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バレス騎士団長

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「ッ、君は昨日の……」


バレス騎士団長は俺に近寄ると、持っていた袋をテーブルに放置し、「失礼」と言いつつ俺の手を取る。

俺は呆気に取られて、握られたその手を眺めることしかできなかった。


(え、何……?)


そんな俺の様子を見て、バレス騎士団長は握った俺の手を優しく離すと、爽やかに微笑んだ。


「どうやら、心に大きな傷は残していないみたいだな……よかった」

(あ、なるほど。昨日俺が接触に過剰反応したのを気にしてたのか)


バレス騎士団長はホッとした様子で、話を続ける。


「それにしても、偶然だな。此処には良く来るのか?」


俺が返答に困っていると、カインさんが裏から戻ってきた。


「あれ?バレス君……どうしたんだい?」

「ああ、カインさん。聞きたいことがあって寄ったんだが、丁度探していた人がいてな」


バレス騎士団長の言葉に肩をギクリと揺らす。


(お、俺のこと探してたんかい!!)


バレス騎士団長の話を受けたカインさんは、訝しげに俺を見つめてきた。
おそらく俺があの村に来たばっかりだと知っているんだろう。

そりゃ疑問にも思うよな!こんなペーペーが騎士団長と知り合いって…


「昨日、ちょっとしたドタバタがありまして……」


俺がにへっと笑って割愛しようとすると、バレス騎士団長は眉間に少し皺を寄せた。


「あれをで済ますのか?……危うく君は奴隷にされかけたんだぞ」

「え?!そうなの、ユウ君」

「いや、この方が助けてくれたので、怪我もなくで全く問題なかったというか!」


カインさんにまで厳しい表情で詰め寄られ、俺は慌ててバレス騎士団長に助けられたことを説明する。

気分は詰所で尋問される犯罪者だ。

そんな俺の様子に、カインさんが額に手を当て深く息を吐いた。


「はぁぁあ~……バレス君、ありがとうね」

「いえ、俺は責務を果たしただけなので」

(え、なんか俺が悪いみたいな空気になってない?!)


カインさんは俺の肩を持つと、バレス騎士団長ににこやかに話しかける。


「この前店の子が怪我したでしょ?復帰するまでの間、このユウ君がお店に来てくれることになってね。ま、バレス君と面識があるなら安心だね」

(ああ、カインさん!名前まで教えちゃったよ…!)


「そうか……ユウ、か。綺麗な音の名だな」

「あ、どうもありがとうございます」


小っ恥ずかしい褒め言葉をかけられながら、また手を握られる。


(ひぇ、手握るの好きだな!!)


「騎士団を率いている、バレスという者だ。この店は時折利用させて貰ってる」

「そうそう、お偉いさんなんだよ~」


カインさんが緩い合いの手を入れてくるが、そんなこと百も承知だ。


「き、騎士団長さんなんですね。こんな立派な人が団長なら此処も安泰だなぁ~」


俺は彼の機嫌を損ねない様に、ゴマを擦りつつ話を終わらせようとした。
これ以上この話題を続けてたらボロが出そうなんだよ!察してくれ!


「この国を守る任を拝命しているからな、腕には自信がある。それよりも、君には申し訳ないことをした。助けるのが遅れておきながら、見当違いの説教をしてしまったな」


この人、煽てに全然乗ってくれない。


「いえ、路地裏に入ったのは俺の落ち度なので、気にしないでください!寧ろお手数をおかけしました」


すみません、と謝ると複雑そうな顔をしたバレス騎士団長が俺の手を離し、考え込む。


「あの様なことが起きないよう、我ら騎士団が巡回しているんだが……十分な結果は得られていないな」

「……ジュンカイ?」


(騎士団が街をパトロールしてんのか!)


つ、つまり……行き帰りの度に人の目を盗んで動かなきゃならんってことか?!
路地裏でなくても気が抜けない状況だと判明し、俺は冷や汗をかく。


「そ、そうなんですね。で、今日はどうしてこちらに?」

「ああ、そうだった。カインさん、昨日の納品物だが……」


俺の必死の振りで、話題は完全にカインさんとバレスさんの共通の話題に移り変わった。


(に、逃げ延びたっ!)


九死に一生を得た。
まさにそんな状態な俺は、必要以上の体力を使った気がして、よろよろと店内を彷徨く。


「ユウ」


2人は10分ほど話し込んでいたが、やっと用が終わったらしい。
バレス騎士団長が綺麗な動作で荷物を整えながら俺に話しかける。


「……今度俺に時間をくれないだろうか」

「へ?」

「この間の礼がしたい」

「いや、お礼される様なことは何も」

「また明日来る。考えておいてくれ」

「ちょっ……!!」


俺の返事を待たず、というか遮りながら颯爽と店を出て行くバレス騎士団長。
……その背は、少し緊張しているようだった。
カインさんはニコニコしながら俺に話しかける。


「めっずらしいね~、バレス君が自分から声を掛けるなんて。誘い方下手だったでしょ?……彼、堅物で有名なんだ」

「いやいや、そういう情報は良いですから!」


寧ろ知りたくなかったですよその情報!!

出勤初日、本当だったら楽しく働くはずが……なんでか騎士団長にお茶に誘われる羽目になってしまった。


(俺、本当に此処でやっていけるのだろうか……)

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