上 下
76 / 82

成果と責任

しおりを挟む

「……という事で、ヒューゴと協力する事になりました」

「ヒューゴ君ですぅ!よろしく!」

「まさか本当に説得しちまうとはな。しかも……妙に懐いてる」


ひと足先に、騎士団長の執務室でリドさんと合流した俺は、事の次第を説明した。

もちろんヒューゴが転生した存在だと言う事は伏せて、勇者と協力するに至った経緯だけを話している。

魔王が存在しないこと、一部の魔族に思考能力がある事、勇者が特殊な能力を持っている事……。

見る見るうちに表情が可笑しくなっていくリドさんを見て、少し、いやかなり申し訳なさが募っていく。

一方隣でニコニコしながら話を聞いていた勇者、もといヒューゴはご機嫌な様子で、紹介が終わるや否や大声で名乗り始めて冒頭に至る。


(俺がリドさんの立場だったら、多分失神してたな。世界の前提が崩されたようなものだし……)


俺が話し終わると、リドさんは顎に手を当てて何やら考え始めた。


「だが、これで解決とは言い切れないだろ。魔族と対等にとは言っても、方法は?」

「まずは幾つかの拠点を勇者パーティーに制圧してもらって、魔族が拠点にしている城に向かって貰います」


つまり、力を見せつつ交渉のテーブルに着いてもらう。
これもセールス時代に培った、ある意味での正攻法だった。

ヒューゴはリドさんの視線を気にも留めず、俺の肩に肘をグリグリと押し付け「まずは何処から制圧しようか」と頻りに話しかけてくる。


「ヒューゴ、重いから」

「ん~?これくらい許してよ、これからお願い聞いてあげるんだからさぁ」

「おい勇者。ユウに触れるな、あとユウも簡単に気を許すな」

「あれ、何々嫉妬しちゃった?!王子なのに心狭いねぇ」

「……やっぱり一度、城へ単騎突撃させるか」


そんな不穏な会話の応酬がされる中、何処かに行っていたらしいバレスさんが、副団長と共に部屋に入ってきた。
2人は直ぐに室内の異変に気付き、目を皿にする。


「嘘だ……勇者が手懐けられてる?何者ですか、あの方」

「俺が去ってから、そう長くは経ってない筈だが。どう説得したのか見当も付かない」


ヒソヒソと声を顰めて話す騎士団組。
聞く限り、バレスさんは相変わらず俺の正体を隠してくれているらしい。
軽く咳払いをした後、凛とした声色で勇者に語り掛け始めた。


「陛下より任務の変更が伝えられた。今回のクエストは破棄され、パーティーの再編後、俺の指揮下となる事が決まった」

「再編ねぇ、じゃあいつ出発すんの?俺さっさと終わらせたいんだけど」

「今回の作戦で決着させるために、抜かり無く準備せよとのご命令だからな。ひと月後だ」

(1ヶ月後か……確かに準備する時間はあるけど)


ヒューゴは、イアンさんの手を借りずとも魔族の城を制圧できるだろうか。

イアンさんの身体の傷も、その時には癒えているかもしれない。
でも、傷は見えているものが全てじゃない。
リドさんも、どこか心配そうに窓の外を見遣った。

少し沈んだ室内の空気を察してか、バレスさんが微笑みながら「だからこそ、今日は収穫祭を楽しんで欲しい」と言葉を繋げる。


「クエストは破棄になったが、今日の収穫祭は滞りなく行われる。収穫祭は、全ての民のための祭りだからな」

「ってことで、収穫祭夜の部が始まりますよ。リディア様は陛下の元へお越し下さ~い。お連れの方はどうされます?」

「あ、リドが用事とのことでしたら、今直ぐに村へと戻りますのでお気遣いなく……オホホホ」


一先ずの目的を達したのだから、王宮から一秒でも早く脱出したい。そして着替えたい。

そんな気迫が通じたのか、副団長は少したじろぐ。


「あ、そうですか。じゃあ……」


ヒューゴは副団長の言葉を遮り「じゃあ俺が送る!」と元気よく俺の手を引いた。


「魔王討伐作戦のメンバー編成とか、これからの事話そ?」


こそっと耳打ちされたのは、意外にも真面目なお誘いだった。

既に俺の中で、ヒューゴの認識は<精神年齢同年代のお調子者>だ。
ちょっかいも、ある程度受け流そうと思えば出来る。
だが、これからお世話になる協力者。
しかも、転移者であるバックボーンを気にも留めない存在だからこそ、邪険にはしたくない。


「……分かりました。村まででしたら、一緒に歩きましょう」

「やったぁ~!」

「リド、今日は家には帰ってきますか?」


副団長が居る手前、まだリドと懇意な女性を演じる。何だかむず痒いけど、これも正体を隠すためには仕方がない。

勇者であるヒューゴが、魔族との共存を実現し、転移者に利用価値が無くなるまでの我慢だ。


「……あぁ、遅くなるがな」

「そう、じゃあまた後で」


リドさんのしたり顔と、バレスさんの何か言いたげな表情は見ないフリを決め込む事にした。


「では、失礼いたします」


パタン、と後ろ手に扉を閉じた音を確認して、少しの時間その場に立ち竦んだ。

この数時間で自分のやるべき事を成せた事にホッとして、でも、リドさんに大きな負担を強いてしまったことも痛感して……僅かに視界が潤んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う

まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。 新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!! ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

異世界に転生してもゲイだった俺、この世界でも隠しつつ推しを眺めながら生きていきます~推しが婚約したら、出家(自由に生きる)します~

kurimomo
BL
俺がゲイだと自覚したのは、高校生の時だった。中学生までは女性と付き合っていたのだが、高校生になると、「なんか違うな」と感じ始めた。ネットで調べた結果、自分がいわゆるゲイなのではないかとの結論に至った。同級生や友人のことを好きになるも、それを伝える勇気が出なかった。 そうこうしているうちに、俺にはカミングアウトをする勇気がなく、こうして三十歳までゲイであることを隠しながら独身のままである。周りからはなぜ結婚しないのかと聞かれるが、その追及を気持ちを押し殺しながら躱していく日々。俺は幸せになれるのだろうか………。 そんな日々の中、襲われている女性を助けようとして、腹部を刺されてしまった。そして、同性婚が認められる、そんな幸せな世界への転生を祈り静かに息を引き取った。 気が付くと、病弱だが高スペックな身体、アース・ジーマルの体に転生した。病弱が理由で思うような生活は送れなかった。しかし、それには理由があって………。 それから、偶然一人の少年の出会った。一目見た瞬間から恋に落ちてしまった。その少年は、この国王子でそして、俺は側近になることができて………。 魔法と剣、そして貴族院など王道ファンタジーの中にBL要素を詰め込んだ作品となっております。R指定は本当の最後に書く予定なので、純粋にファンタジーの世界のBL恋愛(両片思い)を楽しみたい方向けの作品となっております。この様な作品でよければ、少しだけでも目を通していただければ幸いです。 GW明けからは、週末に投稿予定です。よろしくお願いいたします。

処理中です...