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完全無欠
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時は少し遡り。
「ギィッ!」
「騎兵隊、逃すな!息の根を止めろ!」
バレスは街へ続く道に迫り来る魔物を退けるため、剣を振るっていた。
街の周辺には魔術師に防御壁を張らせているが、それでも不安は残る状態だ。
「……ふぅ」
バレスは無意識に眉間に皺を寄せ、控えめに息を吐いた。
(この門も守りも、攻撃を受け続ければいずれ弱るだろう。対策を急がねば)
「バレス騎士団長、お身体の調子でも……?」
「すまない、考え事をしていた。気にしないでくれ」
はっ、と返事を残して声を掛けてきた一般兵が隊列へと戻る。
「団長も人間だな。常に完璧でいらっしゃるから、魔術か何かで出来ているのかと」
「おい、滅多な事を言うなよ」
ヒソヒソ、と交わされる軽口に、バレスは密かに危機感を抱いた。
(魔術で出来ていたら苦労はしないが……隊は連日の攻撃で気が弛んでいるな、引き締め直さなければ)
過去に例を見ない数の魔物が波のように寄せては返していく。
一匹ごとの練度は取るに足らないが、これが集団となると途端にクエストの難度が上がるのだ。
魔王により統率が取れたこの一個隊に、騎士団は体力だけでなく気力をも削り取られていた。
「そろそろ冒険者ギルドにクエストを振るか。原因究明に小隊を派遣しよう」
(この攻撃が始まったのは一昨日……状況は悪くなるばかりだ)
騎士団は昨日行った行進で、街の民に魔物の襲来を通知している。
ここまでは珍しい話でもないが、その内容が不味い。
「テゼール!小隊を編成する。勇者に帰還命令を出せ」
テゼール、そう呼ばれた男は海のような深い青色の髪を掻きながら近寄ってくる。
「お言葉ですが団長、アイツが小隊に大人しく収まるかは自信がありませんよ……というか、無理です」
「分かっている。だからこそ、お前が指揮を取れ」
「は、俺ですか。……嫌だなぁ、どうせまた俺を盾にして遊ぶんですよ。アイツ」
テゼールには勇者に苦い思い出があるようで、腹を抑えて唸った。
「では聞くが、副団長のお前以外に適任がいるか?」
「……いませんねぇ。はいはい分かりましたよ。団長は内部の指揮系統、よろしくお願いしますね」
「よ~し!俺の隊集まれ~」と緩い掛け声の元集った面々は、早速国境へと向かって出発した。
「テゼールが向かった今、勇者を野放しにするより有効活用が出来る。伝令はギルドに緊急クエストを発令するよう働きかけろ……なんとしても、収穫祭までには事態収束を図る」
「はっ!」
ザワザワと動き出した面々を眺めて、思案する。
(収穫祭は、滞りなく実施されなければ)
この街の活気に繋がるのは勿論、恒例であれば勇者を魔王城へと送り出す裏目的もある。
収穫祭で供えられた様々な備蓄品を持って、旅立つのがフィラのしきたりだ。
ふと頭の隅に追いやっていた、とある人物の笑顔が思い出される。
「……ユウ」
(こうも殺伐としていると、憩いの場を求めて止まないな)
しかし、この非常事態。
この都を守る事で、その想いを全うしよう。
「バレス騎士団長、伝令に文は持たせますか」
「あぁ、持たせよう」
騎士団の隊列は、切なる想いを昇華したバレスを先頭に、夕暮れ時の門を潜りフィラの城へと長き列を作っていった。
……そんなバレスの想い人といえば。
「うっわぁ……危な!魔物だけじゃなくて、騎士団までこんなとこまで彷徨いてるのか。バレないよう気を付けなきゃな」
村へと続く道の草を分け入った先で、騎士団の隊列をおっかなびっくり避け回っていた。
「ギィッ!」
「騎兵隊、逃すな!息の根を止めろ!」
バレスは街へ続く道に迫り来る魔物を退けるため、剣を振るっていた。
街の周辺には魔術師に防御壁を張らせているが、それでも不安は残る状態だ。
「……ふぅ」
バレスは無意識に眉間に皺を寄せ、控えめに息を吐いた。
(この門も守りも、攻撃を受け続ければいずれ弱るだろう。対策を急がねば)
「バレス騎士団長、お身体の調子でも……?」
「すまない、考え事をしていた。気にしないでくれ」
はっ、と返事を残して声を掛けてきた一般兵が隊列へと戻る。
「団長も人間だな。常に完璧でいらっしゃるから、魔術か何かで出来ているのかと」
「おい、滅多な事を言うなよ」
ヒソヒソ、と交わされる軽口に、バレスは密かに危機感を抱いた。
(魔術で出来ていたら苦労はしないが……隊は連日の攻撃で気が弛んでいるな、引き締め直さなければ)
過去に例を見ない数の魔物が波のように寄せては返していく。
一匹ごとの練度は取るに足らないが、これが集団となると途端にクエストの難度が上がるのだ。
魔王により統率が取れたこの一個隊に、騎士団は体力だけでなく気力をも削り取られていた。
「そろそろ冒険者ギルドにクエストを振るか。原因究明に小隊を派遣しよう」
(この攻撃が始まったのは一昨日……状況は悪くなるばかりだ)
騎士団は昨日行った行進で、街の民に魔物の襲来を通知している。
ここまでは珍しい話でもないが、その内容が不味い。
「テゼール!小隊を編成する。勇者に帰還命令を出せ」
テゼール、そう呼ばれた男は海のような深い青色の髪を掻きながら近寄ってくる。
「お言葉ですが団長、アイツが小隊に大人しく収まるかは自信がありませんよ……というか、無理です」
「分かっている。だからこそ、お前が指揮を取れ」
「は、俺ですか。……嫌だなぁ、どうせまた俺を盾にして遊ぶんですよ。アイツ」
テゼールには勇者に苦い思い出があるようで、腹を抑えて唸った。
「では聞くが、副団長のお前以外に適任がいるか?」
「……いませんねぇ。はいはい分かりましたよ。団長は内部の指揮系統、よろしくお願いしますね」
「よ~し!俺の隊集まれ~」と緩い掛け声の元集った面々は、早速国境へと向かって出発した。
「テゼールが向かった今、勇者を野放しにするより有効活用が出来る。伝令はギルドに緊急クエストを発令するよう働きかけろ……なんとしても、収穫祭までには事態収束を図る」
「はっ!」
ザワザワと動き出した面々を眺めて、思案する。
(収穫祭は、滞りなく実施されなければ)
この街の活気に繋がるのは勿論、恒例であれば勇者を魔王城へと送り出す裏目的もある。
収穫祭で供えられた様々な備蓄品を持って、旅立つのがフィラのしきたりだ。
ふと頭の隅に追いやっていた、とある人物の笑顔が思い出される。
「……ユウ」
(こうも殺伐としていると、憩いの場を求めて止まないな)
しかし、この非常事態。
この都を守る事で、その想いを全うしよう。
「バレス騎士団長、伝令に文は持たせますか」
「あぁ、持たせよう」
騎士団の隊列は、切なる想いを昇華したバレスを先頭に、夕暮れ時の門を潜りフィラの城へと長き列を作っていった。
……そんなバレスの想い人といえば。
「うっわぁ……危な!魔物だけじゃなくて、騎士団までこんなとこまで彷徨いてるのか。バレないよう気を付けなきゃな」
村へと続く道の草を分け入った先で、騎士団の隊列をおっかなびっくり避け回っていた。
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