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2度目の正直

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「……ふぅん、ツレ君って面白い事言うね」


この世に生を受け、目に光を浴びた瞬間に、前世での記憶を思い出した。
2度目の人生、今度こそ上手くやれると慢心していたんだ。
……実際は2度目なんて生易しいものではなかったのに。

色を視て、音を拾い始めた俺が、そもそも世界の構造が違う事を悟るのに、そう時間は掛からなかった。

1歳という節目を迎えた日。
両親が目の前で指先から水を出し、外に連れ出して良く見知った港街を眺めさせた。


『この景色を、この世界を……ゲームとして知ってる』


世界の真実を知ったと同時に、直ぐに<世界を徹底的に攻略する>というゲーマー的執念が芽生えたことは、転生前と人格が同等である証明だろう。

その事実が及ぼす、精神的な影響は重度だった。
その日から、全ての景色が、果ては生命までが、予め定められたに見えるようになったのだ。

(このだだっ広い世界に、人間は自分1人しかいない)

それでも「いつか自分の手で終わらせる世界なら、ちょっと遊んでやるか」と決心して世界を気儘に旅した。

ここはどうせ虚像の世界。
だけど戦えば怪我もしたし、食えば腹も満ちる。

酒も飯も、前世の記憶と比較するとちょっと不味い。
魔法は使えても、力が弱いヤツが多くて、不便な暮らし向き。
……それでも、何でか前向きで生命力に溢れた街と人。


(折角だからとダラダラ過ごしていたら、世界を完結させる事に、寂しさを覚えるようになってた)


突如として現れた、目の前の小さな人間。
彼の思惑通りに動けば、俺は勇者という役割から解放され、この世界が続くかもしれない。

ストーリーに登場しない存在に、そんな希望を持たせられてしまった。


「はぁ、王や騎士団にせっつかれて面倒なのは当たってる。一々煩いんだよね、弱い癖に」

「なら……」

「それと、ツレ君にも興味ありあり!ツレ君達が加わった事で、この世界が未知の展開をしてくんじゃないかって期待もあるし」

「確かに、先の展開を知ってたんじゃゲーマーとしては退屈かも」

「そういうこと。RTAは趣味じゃないんだよねぇ」


だからさ、手伝ってあげる。
彼の頭にベールを被せ直し、軽く整える。


「新しいストーリー展開に期待しちゃおうかなぁ!参謀は君の役目だよ、ツレ君」

「ははは……」


知っている物語を再現して生きるだけだった世界に、突如として現れた変化の兆し。
柄にもなく胸が躍った。


(魔族を力で抑圧しすぎず、対等な立場で共存する……か)


テーマを与えられた脳は、素早く頭の中で攻略方法を組み立てていく。

それなら道中のあの村に拠点を置いて、城内部にある罠を飛行術で解除して……中ボスの攻撃パターンを思い出し始めた時点で、目の前にある手の影に気が付いた。


「改めてよろしく。アンタの名前は?」

「名前?あぁ、長い間名乗らなかったから忘れた。ツレ君が付けてよぉ」

「え、何それ怖い……う~ん、じゃあヒューゴで」

「ヒューゴ、ね。良い響きじゃん」


本当は覚えてるんだけど、文字の羅列に大した情もないし、どうせ要らない記号だから。


「ツレ君の名前は~……ユウ、だっけ?」

「よく覚えてたね、すごいすごい」

「なぁんかムカつく!」


ユウは軽く流すように受け答えをすると、食堂の扉に向かっていく。


「ヒューゴのしてきた事、一切許すつもりはないよ。イアンさんにも、ケンにも誠心誠意謝って」

「はいはい、恨むも憎むもご自由にどうぞ。でもさ、半魔って言わなかっただけ良くない?ゲームの設定では、このまま処刑されてたんだし」

「え、そうなの?」

「ストーリーには全く書かれてないし、どうでも良かったんだけど~!黒髪は噛ませ犬的に処刑されてんの」

「……今すぐイアンさんを抱き締めたい」

「ま、アイツ面白そうだったから、黙っててあげたってワケ。偉いわぁ~俺」

「いや、そもそも短剣奪った時点で心象良くないから」


あ、そうだ。と言葉を溢したユウが、立てた指を口元に持っていき「しー」のジェスチャーをする。


「ヒューゴの生い立ちや、この世界がゲームだってことは……俺と2人の秘密で」


唯一の秘密の共有者。
そんな響きが、不思議と俺の心を生温い熱で満たした。

これから先、バレスとユウと……名前は忘れたけど、その他諸々で魔族の城に赴く準備をする事になるんだろう。
それなら、攻略情報を駆使して最適なメンバー配置を提案してみようかな。

るんるんとスキップしてユウの後を追うその姿は、先程までと打って変わって活力に満ちていた。


勇者を引き入れた事を知り、バレス騎士団長やリドがユウの話術に感服するまで

……あと数分。

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