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心配性

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バレスさんと俺はすっかり暗くなった街中を歩く。

帰りがけにポーションも買えたし、今日は大満足だ。

ちなみにポーションを買おうとしたら、カインさん同様、バレスさんにも変な目で見られてしまった。
プレゼント用と誤魔化したが、バレスさんもきっと鑑賞するために買ったなんて思ってはいないだろう。

いいんだ、ギルドで買い物なんてマニア垂涎の夢のような体験を出来たわけだし。
少しくらい変な目で見られたって全然辛くない!


(今度誰もいないところで、じっくり観察してみようかなぁ)


今はかなり暗くなってきてるから、日に当ててみたりしたい。
一人で想像を膨らませていると、バレスさんから声を掛けられる。


「ユウの住む村は近くだと言ったな?送ろう」 

「あ、お気遣いありがとうございます。でも、ちょっと寄りたいところもあるので、こちらで失礼しますね」

「……これからか?俺に付き合わせてしまったんだな、すまない。ただ、夜が深くなると危険だ。早めに帰るようにしてくれ」


それはそうなんだけど、バレスさんにあの村に住んでいる事を知られては困るんだ。

万が一、億が一でも、恋愛ドラマでよくある「近くを通ったから来ちゃった!」的な展開があったら、俺の身バレ確率は急上昇だ。

どうにかして、ここでバレスさんを撒きたい。


「大丈夫ですよ、逃げ足には自信があるので!じゃあ、今日はありがとうございました。またお店で」


俺は自分から話を切って握手をすると、メイン通りに向かって歩き出す。

あの後、きちんとリドさんに挨拶の主流を聞いたのだ。
今度はお辞儀するなんてヘマはしないぞ!

バレスさんは少し名残惜しそうな声色で、気を付けて、とだけ言うと視線だけで去る俺を追った。

メイン通りは人の往来がまだあり、出店のランプも灯っているため明るかった。
しかし、メイン通りを少しでも外れると暗闇が広がっている。

……前に助けたあの子達はこんなにも暗い中を生きているのだろうか。
今度様子を見に行ってみようかな。


「って、人の心配してる場合じゃ無いな。さっさと帰らなきゃ」


街の入り口まで辿り着くと、自慢の逃げ足で村までの道を駆け抜けた。


「ユウ!」


村の入り口が見えて来た頃。
暗い中だったから誰かわからなかったが、入り口でウロウロとしていた人影が俺を見つけて駆け出してくる。

声から察するに、リドさんだろう。
俺の存在を確かめるように、ギュッとホールドされる。


「く、苦しいです」

「……暗くなっても帰ってこないし、心配した。こんな時間まで一人でいるなんて危ないだろ」

「あ、一人ではなかったので大丈夫ですよ」

「……誰といたんだ」

「バレスさんです。この前の赤髪の騎士団長様ですよ。押し切られて、ちょっとお茶して帰ってきました」

(場所は酒場だったけどね!)

「そうか……」


やっぱり。バレスさんの名前を出すと、リドさんが意気消沈してしまう。
これは過去になんかあったな。良く職場で仲違いをした人達がこんな表情してた。


(コンプレックスがあったり、片方の陰口を聞いちゃったりして人間関係のドロドロが始まるんだよなあ)


職場の雰囲気が最悪だった当時の記憶を思い出していると、どこか元気のないリドさんが部屋に帰ろうと歩き出した。
……俺の手を引いたまま。


「リ、リドさん?毎日お邪魔するのは申し訳ないですよ!」


俺は足に力を入れて、その場に踏みとどまった。
毎日毎日俺が夕食を食べに行くなんて、迷惑以外の何物でもないはず。

そう思ったのだが、リドさんは俺の言動にショックを受けたようで、勢いよくこちらを振り返る。
合わさった瞳は、不安げに揺れていた。


「せっかく夕食を用意したんだけどな……」

「や、やっぱり行きます」


分かった。俺、押しに弱いんだ。


「そうか、よかった」


俺の返事を聞いたリドさんは、先程の不安げな表情は何処へやら、直ぐににこやかな表情へ切り替えた。
ズルズルと引っ張られるように移動させられる間、俺はまさに狐につままれたような感覚でいた。


(弱点をついた確信犯的な行動に見えてしまったのは、俺だけ?)


さっさと俺をテーブルまで移動させたリドさんは、キッチンへ消えていった。
着席してしまえばやることも少ないので、リドさんが夕食を用意しているところを観察してみる。


(どことなく漂うスパダリ感……)


用意を終えて戻ってくると、美味しそうな食材が並べられた皿を片手に、にこりと笑みを深めたリドさんは俺に交換条件を突きつけた。


「騎士団長との話、一つ残らず話してくれよ?」

(なるほど、食事をダシにして事情聴取って魂胆だったか!)


俺は観念して、夕方の一悶着を話しながら食事を摂り始めた。


「別に大した話じゃないですよ。仕事の話と、あとは……もう一人の転移者の目撃情報が出たことですかね」

「は?もうバレたのか?」

「違いますよ!別の黒髪が他国で目撃されたそうで、その話です」 

「……それはおかしいな、俺はまだ手を回してないぞ」


リドさんの話では、今回同様他国で目撃されたという偽情報を流すために、人選を始めた段階だったようだ。


(そんなことまでしてくれてるのか。リドさんには足を向けて寝られないなぁ)


俺がまたリドさんへの信頼を厚くしていると、
リドさんが真剣な表情で考えに耽っているのに気がつく。

意識がこちらへ向いていないのをいい事に、俺はリドさんの顔立ちを観察し始める。


(……本当に端正な顔立ちしてるなぁ、リドさんって)


茶色に近いようなオレンジの髪と、澄んだ黄色の目。
体格的に熊っぽいと思ってたけど、配色的には獅子と言ってもいい。

茶色がかった目の俺とは違い、澄んだ色をしている瞳は見ていると吸い込まれてしまいそうだ。

猛々しくありながらも洗練されたバレスさんとは、纏う空気がどこか違う。


(この感じ、何だろうなぁ)

「……ん?ユウ、どうした」

「いや、なんでもないです」

「……?その調査に勇者が向かったんだろ?邪魔者が遠ざけられて、とりあえずは良かったな」

「棚ぼたって感じですけどね」

「タナボタ?」


あ、しまった。使う言葉にも気をつけないといけないのか。


「そうだ、それはいいとして、今後ユウもここらを出歩く時には気をつけるんだぞ」

「へ?なんでですか?」

「勇者が通りかかるかもしれないし、今回の噂の出所や正体も定かじゃない。それらに遭遇しないための対策はした方がいいな」

「うぅーん、確かに」


噂の正体について少しでも知れるといいんだけど……そこまで考えて、俺はある妙案を思いつく。


(そうだ!王宮にいるケンに連絡を取れれば、何か分かるかもしれない)


もしかしたらその噂を流してくれたのはケンかもしれないし!

色々な可能性が浮かび、一気にやる気になった俺は、寝付くまで明日の行動計画組みに夢中になったのだった。


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