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予想外

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最近はリドさんに貰ったお下がりの服を仕事着で着ている。
少し大きいが、動くのに問題はないので、ありがたく何着か頂戴したのだ。


(貰った時に、俺の子供の頃の服だが…と言って渡されたのはまだ根に持ってるよ、リドさん)


スカーフをしっかり頭に巻き、黒の髪の毛を隠せば準備万端。


「イアンさん、おはようございます!起きてください!」


新しく日課となった水やりを済ませるため、イアンさんの肩を揺らす。


「ほら、薬草畑にお水あげに行かないとですよ」


「……ゔぅ」


俺の手が当たった反動で、ズレた布団の隙間から覗いた顔を見て驚く。

いつもの澄ました顔立ちではなく、見たくない物を目の当たりにさせられているような、そんな苦悶の表情をしていたのだ。


(まさか俺が揺らしたから、ではないよな?)


いや確かに、俺も元の世界で毎朝こんな感じで出社拒否してたけど……。
イアンさんの生活を見る限り、朝を嫌がる理由はないよな。

その表情が気に掛かり、揺らす手を止めると、ついこの間の出来事が突如としてフラッシュバックした。


(もしかして、前みたいに魔王討伐戦について思い出しているんじゃないか……?)


ならばと、前回やったような落ち着かせる方法は無いかと模索する。

……頭を撫でてみようか。
ゆっくりと、驚かせないように、少し乾燥気味な黒髪を撫でる。

寝入っているままでも手の感触を少しは感じ取ったのか、イアンさんが身を捩った振動が手を伝った。


「ご、めん」


先ほどまでは唸り声を上げていたイアンさんの口から零れ落ちたのは、何かを謝罪する言葉だった。

きっと、夢で辛い記憶を追体験しているんだろう。
きっとこの調子では、穏やかな目覚めには短くない時間が必要そうだな。


「……こりゃ遅刻かなぁ」


(1分遅刻したなら、もう気が済むまで遅れてやろう)


眠りの浅いイアンさんが、また安心して光を目に出来るように。


************



「……ユウ、ごめん」


「大丈夫ですよ!さ、お水をやりに行きましょう。なにせ今日が初日ですから」


頷いた姿を確認し、早速その手を取って家を抜け出した。


(いや~ちゃんと覚醒してよかった、もう街に行けないかと思ったな)


起きたばかりのイアンさんは愚図っている子供のようで、俺の顔を見ては目を潤ませた。

そのうちに自分が俺の足を止めていることに気付き、あの謝罪につながる。
事情を聞いても、何でもないと跳ね除けられてしまったけど……多分俺の予想は間違っていないだろう。

少し村から離れると、昨日場を整えた畑が見えてきた。

パッと見では特に変わっていないようにも見えるけど、これがあと数日で収穫出来るんだから驚きだよなぁ。


「さて、水やりなんですけど……近くに井戸とかありますかね」

「ここ、井戸ない」

「えっ?!どうしよう、水とか汲んでくればよかったですかね」


そうか、村からも少し離れているし、井戸を作っても管理出来るはずない。

でもそれならどうやって水をあげれば良いんだ?!と慌てていると、イアンさんに肩を叩かれた。


「……必要ない。これが、ある」


イアンさんが手を広げると、ふわりと透明な球が浮く。
それは太陽光を受け、ガラス玉のようにキラリと煌いた。


「え、もしかしてそれって!」

「水」

「おおお!すごいです!」


イアンさんが球を出しては放つ動作を数回繰り返すと、すっかり畑に潤いが満ちた。

なぁんだ、これで解決!……って


「これ、俺要らないんじゃ……」


「!」


ピシリ、と空気が固まったのを感じた。
まあね、ここ最近順調に来すぎていると思ってたよ……こんなところに落とし穴があったとは。


(魔法がないと水やりもまともに出来ないのか、結構凹むな)


「そんなこと、ない!」

「あ、慰めてくれるんですね……でも大丈夫です。しっかり薬草が育つのが1番ですから、俺は見守ります!」


それに、今は遅刻しているからのんびりしていられないし!


「朝やることも終わったし……行ってきます!」


そうイアンさんに別れを告げたが、意図せずしょんぼりとした声が出てしまった。


(なんか俺、拗ねてるみたいでカッコ悪いな!)


口に出してから自覚して、慌てて薬草屋に向かう俺の背を、ジッと視線が追いかけて来ていた。

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