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牽制
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唇が離れると同時に、緊張が緩む。
バレスさんはその隙に俺の腕を取り、鋭く抗議の声を上げた。
「リディア様……何の真似ですか」
「何の?分かってるだろ。俺の目を盗んで手を出そうとしてる奴を牽制してるんだよ」
「ちょ、ちょっと2人とも!そんな事より魔王討伐の件を話し合いましょう」
何やら不穏な空気を感じた俺は、慌てて2人を静止する。
不服そうにフン、と鼻を鳴らしたリドさんがようやく説明を始めてくれた。
「言った通り、今回のクエストは破棄。代替案として、現勇者の懐柔とパーティー再編成、そして他国との連携を進言した」
リドさんはなんて事ないように言うと、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
「利権で頭が凝り固まってた王族には、耳が痛い話だったようだがな」
「その交換条件が、王族への出戻り……でもリドさん、良いんですか?」
「決めた事だ。二言は無い」
心配になり見上げた俺の頭を、ゆっくりと撫でてくれる。
色々な事情があってあの村の村長として収まっていたはずなのに、作戦を優先してくれた。その温かさに目頭が熱くなった。
「リドさん。本当にありがとうございました」
「はは、その礼は後日貰おうかな」
「……へ?お礼?」
笑みを深めたリドさんが、ゆっくりとこちらに手を伸ばす。
そのままの流れで、するりと頬を撫でられて、反射的に背筋が震えた。
(リドさん、昨日から俺に対するボディタッチが明からさまに増えてきてないか……?!)
そこまで黙って話を聞いていたバレスさんが、重い口を開いた。
「リディア様、何か策を巡らせていらっしゃるのですね。もしや、勇者の矯正を試みているんでしょうか」
「そういう訳だ。国の有事だ、当然騎士団も協力するだろう?」
「謹んで拝命いたします」
リドさんに恭しく礼をした姿は、やはり王族と騎士団長としての関係性を感じさせた。
でも、リドさんの力に頼るばかりではダメだ。
「バレスさん!勇者の説得に、俺と2人で行ってくれませんか」
「は?行かせる訳ないだろ」
「危険だから待っていて欲しい」
口々に止められるが、俺の意思は固い。
理由は、ケンと合流した際に聞いた話が引っ掛かっていたからだ。
『あ、ユウさん!さっき勇者に会ったんですけど……アイツやっぱちょっとおかしいっす。言葉選びが妙に現代っぽいというか、陽な感じでした』
(陽、か……言い回しはケンらしいけど。確かに妙に軽薄な雰囲気があるよな)
もし勇者の言動に、俺達しか理解出来ない理由があるなら…リスクを取っても直接説得に行く価値があると思ったんだ。
「心配して貰えるのは嬉しいですが、俺もこの計画が成功して欲しいからこんな提案をしてるんです。バレスさんもいますし、安全ですから!」
「はぁ……ユウは言い出したら聞かないからな。何かあったら魔道具で知らせろよ」
結局は俺の粘り勝ちで、渋い顔の2人から承諾をもぎ取った。
いざ出陣!と意気込んで部屋を出た俺が見たのは、近くの壁に寄りかかりながら、眠い目を擦っている副団長の姿だった。
……もしかして、ずっと此処に居てくれたのだろうか。
バレスさんを危険視している訳ではないだろうから、きっと連れてきた責任を感じて待機していたんだ。
「リディア様までお越しになるんで肝が冷えましたよ……で、大丈夫でしたか?」
「はい!気にかけて下さってありがとうございました」
「ま、これで無事にリディア様に引き渡せたんで、俺は一回寄宿舎に戻りますわ。ふわぁ~」
眠そうに大きな欠伸をしてから「あ」と少し声を漏らして振り返る。
「また眠れなくなったらお邪魔していいですか」
「薬草茶お気に召して下さったんですね。騎士団への納品物に入れましょうか?」
「いや、そうじゃなくて……ま、いいか。今度はお店にお邪魔しますよ」
え、まさか俺の勤め先を知ってるの?という疑問を解消する暇も与えず、副団長の後ろ姿が遠ざかる。
「さあ、勇者を探そう。彼奴のことだ、城内で暇を潰してるだろう」
手を緩く取られ歩き出す。
城内だし手を繋ぐ必要はないんじゃ……とも思ったが、先程まで深く刻まれていた眉間の皺が解消されているのを見て、少し強めに手を握り直した。
バレスさんはその隙に俺の腕を取り、鋭く抗議の声を上げた。
「リディア様……何の真似ですか」
「何の?分かってるだろ。俺の目を盗んで手を出そうとしてる奴を牽制してるんだよ」
「ちょ、ちょっと2人とも!そんな事より魔王討伐の件を話し合いましょう」
何やら不穏な空気を感じた俺は、慌てて2人を静止する。
不服そうにフン、と鼻を鳴らしたリドさんがようやく説明を始めてくれた。
「言った通り、今回のクエストは破棄。代替案として、現勇者の懐柔とパーティー再編成、そして他国との連携を進言した」
リドさんはなんて事ないように言うと、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
「利権で頭が凝り固まってた王族には、耳が痛い話だったようだがな」
「その交換条件が、王族への出戻り……でもリドさん、良いんですか?」
「決めた事だ。二言は無い」
心配になり見上げた俺の頭を、ゆっくりと撫でてくれる。
色々な事情があってあの村の村長として収まっていたはずなのに、作戦を優先してくれた。その温かさに目頭が熱くなった。
「リドさん。本当にありがとうございました」
「はは、その礼は後日貰おうかな」
「……へ?お礼?」
笑みを深めたリドさんが、ゆっくりとこちらに手を伸ばす。
そのままの流れで、するりと頬を撫でられて、反射的に背筋が震えた。
(リドさん、昨日から俺に対するボディタッチが明からさまに増えてきてないか……?!)
そこまで黙って話を聞いていたバレスさんが、重い口を開いた。
「リディア様、何か策を巡らせていらっしゃるのですね。もしや、勇者の矯正を試みているんでしょうか」
「そういう訳だ。国の有事だ、当然騎士団も協力するだろう?」
「謹んで拝命いたします」
リドさんに恭しく礼をした姿は、やはり王族と騎士団長としての関係性を感じさせた。
でも、リドさんの力に頼るばかりではダメだ。
「バレスさん!勇者の説得に、俺と2人で行ってくれませんか」
「は?行かせる訳ないだろ」
「危険だから待っていて欲しい」
口々に止められるが、俺の意思は固い。
理由は、ケンと合流した際に聞いた話が引っ掛かっていたからだ。
『あ、ユウさん!さっき勇者に会ったんですけど……アイツやっぱちょっとおかしいっす。言葉選びが妙に現代っぽいというか、陽な感じでした』
(陽、か……言い回しはケンらしいけど。確かに妙に軽薄な雰囲気があるよな)
もし勇者の言動に、俺達しか理解出来ない理由があるなら…リスクを取っても直接説得に行く価値があると思ったんだ。
「心配して貰えるのは嬉しいですが、俺もこの計画が成功して欲しいからこんな提案をしてるんです。バレスさんもいますし、安全ですから!」
「はぁ……ユウは言い出したら聞かないからな。何かあったら魔道具で知らせろよ」
結局は俺の粘り勝ちで、渋い顔の2人から承諾をもぎ取った。
いざ出陣!と意気込んで部屋を出た俺が見たのは、近くの壁に寄りかかりながら、眠い目を擦っている副団長の姿だった。
……もしかして、ずっと此処に居てくれたのだろうか。
バレスさんを危険視している訳ではないだろうから、きっと連れてきた責任を感じて待機していたんだ。
「リディア様までお越しになるんで肝が冷えましたよ……で、大丈夫でしたか?」
「はい!気にかけて下さってありがとうございました」
「ま、これで無事にリディア様に引き渡せたんで、俺は一回寄宿舎に戻りますわ。ふわぁ~」
眠そうに大きな欠伸をしてから「あ」と少し声を漏らして振り返る。
「また眠れなくなったらお邪魔していいですか」
「薬草茶お気に召して下さったんですね。騎士団への納品物に入れましょうか?」
「いや、そうじゃなくて……ま、いいか。今度はお店にお邪魔しますよ」
え、まさか俺の勤め先を知ってるの?という疑問を解消する暇も与えず、副団長の後ろ姿が遠ざかる。
「さあ、勇者を探そう。彼奴のことだ、城内で暇を潰してるだろう」
手を緩く取られ歩き出す。
城内だし手を繋ぐ必要はないんじゃ……とも思ったが、先程まで深く刻まれていた眉間の皺が解消されているのを見て、少し強めに手を握り直した。
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