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波乱の夕食会?!
しおりを挟む「リドさん、このお皿はもう配っていいですか?」
「ああ、そっちは終わってる。おいイアン!ボサっとしてないで手伝え」
「……はい」
俺の提案により、夕食会が開かれることになったリドさん宅は、食事の準備で賑わいを増している。
険悪ムードになっていたリドさん達になんとか仲良くやってもらうべく、ジャパニーズサラリーマンらしい<飲みニケーション>を提案したのだ。
最初は我ながら良い案だと思ったんだけど、結局はリドさんにご飯を作って貰わなきゃいけないことを失念していた。
(なんだか、手間を掛けさせちゃって申し訳ないな……)
「ユウはともかく、お前は料理得意だったろ?作る方手伝ってくれ」
「え、イアンさん料理も出来るんですか?!強いのにお料理も作れるなんて、凄いんですねぇ」
「……まあ」
「待てユウ、俺も中々強いぞ。しかも頭も切れる」
「リドさんの凄さは、日々身に染みてます」
なら良い、と満足気に頷いたリドさん。
(大の大人が張り合ってるなんて、ちょっと可愛い)
フフ、と1人笑いながら配膳を進める。
(俺だけが食卓周りでうろちょろしているのを自覚すると、情けなくなってくるな……)
忙しいリドさんには聞けなかったけど、イアンさんに今度料理を教えてもらおうと決意を固めた。
食卓には様々な料理が並んだ。
どれも慎ましやかなものではあるが、アンナさんの家でいただいたものよりハーブ類やお肉類の比率が多かった。
村の特産をふんだんに使っているらしい。
「じゃあ食べようか、イアンの帰還を祝して」
「……どうも」
「良かったですね!イアンさん」
相変わらずローテンションなイアンさんはゆっくりと一礼しながら食べ始めた。
リドさんも満更でもないようだし、やっぱり身を案じていたんだろう。
「そうだ、イアン。婆さん家には住まないのか?一人暮らしだろう」
「追い、出された……体がデカい、から」
「俺と一緒に住むって話がすぐ出たんです……でも確かに、アンナさんのお家だとイアンさんにとってはちょっと狭いかもですね」
イアンさんはそれほどに体格が良く、逆にアンナさんはあまり身長が高くない。
何をするにも手狭に感じると思う。
「俺、居ると狭い……」
「はっ!あの婆さんが言いそうなこったな」
「でも、イアンさんは寂しくないんですか?久しぶりに会えたんですよね」
「ユウ、がいる……から」
イアンさんが目を細めて、口角を上げて微笑んだ。
(俺が居るから寂しくない、ってことで良いのか…?)
なんだかとても信頼してくれているようで、大分嬉しい。
「おい、俺は渋々許可してるんだ。そこんところ忘れるなよ」
「なんで、許可、いる?」
「あぁ?」
(うわぁ、またヒートアップしてきた!)
俺は慌てて話題を逸らす。
「そ、そうだイアンさん。俺、まだ見せてなかったですよね」
そう言いながら、俺は頭に巻き付けていた布をスルリと外した。
「……黒」
「そうです。俺は半魔ではないんですけど……訳あってここの村に匿ってもらってるんです」
「水臭いな、ユウは立派なウチの村民だ。気後れする必要はない……まあ、事情は後から聞け。飯が冷めちまう」
「そうですね、イアンさん。明日にでもお話しします。今日は食べてしっかり寝ましょう?」
イアンさんは小さく頷くと、黙々と食事を始めた。
俺とリドさんは目を合わせると、少しの間笑いあった。
(イアンさん、心に傷がないようで良かった……今日から一緒に生活するんだ、時間をかけて沢山知っていかなきゃ)
今日は色々な事があって疲れていたし、夕食会を終えた後は泥のように眠りたかった……んだけど。
俺は今、イアンさんとゼロ距離の密着度でベッドに寝転がっている。
「イアンさん、ちょっと近すぎます…。俺、床で寝ますから!!」
「良い、寝て」
そうだ、俺は今の家にベッドが一つしかない事を思いっきり忘れていたんだ。
…なんて事だ。
さっきから何度か脱出しようと試みているけど、イアンさんの体はビクともしない。
(怪我人だからって遠慮してたけど、これは本気を出さなきゃ出られないっ!)
最後の足掻きで目一杯の抵抗しようとしたその時、耳元でイアンさんの呟きを聞いてしまった。
「…温かい」
「っ、」
(そっか…イアンさん、誰かと眠りにつくのが久し振りなのかな)
その考えに辿り着いたら、もう抵抗しようなんて気も起きなかった。
とはいえ、こんな距離感で添い寝は初体験だ。
しっかり目が冴えてしまっている。
(羊が1匹…羊が2匹…うう、目の前の大胸筋が気になりすぎて寝れない!)
羊もろくに数えられない状態だけど、そのまま小さく縮こまる。
眠気の訪れを願い、必死に目を閉じた。
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