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元勇者!

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「は~、驚いたわぁ。諦めていなければ良いこともあるのね! 」


ベッドに寝かされたイアン?さんを嬉しそうに眺めるアンナさん。
その姿は、正しく母だった。


「ふぅ~、なんとかなって良かったです」

「本当にありがとう、何て御礼を言ったら良いか分からないわ。貴方が見つけてくれなかったら、きっとこの子は……」

「アンナさんだって、住む村を紹介してくれた命の恩人ですよ」

「ふふ。リドさんの村で受け入れてくれたでしょう?あそこは自由だから、イアンも好んで住んでたのよ」

「あ、そういえばイアンさんも黒髪だったんですね。俺がここを訪ねた時に、アンナさんが驚いていなかったから、不思議だったんです」

「あら?イアンは元々黄色の髪よ。この色じゃなかったわ」

「へ?」

「……気配に、邪のものが混ざっているわ。きっと魔王討伐で呪いを受けたのねぇ」

「あ、なるほど。半魔ってそういうことか」


やっと不明だったワードに合点が行き、ほうほうとひとりでに頷いてしまった。


「半魔?あの子がそう言ったの? 」

「あっ、すいません!俺から話すべきことじゃなかったです」


余計なことを言ったかもしれない。
慌てて取り繕おうとしていると、静かな声が割って入った。


「……いい」


怠そうにベッドに腰かけたイアンさんのものだった。

イアンさんと目が合うと、改めて驚きで身を硬くしてしまう。
もっさりとした黒髪から覗く彼の瞳は、血が混ざっているかと思うほど紅く、瞳孔も鋭かった。

今までは緊張していたせいか、見えているようで何も認識できていなかったけど、普通の目じゃないことは分かる。

あれ、そういえば今俺が住んでる家って、イアンさんのものだったような……。


(あれ、じゃあ俺住むところ失うのか?)


突然の家無しフラグが立ったことに震えていると、イアンさんがゆっくりと立ち上がり、俺たちの座っている席に近づいてきた。


「俺、食われかけてから、この色になった」


辿々しく話される内容は、このほのぼのとした空間と同じ世界とは思えないほど、どうしようもなく恐ろしいものだった。
魔王に挑むために編成していたパーティーがほぼ壊滅状態のまま魔王城に誘い込まれてしまったらしい。

結局、魔王城に辿り着く前に命からがら逃げ出して、帰還できたのはイアンさん一人だったそうだ。


「まあ、生きて帰ってきたのなら良かったわ。またこうして会えたものねぇ! 」


肝っ玉母さんのアンナさんは近づいてきたイアンさんの背にバシっ!と平手を入れた。


「アンナさんっ!怪我人、怪我人!」

「あなたポーションをくれたんでしょう?それで完治も同然よ。気にしなくていいわ」

「えええ……」

「世話に、なった」

「ところでイアン、あなたそんなに喋れなかったかしら?呪いの影響? 」

「……多分」


さっきから寡黙な人だと思ってはいたけど、これが普通というわけではないらしい。

……アンナさんのようなお喋りで明るい人とは、確かに結びつかないな。


「イアン、これからどうするのかしら。その髪色、ここでは目立つわね。国からの御触れも出ているし……」

「さっき、勇者に会った」

「え、勇者って、現勇者ですか? 」

「魔物だって、斬られた」

「ええ……!!あの勇者、黒髪を連れ帰るのが目的じゃなかったのか」

「そうねぇ、邪のモノの雰囲気が出てしまっているからかもしれないわねぇ」

「イアンさん。もしかしてあの傷、魔族と戦って負ったんじゃなくて、勇者に斬られたんですか? 」

「ああ、昔の傷は……治ってた」

「っは~!!! 」


深いため息を吐かざるを得ない。
なんてことだ、確かに見た目は魔物っぽいけど、アンナさんの息子さんを手に掛けるなんて……。

俺がウンウン唸っていると、アンナさんとイアンさんで何やら話を決めたようで、俺に笑顔でこう言った。


「ユウくん、お願いがあるのよ」

「はい、俺に出来ることなら!」

「リドさんの村にいるということは、イアンの空き家に住んでるのよね?なら、イアンと一緒に棲んでくれないかしら」


……俺、耳がおかしくなったのかな。
今なんか一つ屋根の下でどうこうって聞こえた気がしたけど?

え?聞こえてるじゃんって?いや、だってそりゃ耳を疑うでしょう。

ちらりとアンナさんを盗み見てみると、やはりというか、なんというか……ニコリ!ともの凄くいい笑顔だった。


「この状態だし、一人にするのはちょっと心配じゃない?そしたらイアンったら、貴方となら住んでもいいっていうのよ」

「手当……礼がしたい」

「へ?!あ、ありがとうございます……?」

「それは、俺の方だ」


もし家がなくなるなら、リドさんの家に一時避難させてもらおうとも考えてたけど、これで一件落着……なのか?


アンナさんにニッコニッコと見送られ、フードで頭を覆ったイアンさんと連れ立って村に向かった。

道中、頭上に疑問符を飛ばし続けていたのは仕方ないことだったはず……だよな?!
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