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それ先に言ってくれ!
しおりを挟む男の胸ぐらを掴んだ男性は、リドさんに負けないくらい筋骨隆々といった体型で、その場にいるだけで威圧される様な雰囲気を放っている。
「この国に、お前のような輩は相応しく無い」
憎々しげにそう言い放った男性は、掴んでいた奴隷商の男を、そのまま振りかぶり地面に叩きつけた。
(え、ええええええ?!?!)
物理法則を圧倒的に無視した攻撃方法に、俺は自分の目がおかしくなったのかと何度も目を擦ったが、この光景に変化はない。
慣れた手つきで奴隷商を縛り上げると、直ぐに男性は俺のそばに近寄って膝をついた。
近くで見ると、洗練されたその声に見合った精悍な顔立ちをしていた。
男らしいキリッとした眉と、それに反して優しげな眼差し。
(ぐわぁぁあ、正統派イケメン……!!)
「助けに入るのが遅れてすまない。奴隷商なんぞに触れられて……怖かっただろう?」
「あ、俺は大丈夫です。というか、むしろその後の衝撃がすごくて……」
「後?」
あ、やべ。気が動転して要らんことを言いそうになってしまった。
「あ、なんでもないんですっ!とにかく、ありがとうございました」
「こんな路地裏に1人は危険だ。不甲斐ない話だが、路地裏ではああいう輩が出やすい。どうして入ったかは分からないが、今後は気を付けて……」
「お兄さん!」
「あ!」
呼びかけられた声に振り返ると、
さっき助けた男の子が、手にオレンジの様な果物を持って此方に近づいてきていた。
「さっきはありがとうございました!お礼に……これを」
それだけ伝えると、俺を助けに入った男性をチラリと一瞥し、また走って立ち去って行った。
「……そうか、俺は君に礼を言わなければいけなかったようだ」
「へ?!あ、いや、それで助けられてたら訳ないっていうか」
俺はそこまで喋ってハッとする。
(なんでお礼を言われてるんだ?俺……)
別に俺が勝手にやったことで、彼にはなんの関係もないはずなのに。
そこでようやく、俺はさっきの赤髪の男性の手慣れた拘束方法と、規格外の強さを思い出す。
(もしやこの人、警察的な役割の人とかだったりする?!)
その可能性に辿り着いた瞬間、俺はスカーフで顔の半分程度を隠した。
(やばいやばいやばい!髪見えてなかったかな)
俺の様子がおかしいことに勘づいたのか、男性は極力優しく声を掛けてくる。
「大丈夫だ。アレは私が責任を持って詰所に連行しよう。安心してくれ」
スカーフを掴んでいない方の俺の手を、包む様に上から手を重ねられる。
思わず、距離が近くなることの恐怖でビクッと体を揺らすと、何を勘違いしたのか彼が悲痛な顔をした。
「……すまない、配慮が足りなかった」
そう言って重ねていた手をそっと離した。
(あ、勘違いさせちゃったかな?)
そう思いつつも、俺としては奴隷商よりも身バレが1番怖いので、さっさとここから立ち去りたい。
「あの、もう大丈夫ですので。メイン通りも近いですし」
「そうか……では、少しだが送ろう」
「大丈夫です!連れがいますので!」
俺はそこまでいうと、近い距離感に耐えられず、するりとその人を躱しメイン通りへと走る。
だが失礼すぎる態度もいかがなものかと思ったので、一度向き直り深くお辞儀した。
「本当にありがとうございました!」
逃げられると思っていなかったのか、赤髪の男性はポカン、としながら俺を見ていた。
(すまん、赤髪さん……!!助けてくれたのは凄くありがたかったけど、主要人物っぽすぎるんだよね!)
走り出した勢いのままメイン通りへと躍り出ると、リドさんが必死に何かを探していた。
「ユウ!どこだ!」
(あ!俺か!!)
その様子に不謹慎ながらもちょっと嬉しく思ってしまう。
小走りで駆け寄り、リドさんの腰に抱きついた。
……何故こんな行動を取ったかというと、後ろから赤髪の男性が追ってきているのに気が付いていたからに他ならない。
「リドさん!」
「っ!ユウ、お前今までどこに……っ!」
リドさんは俺に向き直り、赤髪の男性を視界に捉えたらしく、数秒フリーズする。
そして、俺を両腕で抱きしめた。
「へ?!」
「大人しくしてろ」
耳元でそう囁くと、俺を抱き上げて市場を離れていく。
(いやいやいや、逆に目立つってば!!!)
抱え上げられてしまったのでは抵抗しようもないと、リドさんの腕の中で縮こまるしか出来なかった。
「ユウ、なんでアイツが?」
「いやぁ……色々ありまして。あの人って国の人だったりしますか?」
「ああ、あの燃える様な赤髪と隊服…バレス騎士団長だ」
「き……っ?!」
騎士団長ぉっ?!?!
俺は泡を吹いて気を失いそうになりながら、リドさんにさらに強く抱きついた。
「なんで騎士団の、しかも団長さんがこんなとこにいるんですか!」
「こんな……?ああ、話し忘れてた」
あの草原に続く道まで歩いてきたリドさんは、俺をそっと降ろし、頭を撫でた。
「この国……オスティア国は海運で成り立っている国なんだ」
「ああ、だから港街が栄えているんですね……ん?」
「そうだ、ここはこの国1番の港街。つまりは、この国の首都」
俺はリドさんの言葉に、既に冷や汗が止まらない状態になっていた。
やけに心臓の音が大きく感じる。
リドさんは言葉を一旦区切ると、頭を撫でていた手を退けた。
「ここ、<フィラ>は王宮がある首都なんだ」
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