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リドさんの世話焼き
しおりを挟む案内された家は、一人暮らしには少し大きいくらいの立派な家だった。
ちなみに、リドさんは忘れ物をしたとか何とかで、一度家に帰っている。
「犬小屋でもいいので住まわせて下さい!っていう意気込みで来たんだけどな……皆良い人ばっかりだ」
俺はまず部屋の掃除から始めた。
村の皆が定期的に手入れに来ていたらしいけど、やはり掃除をしなければ住める状態ではない。
(というか、定期的に空き家の掃除なんて!よほどアンナさんの息子さんの人望が厚かったのか……もしくは、村の皆さんの人の良さなのかも)
恐らくどっちもだろう。
良い村の近くに落とされたなと、しみじみと思う。
「でも、これからどうしようかな。何をするにもこの黒髪が邪魔しそうだし」
俺は肩を落としながら、雑巾を洗う。
外で作業しようにも、結構村民からの注目は受けやすいのだ。
村民ならまだ良いが、外部の人間に見つかったら目も当てられない。
「魔物だ!って切り捨てられたりなんかして!!」
俺はプルプルと震えながら、今後の打開策について考えていた。
「ユウ、部屋はどうだ?」
「リドさん!見てください、結構綺麗になりましたよ!」
「あぁ、これなら夕方までには落ち着けそうだな」
「おかげさまで……家まで用意して貰って、本当にありがとうございます」
礼儀正しく一礼すると、リドさんはニンマリと笑った。
「ま、その分働いてもらうぞ?」
「はい、勿論です!!」
「良い返事だ……ああ、そうだ。これユウにやろうと思ってな」
リドさんは俺に質の良さそうな青い布を渡してきた。
生地には少しの光沢があり、シルクのような手触りだ。
「え!?こんな良いもの、受け取れませんよ!」
「いや、必需品なんじゃないか?それ、頭に巻いてみろよ」
「頭に……?」
俺は言われた通り、頭を一周するように被ってみる。
「あ!髪の毛の色が見えない…!」
なるほど、帽子の代わりってことか!
スカーフってところが、ちょっと異世界っぽくていいな。
「それは俺からの引越し祝いだ。似合うぞ」
リドさんは布の上から軽くポンポンと頭を叩いてくる。
「そんな!住む場所までいただいたのに、こんな素敵なもので……」
「お前は遠慮し過ぎなところがあるな。いいんだ、俺の好きでやってるから」
優しげな目つきで頭を撫でられてしまえば、もう反論はできなかった。
(ここで貰わなきゃ、逆に失礼かも)
「ありがとうございます」
「おう、いいってことよ。あと、これも。俺のお下がりだけどな」
リドさんに手渡されたのは、薄く青色で染めてある服だった。
ゆるりとしたシルエットで、動きやすそう。
「勿論俺にはもう小さいし、貰い手がいなかったんだ。アンナの婆さんの服だけだと、洗い替えがないだろ?」
「な、何から何まで……ありがとうございます!」
俺は思わず、神様リド様村長様と拝んでしまった。
こちらには拝むと言う習慣がないのか、リドさんは俺の行動を不審そうに見つめる。
「お前所々異世界感出てるから気をつけた方がいいぞ」
「あ、ハイ…すみません」
「まあ…それだけでも足りないだろうから、明日街に行くぞ。お前の体にあった服を買ってこいよ」
「え?!いや、俺お金ないのでとりあえずはこれで…」
「何言ってんだ。俺が出すに決まってる」
俺は今度こそ目眩がした。
何なんだこの人!人が良すぎるにも程がある。
「いや、本当にそこまでしてもらうわけにはいきません!」
するとリドさんは戸惑ったように小首を傾げると、ぽつりと言った。
「……嫌か?」
「い"や"……っじゃないです!!!」
ふう、危うく大男を可愛いと思ってしまうところだった。
「じゃあ、取り敢えずウチで飯食ってけよ。用意してある」
「はい」
きっとド級の世話好きなんだろう。
もうこの人には好きなようにしていただこう、と決めて後ろをついていった。
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