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薬草畑
しおりを挟む俺は草に隠れるようにして、ゾロゾロと騎士団の隊列が街へと引き返していく様子を見ていた。
(あ、危なかったぁ……借りた薬草畑に来る時も用心しなきゃいけないな)
*****************
薬草屋から戻ってすぐ、とある相談事のため、イアンさんを連れてリドさんの家へと向かった。
内容は勿論、薬草を育てたいから畑を貸してくれないか、という相談だった。
村の利益にもなるからと、薬草畑を貸してくれることになったが……
村の中にある畑はどこも収穫祭に向けた準備で使用しているから、村の外にしか空きがないそうだ。
『イアンに機会をくれてやるようで癪だが……この村のほど近くにある畑を使えばいい。だが、護衛を忘れるなよ?
本来なら、俺が一緒に行ってやりたいところなんだからな』
『ありがとうございます!リドさん』
『……護衛、やります』
またこの世界でやりたかった事を実現出来る、そう思ったら、頬が緩むのを止められなかった。
リドさんに締まりのない笑顔を晒し続けていると、特大の溜息を吐かれた。
『はあぁぁ……心配だ。いいか、ユウ。イアンに何かされそうになったら走って逃げるんだ。逃げ足が自慢なんだろ?』
『へ、イアンさんに……ですか?わ、わかりました?』
『人聞き、悪い』
『何かやりかねないだろ、昔の破天荒具合を考えれば……まあ、他にも何かあれば、その腕につけた腕飾りを相手に見せるんだ』
『腕飾り……あ、コレか』
『!』
リドさんの髪や目の色を溶かし込んだような綺麗な石が嵌められたブレスレット。
日頃から習慣化していて、付けているのを忘れるほどだった。
普段は服の袖に隠れているが、腕捲りなどをすれば他の人からも見えるだろう。
(見せるって……もしかして、紋所的な何かだったりするのかな)
『わ、分かりました!』
『よし、じゃあ行ってこい』
『……』
******************
リドさんに渋々と言った雰囲気で送り出されたが、一方の俺はるんるんだった。
だから、さっきは危うく騎士団の隊列の前に躍り出てしまうところだったんだ。
(バレスさんとはもう交友関係が出来てしまっているから仕方ないけど、城の関係者とは接触したくないし……)
悶々と頭を悩ませていると、背の高い草をかき分ける黒い巨躯が見えた。
イアンさんと手分けしてこの畑を探していた。
「あ、イアンさん!こっちです!」
「ここ、か」
「そうです、広いですよね。リドさんに感謝しなきゃ……収穫沢山出来るように頑張りましょう!」
数日で収穫出来るこのハーブなら、他の作物にも迷惑はかからないだろう。
手塩にかけたピンク色のハーブが茂る様を想像すると、騎士団を避けつつここの管理をするのも、苦労とは思えなくなりそうだ。
「ここ……魔物出るから、一緒に行動、しよう」
「あ、そうですね。確かにイアンさんがいてくれれば心強いです」
「……そう」
嬉しそうに微笑むイアンさんを見て、はしゃぎすぎたかな、と居住まいを正す。
「薬草には、朝夕の2度は必ず水をあげないといけないようです。俺、薬草屋の仕事の前と後にここに来れます。イアンさんはどうします?」
こんな大きな畑も貸してもらった。
折角だし、イアンさんと二人で育てたい。
「……朝は一緒に、行こう。夕方は、ここで待つ」
「はい!遅くならないように頑張りますっ」
そうして、イアンさんと慣れない手つきで種を蒔いた畑をしばらく眺め、夕飯の準備のためその場を後にした。
(数日後、二人で力仕事をしなきゃな……役に立てるか不安だ)
相変わらずひょろっとした腕を、恨めしげに見つめる。
(あ、そうだ。連日働き詰めだし、リドさんにも気晴らしとして一緒に身体を動かしてもらうのはどうだろう)
そんな楽しい妄想が止まない。
「初めての挑戦がこんなに楽しいなんて、これも皆さんが居てくれるお陰ですね」
「……そう、か」
「はい!もちろんイアンさんも、ですよ」
俺の回答は予想していなかったのか、赤の目が揺れる。
「イアンさんにとっても、楽しい思い出になったらいいな……なんて思ってます」
普段カチコチに固まっている表情が、解けるように和らいだ。
(あ、過去一笑ってくれた)
「ありがとう、ユウ」
「え、」
突然イアンさんの口から流暢に発せられた言葉に、目を瞬かせた。
そんな俺の視線を受け、イアンさんは、どうした?と不思議そうに見つめ返してくる。
「今、言葉が……!」
「?」
「あ、いえ……何でもないです」
(めっちゃ流暢にお礼を言われた気がするけど……聞き間違いだった?)
相変わらずどこか暗い目をしたイアンさんの様子は普段と変わらない。
もしかして、普段から無口だから、流暢のハードルが下がってるのかもしれない。
(ここで変に深掘りして、またイアンさんが心を閉ざしてしまっても逆効果だし……)
ギュッと結ばれた手を強めに引かれ、そんな俺の小さな気付きは掻き消された。
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