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街って、ここ?!
しおりを挟む「おはようございます!」
「おう、おはよう」
この村に来て最初の朝。
リドさんの家に向かった俺は、昨日貰った青のスカーフとリドさんのお下がりを着ていた。
……お下がりだというのに、少しサイズが大きいのが辛い。
「こんなにリドさんに貰った物ばっかり着てると、なんか照れますね……」
裾を弄りながら照れ笑いすると、リドさんが硬直してしまった。
まさに恐ろしいもの見た、という顔だ。
「え、リドさん?どうしました!?」
「あ、いや、すまない……考え事をしていた」
「?そうですか」
挙動不審なリドさんに連れられて村を出ると、昨日歩いてきた草原がある方向とは逆に進み出した。
「あ、街はこっちなんですね」
「そうだ」
街への道はそこまで整備されておらず、ザクザク茂った草を踏むように歩く。
(これ、某ゲームならモンスターが出てきそう……〇〇がとびだしてきた!的な感じで)
自分の想像にちょっと笑いながら、大きな背を追うようにして歩く。
「リドさん、魔族ってここら辺に出たりするんですか?」
「ここらは高位の魔族は出ないな。勇者以外の戦闘向きな奴は冒険者になるんだが、その駆け出しの冒険者達でもタコ殴りすれば勝てるようなのばかりだ」
「タコ殴り……」
俺は思わず、転移者だとバレて冒険者達に囲まれて殴られる想像をしてしまった。
(俺の敵は、魔族だけではなく人間もなのかもしれないなあ)
若干気分が悪くなりながらも、しっかりとした足取りで進んでいると、ふと嗅ぎ慣れない匂いが風で運ばれてきた。
「あれ……?海の香り?」
「お、気が付いたか。鼻がいいな」
歩いてきた場所は小高くなっているらしく、先の風景は空と……
光を反射して青色に煌めく海が、木々の隙間を縫って見えてきていた。
「うわぁ……!」
思わず開けた場所まで走り、その全景を視界に捉える。
海には様々な帆船が行き交い、海に接する土地には、石畳が敷かれて簡易的な港になっていた。
街自体も栄えており、ここの林に繋がる道はメイン通りとして出店などが並んでいる。
「ええ、ええ?!ええ…」
驚きと興奮に感情が迷子になり、とにかく感嘆を漏らすしか出来なかった。
(あの如何にもRPGあるある"さいしょのむら"っぽい所の近所がこんなに栄えてるんだ!)
「凄いだろう。この国1番の港街なんだ」
ニカッと笑っているリドさんは、俺の反応を楽しんでいるようだった。
「はいっ!早く見て回りたいですっ!!」
「はは、そう焦るなって。この街は今後も使う事になるから、じっくり見て周ろうか」
「え、皆さん頻繁に来るんですか?」
「ああ、そりゃあ育てたモン売りに来ないと金は出来ないからな」
「……あ!そうか、ここに市場的な機能もあるんですね!」
「そういうことだ。よし、まずはユウの服を買って、それから市場を見て回ろう」
「はい、ありがとうございます!」
(すごい、すごい!これぞ異世界だ……!)
前の世界で海に縁遠い場所に住んでいたため、こんなに人が往来する、発展した港街を観光するのは稀だった。
(いけない、観光しに来たんじゃないだろ!これからの仕事に役立つかもしれないんだ。気合い入れなきゃ)
にへっと緩んでいた表情を正し、リドさんと並び立ってメイン通りに続く道へと足を踏み入れた。
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