17 / 82
バレス騎士団長
しおりを挟む「ッ、君は昨日の……」
バレス騎士団長は俺に近寄ると、持っていた袋をテーブルに放置し、「失礼」と言いつつ俺の手を取る。
俺は呆気に取られて、握られたその手を眺めることしかできなかった。
(え、何……?)
そんな俺の様子を見て、バレス騎士団長は握った俺の手を優しく離すと、爽やかに微笑んだ。
「どうやら、心に大きな傷は残していないみたいだな……よかった」
(あ、なるほど。昨日俺が接触に過剰反応したのを気にしてたのか)
バレス騎士団長はホッとした様子で、話を続ける。
「それにしても、偶然だな。此処には良く来るのか?」
俺が返答に困っていると、カインさんが裏から戻ってきた。
「あれ?バレス君……どうしたんだい?」
「ああ、カインさん。聞きたいことがあって寄ったんだが、丁度探していた人がいてな」
バレス騎士団長の言葉に肩をギクリと揺らす。
(お、俺のこと探してたんかい!!)
バレス騎士団長の話を受けたカインさんは、訝しげに俺を見つめてきた。
おそらく俺があの村に来たばっかりだと知っているんだろう。
そりゃ疑問にも思うよな!こんなペーペーが騎士団長と知り合いって…
「昨日、ちょっとしたドタバタがありまして……」
俺がにへっと笑って割愛しようとすると、バレス騎士団長は眉間に少し皺を寄せた。
「あれをちょっとで済ますのか?……危うく君は奴隷にされかけたんだぞ」
「え?!そうなの、ユウ君」
「いや、この方が助けてくれたので、怪我もなくで全く問題なかったというか!」
カインさんにまで厳しい表情で詰め寄られ、俺は慌ててバレス騎士団長に助けられたことを説明する。
気分は詰所で尋問される犯罪者だ。
そんな俺の様子に、カインさんが額に手を当て深く息を吐いた。
「はぁぁあ~……バレス君、ありがとうね」
「いえ、俺は責務を果たしただけなので」
(え、なんか俺が悪いみたいな空気になってない?!)
カインさんは俺の肩を持つと、バレス騎士団長ににこやかに話しかける。
「この前店の子が怪我したでしょ?復帰するまでの間、このユウ君がお店に来てくれることになってね。ま、バレス君と面識があるなら安心だね」
(ああ、カインさん!名前まで教えちゃったよ…!)
「そうか……ユウ、か。綺麗な音の名だな」
「あ、どうもありがとうございます」
小っ恥ずかしい褒め言葉をかけられながら、また手を握られる。
(ひぇ、手握るの好きだな!!)
「騎士団を率いている、バレスという者だ。この店は時折利用させて貰ってる」
「そうそう、お偉いさんなんだよ~」
カインさんが緩い合いの手を入れてくるが、そんなこと百も承知だ。
「き、騎士団長さんなんですね。こんな立派な人が団長なら此処も安泰だなぁ~」
俺は彼の機嫌を損ねない様に、ゴマを擦りつつ話を終わらせようとした。
これ以上この話題を続けてたらボロが出そうなんだよ!察してくれ!
「この国を守る任を拝命しているからな、腕には自信がある。それよりも、君には申し訳ないことをした。助けるのが遅れておきながら、見当違いの説教をしてしまったな」
この人、煽てに全然乗ってくれない。
「いえ、路地裏に入ったのは俺の落ち度なので、気にしないでください!寧ろお手数をおかけしました」
すみません、と謝ると複雑そうな顔をしたバレス騎士団長が俺の手を離し、考え込む。
「あの様なことが起きないよう、我ら騎士団が巡回しているんだが……十分な結果は得られていないな」
「……ジュンカイ?」
(騎士団が街をパトロールしてんのか!)
つ、つまり……行き帰りの度に人の目を盗んで動かなきゃならんってことか?!
路地裏でなくても気が抜けない状況だと判明し、俺は冷や汗をかく。
「そ、そうなんですね。で、今日はどうしてこちらに?」
「ああ、そうだった。カインさん、昨日の納品物だが……」
俺の必死の振りで、話題は完全にカインさんとバレスさんの共通の話題に移り変わった。
(に、逃げ延びたっ!)
九死に一生を得た。
まさにそんな状態な俺は、必要以上の体力を使った気がして、よろよろと店内を彷徨く。
「ユウ」
2人は10分ほど話し込んでいたが、やっと用が終わったらしい。
バレス騎士団長が綺麗な動作で荷物を整えながら俺に話しかける。
「……今度俺に時間をくれないだろうか」
「へ?」
「この間の礼がしたい」
「いや、お礼される様なことは何も」
「また明日来る。考えておいてくれ」
「ちょっ……!!」
俺の返事を待たず、というか遮りながら颯爽と店を出て行くバレス騎士団長。
……その背は、少し緊張しているようだった。
カインさんはニコニコしながら俺に話しかける。
「めっずらしいね~、バレス君が自分から声を掛けるなんて。誘い方下手だったでしょ?……彼、堅物で有名なんだ」
「いやいや、そういう情報は良いですから!」
寧ろ知りたくなかったですよその情報!!
出勤初日、本当だったら楽しく働くはずが……なんでか騎士団長にお茶に誘われる羽目になってしまった。
(俺、本当に此処でやっていけるのだろうか……)
273
お気に入りに追加
5,036
あなたにおすすめの小説

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

悪役令息に転生したので、断罪後の生活のために研究を頑張ったら、旦那様に溺愛されました
犬派だんぜん
BL
【完結】
私は、7歳の時に前世の理系女子として生きた記憶を取り戻した。その時気付いたのだ。ここが姉が好きだったBLゲーム『きみこい』の舞台で、自分が主人公をいじめたと断罪される悪役令息だということに。
話の内容を知らないので、断罪を回避する方法が分からない。ならば、断罪後に平穏な生活が送れるように、追放された時に誰か領地にこっそり住まわせてくれるように、得意分野で領に貢献しよう。
そしてストーリーの通り、卒業パーティーで王子から「婚約を破棄する!」と宣言された。さあ、ここからが勝負だ。
元理系が理屈っぽく頑張ります。ハッピーエンドです。(※全26話。視点が入れ代わります)
他サイトにも掲載。

僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる