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成果と責任
しおりを挟む「……という事で、ヒューゴと協力する事になりました」
「ヒューゴ君ですぅ!よろしく!」
「まさか本当に説得しちまうとはな。しかも……妙に懐いてる」
ひと足先に、騎士団長の執務室でリドさんと合流した俺は、事の次第を説明した。
もちろんヒューゴが転生した存在だと言う事は伏せて、勇者と協力するに至った経緯だけを話している。
魔王が存在しないこと、一部の魔族に思考能力がある事、勇者が特殊な能力を持っている事……。
見る見るうちに表情が可笑しくなっていくリドさんを見て、少し、いやかなり申し訳なさが募っていく。
一方隣でニコニコしながら話を聞いていた勇者、もといヒューゴはご機嫌な様子で、紹介が終わるや否や大声で名乗り始めて冒頭に至る。
(俺がリドさんの立場だったら、多分失神してたな。世界の前提が崩されたようなものだし……)
俺が話し終わると、リドさんは顎に手を当てて何やら考え始めた。
「だが、これで解決とは言い切れないだろ。魔族と対等にとは言っても、方法は?」
「まずは幾つかの拠点を勇者パーティーに制圧してもらって、魔族が拠点にしている城に向かって貰います」
つまり、力を見せつつ交渉のテーブルに着いてもらう。
これもセールス時代に培った、ある意味での正攻法だった。
ヒューゴはリドさんの視線を気にも留めず、俺の肩に肘をグリグリと押し付け「まずは何処から制圧しようか」と頻りに話しかけてくる。
「ヒューゴ、重いから」
「ん~?これくらい許してよ、これからお願い聞いてあげるんだからさぁ」
「おい勇者。ユウに触れるな、あとユウも簡単に気を許すな」
「あれ、何々嫉妬しちゃった?!王子なのに心狭いねぇ」
「……やっぱり一度、城へ単騎突撃させるか」
そんな不穏な会話の応酬がされる中、何処かに行っていたらしいバレスさんが、副団長と共に部屋に入ってきた。
2人は直ぐに室内の異変に気付き、目を皿にする。
「嘘だ……勇者が手懐けられてる?何者ですか、あの方」
「俺が去ってから、そう長くは経ってない筈だが。どう説得したのか見当も付かない」
ヒソヒソと声を顰めて話す騎士団組。
聞く限り、バレスさんは相変わらず俺の正体を隠してくれているらしい。
軽く咳払いをした後、凛とした声色で勇者に語り掛け始めた。
「陛下より任務の変更が伝えられた。今回のクエストは破棄され、パーティーの再編後、俺の指揮下となる事が決まった」
「再編ねぇ、じゃあいつ出発すんの?俺さっさと終わらせたいんだけど」
「今回の作戦で決着させるために、抜かり無く準備せよとのご命令だからな。ひと月後だ」
(1ヶ月後か……確かに準備する時間はあるけど)
ヒューゴは、イアンさんの手を借りずとも魔族の城を制圧できるだろうか。
イアンさんの身体の傷も、その時には癒えているかもしれない。
でも、傷は見えているものが全てじゃない。
リドさんも、どこか心配そうに窓の外を見遣った。
少し沈んだ室内の空気を察してか、バレスさんが微笑みながら「だからこそ、今日は収穫祭を楽しんで欲しい」と言葉を繋げる。
「クエストは破棄になったが、今日の収穫祭は滞りなく行われる。収穫祭は、全ての民のための祭りだからな」
「ってことで、収穫祭夜の部が始まりますよ。リディア様は陛下の元へお越し下さ~い。お連れの方はどうされます?」
「あ、リドが用事とのことでしたら、今直ぐに村へと戻りますのでお気遣いなく……オホホホ」
一先ずの目的を達したのだから、王宮から一秒でも早く脱出したい。そして着替えたい。
そんな気迫が通じたのか、副団長は少したじろぐ。
「あ、そうですか。じゃあ……」
ヒューゴは副団長の言葉を遮り「じゃあ俺が送る!」と元気よく俺の手を引いた。
「魔王討伐作戦のメンバー編成とか、これからの事話そ?」
こそっと耳打ちされたのは、意外にも真面目なお誘いだった。
既に俺の中で、ヒューゴの認識は<精神年齢同年代のお調子者>だ。
ちょっかいも、ある程度受け流そうと思えば出来る。
だが、これからお世話になる協力者。
しかも、転移者であるバックボーンを気にも留めない存在だからこそ、邪険にはしたくない。
「……分かりました。村まで帰りながらでしたら、一緒に歩きましょう」
「やったぁ~!」
「リド、今日は家には帰ってきますか?」
副団長が居る手前、まだリドと懇意な女性を演じる。何だかむず痒いけど、これも正体を隠すためには仕方がない。
勇者であるヒューゴが、魔族との共存を実現し、転移者に利用価値が無くなるまでの我慢だ。
「……あぁ、遅くなるがな」
「そう、じゃあまた後で」
リドさんのしたり顔と、バレスさんの何か言いたげな表情は見ないフリを決め込む事にした。
「では、失礼いたします」
パタン、と後ろ手に扉を閉じた音を確認して、少しの時間その場に立ち竦んだ。
この数時間で自分のやるべき事を成せた事にホッとして、でも、リドさんに大きな負担を強いてしまったことも痛感して……僅かに視界が潤んだ。
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