9 / 82
街って、ここ?!
しおりを挟む「おはようございます!」
「おう、おはよう」
この村に来て最初の朝。
リドさんの家に向かった俺は、昨日貰った青のスカーフとリドさんのお下がりを着ていた。
……お下がりだというのに、少しサイズが大きいのが辛い。
「こんなにリドさんに貰った物ばっかり着てると、なんか照れますね……」
裾を弄りながら照れ笑いすると、リドさんが硬直してしまった。
まさに恐ろしいもの見た、という顔だ。
「え、リドさん?どうしました!?」
「あ、いや、すまない……考え事をしていた」
「?そうですか」
挙動不審なリドさんに連れられて村を出ると、昨日歩いてきた草原がある方向とは逆に進み出した。
「あ、街はこっちなんですね」
「そうだ」
街への道はそこまで整備されておらず、ザクザク茂った草を踏むように歩く。
(これ、某ゲームならモンスターが出てきそう……〇〇がとびだしてきた!的な感じで)
自分の想像にちょっと笑いながら、大きな背を追うようにして歩く。
「リドさん、魔族ってここら辺に出たりするんですか?」
「ここらは高位の魔族は出ないな。勇者以外の戦闘向きな奴は冒険者になるんだが、その駆け出しの冒険者達でもタコ殴りすれば勝てるようなばかりだ」
「タコ殴り……」
俺は思わず、転移者だとバレて冒険者達に囲まれて殴られる想像をしてしまった。
(俺の敵は、魔族だけではなく人間もなのかもしれないなあ)
若干気分が悪くなりながらも、しっかりとした足取りで進んでいると、ふと嗅ぎ慣れない匂いが風で運ばれてきた。
「あれ……?海の香り?」
「お、気が付いたか。鼻がいいな」
歩いてきた場所は小高くなっているらしく、先の風景は空と……
光を反射して青色に煌めく海が、木々の隙間を縫って見えてきていた。
「うわぁ……!」
思わず開けた場所まで走り、その全景を視界に捉える。
海には様々な帆船が行き交い、海に接する土地には、石畳が敷かれて簡易的な港になっていた。
街自体も栄えており、ここの林に繋がる道はメイン通りとして出店などが並んでいる。
「ええ、ええ?!ええ…」
驚きと興奮に感情が迷子になり、とにかく感嘆を漏らすしか出来なかった。
(あの如何にもRPGあるある"さいしょのむら"っぽい所の近所がこんなに栄えてるんだ!)
「凄いだろう。この国1番の港街なんだ」
ニカッと笑っているリドさんは、俺の反応を楽しんでいるようだった。
「はいっ!早く見て回りたいですっ!!」
「はは、そう焦るなって。この街は今後も使う事になるから、じっくり見て周ろうか」
「え、皆さん頻繁に来るんですか?」
「ああ、そりゃあ育てたモン売りに来ないと金は出来ないからな」
「……あ!そうか、ここに市場的な機能もあるんですね!」
「そういうことだ。よし、まずはユウの服を買って、それから市場を見て回ろう」
「はい、ありがとうございます!」
(すごい、すごい!これぞ異世界だ……!)
俺は前の世界で海に縁遠い場所に住んでいたため、こんなに人が往来する、発展した港街を観光するのは稀だった。
(いけない、観光しに来たんじゃないだろ!これからの仕事に役立つかもしれないんだ。気合い入れなきゃ)
にへっと緩んでいた表情を正し、リドさんと並び立ってメイン通りに続く道へと足を踏み入れた。
254
お気に入りに追加
5,007
あなたにおすすめの小説
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
異世界に転生してもゲイだった俺、この世界でも隠しつつ推しを眺めながら生きていきます~推しが婚約したら、出家(自由に生きる)します~
kurimomo
BL
俺がゲイだと自覚したのは、高校生の時だった。中学生までは女性と付き合っていたのだが、高校生になると、「なんか違うな」と感じ始めた。ネットで調べた結果、自分がいわゆるゲイなのではないかとの結論に至った。同級生や友人のことを好きになるも、それを伝える勇気が出なかった。
そうこうしているうちに、俺にはカミングアウトをする勇気がなく、こうして三十歳までゲイであることを隠しながら独身のままである。周りからはなぜ結婚しないのかと聞かれるが、その追及を気持ちを押し殺しながら躱していく日々。俺は幸せになれるのだろうか………。
そんな日々の中、襲われている女性を助けようとして、腹部を刺されてしまった。そして、同性婚が認められる、そんな幸せな世界への転生を祈り静かに息を引き取った。
気が付くと、病弱だが高スペックな身体、アース・ジーマルの体に転生した。病弱が理由で思うような生活は送れなかった。しかし、それには理由があって………。
それから、偶然一人の少年の出会った。一目見た瞬間から恋に落ちてしまった。その少年は、この国王子でそして、俺は側近になることができて………。
魔法と剣、そして貴族院など王道ファンタジーの中にBL要素を詰め込んだ作品となっております。R指定は本当の最後に書く予定なので、純粋にファンタジーの世界のBL恋愛(両片思い)を楽しみたい方向けの作品となっております。この様な作品でよければ、少しだけでも目を通していただければ幸いです。
GW明けからは、週末に投稿予定です。よろしくお願いいたします。
悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)
【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される
秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】
哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年
\ファイ!/
■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ)
■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約
力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。
【詳しいあらすじ】
魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。
優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。
オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。
しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる