巻き込まれ異世界転移者(俺)は、村人Aなので探さないで下さい。

はちのす

文字の大きさ
上 下
33 / 82

同居人

しおりを挟む

背が高くやたらガタイがいいフードの男と、その後ろをついて回る一般男性、俺。
側から見れば、布面積の多い親子に見えるかもしれない。

それほど、イアンさんのスタイルは抜群だ。


「あの、イアンさん」

「……なんだ」

「俺と一緒に住むなんて……無理しなくていいんですよ? 俺がどういう人間かも分からないのに」


アンナさんの家を出てから、ずっと聞きたかったことだ。

怪我を負って危険な状態だから、誰かと行動した方がいいという話なのはわかる。
が、数時間前まで知り合いでもなんでもなかった男と一緒に住むなんて、いくらなんでもおかしいだろう。

イアンさんは、助けた俺に恩義を感じていると言っていたけど、相手がどんな人間かも分からない状況で、手放しに俺を信用できるだろうか。

……到底無理な話だ。

それはイアンさんはもちろん、俺だって例外じゃない。
お互いがお互いを知らなさすぎる状況なんだ。


心で燻る不安を抑え込むことが出来ないまま、俺はイアンさんと数秒見つめあった。


「ユウ、といったか」

「あ、はい」

「……あの時、俺を騎士団に差し出さなかった」


イアンさんはそこで一度話すことを止めると、俺の頭をするりと撫でた。


「っ?! 」

「それで十分だ」


交差した視線の先、血のように赤い瞳が、光を受けたようにキラリと輝いた。

その輝きに思考を奪われている間に、頭に乗せられていた手は、俺の手を握りしめた。
そのまま俺の手を引くと、ズルズルと引きずるように村へと向かう。

俺に配慮してくれるリドさんとは違い、思いっきり自分のペースで進んでいくその速度は尋常じゃない。


(ちょっ!足縺れるって!! )


引っ張られた反動によってペースを乱された俺は、必死にバランスを取りながらイアンさんについていく。

こんな歳になって、迷子センターに連れて行かれる子供のような扱いを受けるとは思わなかった。


(決して、明らかな体格差でちょっと拗ねてるわけじゃないから!)


あまりに足元ばかりに気を配っていた俺は、土と草のコントラストを眺めているうちに突然止まった背に気付かず顔面を強打してしまった。


「うぐぅ! 」


今!俺の鼻からベキョッて音がなった気がするんだけど……?!
流石に抗議しようと息巻いて前方を確認すると、そこには凄い形相でイアンさんを威嚇しているリドさんがいた。
今にも飛びかかりそうなイラついた空気を隠そうともしない。

……こんなに怒ってるリドさん、初めて見た。


「村長」

「その瞳の色、複雑な気配……何者だ。俺の村に何か用か」


かなり警戒しているだろうリドさんに呼びかけようとした瞬間、俺よりも近い位置にいるイアンさんが先手を取ってその問いに答えてしまう。


「ユウの、同居人だ」


……かなり誤解を招きそうな表現で。


「はあ?!ユウ、聞いてないぞ。俺と言うものがありながら!」


リドさんはその場から少し浮き上がったのではないか、と思うほどの大声をあげる。
耳痛っ!っていうか、意味わからないこと口走ってませんか?


「この人はアンナさんの息子さん、イアンさんです!俺が今借りているお家の家主さんですって!」


すぐにでも拳を繰り出せますよ、という臨戦態勢になっていたリドさんは、俺の言葉に動きを止めた。
次の瞬間、イアンさんにガッツリと詰め寄り、フードを脱がせ、マジマジと観察し始めた。


「お前、イアンなのか? 」

「どうも……リドさん」

「……話を聞こう。中に入れ」


1年以上旅に出てました!と言うだけでは説明がつかないその容貌の変わり様に、何か勘付いたのだろう。

リドさんは、それ以上何を言うでもなく、俺たちを家に招き入れた。





しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

処理中です...