょうどいいタイミングでバイクの爆音が俺の家に迫ってくる。バイクが2台、1台は2人乗りで1台は一人で俺の家の前に止まる。2人乗りの後ろに薫が乗っていた。

「そっちのバイクに乗って」

そう言ってもう1台の方のケツに俺は乗せてもらった。少し走り俺はバイクから降りた。沢山の店が建ち並ぶアーケードの商店街という感じで、辺りは人通りが多く若者がこの大半を占めている。アーケードの中を歩き二階建ての建物の前で止まり俺達は看板を見上げた。

「ここか…」

「最近毎日ここに溜まってるって情報が入ったから間違いない」

そこは地下に降りる階段がありその地下部分がライブハウス会場として使われてるようだ。この街の多くの若者の溜まり場として色々な学校の交流もあり、喧嘩も絶えないが裏でのやり取り、売春から薬の売買、暴力団員との繋がりも闇の世界はほとんどここで行われていた。会場の広さはステージの部分を除いて約100人が楽に入れる程のわりと大きめのスペースで、ほぼ毎日入れ替わりでライブが開催されるほど盛況している。薫の情報網もここでかなり集められていると言っても過言ではない。俺達は階段を降りて入り口のドアを開ける。中は暗くて目が慣れない内は中の様子がほとんどわからないほどだった。薄暗い天井からぶら下がる電球のライトが辛うじて中の広さをうかがわせる。

「誰も居ないのか?」

俺達はステージの方へ向かって歩いていく。その時、暗闇の壁の方でガタッと物音がした。

「何か忘れ物でもしたかぁ?」

暗闇から男の声が聞こえてくる。俺達は声の主を確かめるべく近寄っていく。
その瞬間慌てて出口の方へ走っていく気配がして俺達は足元に気を付けながらその気配を走って追う。先に声の主が出口を開け出ていく。俺達はそれに少し遅れて出口を出たが、すぐに人混みに邪魔されて見失ってしまった。
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