13 / 82
さいしょのむら
しおりを挟むその言葉を聞いた瞬間、物凄い脱力感に襲われて、思わず膝から崩れ落ちてしまった。
何も事情を知らない人が見れば、俺がリドさんに土下座をしているようにも見えるだろう。
「な、なんだって……!」
("さいしょのむら"が王宮の目と鼻の先?運良く王宮から逃れられたと思ったらコレだよ…!)
信じていたものに無様に裏切られた気分だ。
黄金だと思ったらメッキの下が土塊だった!とか、そんな感じの。
そこでふと、元いた世界でやっていたRPGを思い出す。
(あ……そっか。王道のゲームでは、王様に魔王を倒すように命令されるあの瞬間から、勇者としての冒険を始めるのか)
その勇者が最初に立ち寄るのが"さいしょのむら"
だからこそ、王宮の近くに長閑な村の一つや二つあってもおかしくないんだ。
「も、盲点だった……」
長閑な村だったからラッキーくらいに考えてたけど、召喚に巻き込まれた人間が王宮付近に落ちた結果だったのか……!
(後もう少し座標を外してくれれば!)
頭を抱えて蹲る俺をジッと物珍しげに見つめているリドさんは、続けて更なる爆弾を落としていく。
「だから、この港街には勇者や騎士団も頻繁に出入りしてる。なんなら、俺の村で卸してる作物や肉のお得意様だったりするぞ?」
「リドさん!俺……この村を出ます。短い間でしたが、お世話になりましたっ!」
俺が切羽詰まった顔でそう宣言すると、リドさんは少し眉尻を下げた。
それは、例えるなら遊びを断られた大型犬のような表情だった。
「オイオイ、そんな寂しいこと言うなって。そもそも、魔族を倒せない人間の行動できる範囲には、勇者一行も必ず来ると言っていいからな」
「えっ?!そうなんですか?!」
「魔族を倒すことが出来ない、そういう弱い人間を狙って行動する魔物もいる。勇者一行は国中を旅しながら民を守ったりしてるってことだよ」
「ウッ、凄くいい話なのに……俺にとってはまさに四面楚歌!」
未だに俺が地面に這いつくばる勢いで落ち込んでいると、リドさんは優しい笑顔で俺に笑いかけた。
「ま、そういうことで、1番事情を知っててお前のことを匿ってやれるのは……俺だろ?」
(た、確かにっ!)
ペカーッと、リドさんに後光が差している。
「はぁっ……リド様!!」
上手く丸め込まれた気もするが、リドさんに限って俺なんかを村に引き留めようとはしないだろう。
俺が「救いの手!」と満面の笑みでリドさんの手を握ると、リドさんは居心地が悪そうな顔をして首を横に振った。
(あれ?なんかリドさん、元気ない?)
「……その呼び方辞めないか?」
「あ、すみません。あまりに頼りになりすぎて」
「それは嬉しいけどな。ま、取り敢えず家に戻って一旦落ち着こう」
「……っはい!!」
リドさんはそう言うと、来た時よりも幾分か早い歩調で歩き出す。
ボーッとしてたら置いていかれそうだ。
(リドさん、あの騎士団長を見かけたあたりから少し様子がおかしい気がする…)
よく見せるあの余裕綽々な笑みではなく、いわば普通の人の笑顔になってる。
(って、そりゃリドさんに失礼か)
拭えない違和感は残るものの、足早に家へと向かう道を進むリドさんの後を追った。
268
お気に入りに追加
5,036
あなたにおすすめの小説

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

悪役令息に転生したので、断罪後の生活のために研究を頑張ったら、旦那様に溺愛されました
犬派だんぜん
BL
【完結】
私は、7歳の時に前世の理系女子として生きた記憶を取り戻した。その時気付いたのだ。ここが姉が好きだったBLゲーム『きみこい』の舞台で、自分が主人公をいじめたと断罪される悪役令息だということに。
話の内容を知らないので、断罪を回避する方法が分からない。ならば、断罪後に平穏な生活が送れるように、追放された時に誰か領地にこっそり住まわせてくれるように、得意分野で領に貢献しよう。
そしてストーリーの通り、卒業パーティーで王子から「婚約を破棄する!」と宣言された。さあ、ここからが勝負だ。
元理系が理屈っぽく頑張ります。ハッピーエンドです。(※全26話。視点が入れ代わります)
他サイトにも掲載。

僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる