巻き込まれ異世界転移者(俺)は、村人Aなので探さないで下さい。

はちのす

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初めての街

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俺とリドさんは生い茂った草を踏み越え、土で固められた道へと辿り着いた。

数メートル程先に、メイン通りの開始地点が見える。
石畳で綺麗に舗装され、今まで歩いた草原とは打って変わって人工的な風景だった。

俺は来た道を振り返り、ふと疑問に思う。


「それにしても、村の皆さんこの道を使うんですよね?……やけに草が生えてませんでした?」 

「何かおかしい事でもあるのか?普通だろ」

「え、草って普通踏んだら枯れていきますよね?」

「そんな軟弱なわけ……まさか、そっちではそうだったのか?」


後半は周りに気を遣ってか、声を潜めて質問を投げかけてきた。


「そうでした。踏まれて枯れて、それが道になるんです。どうもこっちでは事情が違いそうですね」

「成程、色々違いはありそうだな。今度こっちの魔物や植物についても知る機会を作ってやるよ。生活に必要だろう?」

「わぁっリド様ッ!ありがとうございます!」


俺がキラキラとした眼差しでまた拝み始めると、リドさんは困った様に苦笑した。


「それ何のポーズか分からないが、なんか恥ずかしいな」

(リドさん、多分その感覚合ってます…)

「ほら、あれが市場だ。見てみろ、毎日村の10倍は人が出入りしてる」


リドさんが指を差した先、メイン通りの奥の方。
出店が連なった先に、ドラマや映画で見たような市場が広がっていた。

樽の蓋を取った中に沢山の野菜が詰められていたり、捌きたての鶏らしき肉などが軒先に吊り下げられている。
港街らしく市場の1番良いど真ん中のスペースでは魚類が取り扱われている。
またある一角では、お酒の様な物も樽ごと売られていた。

遠目に見るだけでも彩豊かなその風景に、沸き起こる好奇心が抑えられない。


(すっっっっごぉおい!)


こんなのヨーロッパの港でしか見られない風景だ、と心の中で大はしゃぎしてしまう。
勿論子供っぽく見られるのは嫌なので、表面的にはクールぶっているが。


「すっ、すごいですね。近くでも見てみたいなーなんて……」

「遠慮せずどうぞ!と言いたい所だが、先に目的を果たしてからにしろよ?」


あれが服屋だ、と指差されたのは入り口から程近い場所にある店だった。


(うっ…確かにこっちから済ませた方がいいよな…)


表には出さないように適度に落ち込みつつ入店すると、これまた華やかな服が売られている。

俺のイメージでは、てっきり日頃着る服を買いに来たのだと思っていたから、入った瞬間にフリーズしてしまった。


「え、リドさん?これ、うちの村では浮いちゃうんじゃ」

「ユウには綺麗な色の服が似合うと思ったんだ。働く時の服は、また俺のお下がりでいいだろう」

「……え」

(と、ということは、オシャレ着なんですかっ?!)


はにかんだ笑みを残すと、リドさんはテキパキと服を選び始める。

深紅や深緑の色合いの服を2着持ってくると、俺に押し付け持たせた。


「えっ、えっ……?」

「これは頭まで布がくる形状の服だ。試しに着てみろ」

「は、はいっ!」


恩人の命令には逆らえん!と、ササっと小部屋に移動し、深紅の服に着替えた。

なんだか気恥ずかしくて、ひょっこりと小部屋のドアから顔を覗かせると、リドさんは上機嫌に俺の顔を見つめていた。


「似合っただろ?」

「なんか、自信満々ですね……」

「俺の目に狂いはないからな」


リドさんは俺が脱ぐのも待たず、会計を始めてしまう。


「あ、あの。まだ買うって決めてなくて……」

「そんなに似合うんだ、これきりしか見れないなんて勿体無いだろ?」


リドさんは俺の持っている2着の会計を済ませると、外で待つ、と言って出てってしまった。


「あ、嵐の様な人だな」


俺は洋服屋の店主にニコニコと見守られながら、元の服に着替え店を出た。
店を出た瞬間、荷物を掠め取られ俺は手ぶらになってしまう。


「よし、目的は果たしたから市場でも見るか」

「おおお…っ!!!」


俺が思わず拍手をすると、また困った様に笑った。


(あ、拍手も通じないのか)


俺はハッと気が付き、いそいそと手をどかす。


(これじゃあめちゃくちゃ変な奴だよな…この世界にない癖はやめられるようにしないと)

「ユウ、次は市場での買い物なんだが、何分人が多い。逸れないようにな」


リドさんの心配は最もで、市場周辺はこの街でも1番混み合っていた。
俺はリドさんの半歩後ろに下がると、袖の裾をギュッと握る。


「ユウ?」

「逸れないように、対策しておきます!」


どうだ!と言わんばかりのしたり顔で悪戯っぽく笑いかけると、リドさんは顔を手で覆い唸り始めた。


「はぁぁ……お前という奴は」

「え、え?」


突然の唸りに動揺しているうちに、リドさんは顰めっ面で人波の中をズンズンと市場へと歩いて行ってしまう。

……俺の歩幅に合わせて。


(なんで不機嫌なのかは分からないけど……歩調を合わせてくれるあたり、俺に怒っているわけではなさそうだ)


疑問に思いつつも、俺も早足でリドさんの後をついて行った。


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