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黒髪ハンデ
しおりを挟む「魔物なワケないじゃないですか!」
俺は慌てて村長の言葉を否定する。
流石に、魔物なんて最悪の勘違いだ。笑えない。
「まあそりゃそうだろうな。魔物で会話が成立するやつなんてほぼ居ない……ってことは、異世界の使者か?」
「な、なんでそうなるんですか?」
(これ、本当にバレてるのかな)
村長は俺をイジって遊んでるようにも見える。ちょっと半笑いだし。
カマをかけているとしても、逃避行初日にして既にバレかけてるって、ヤバくないか…?
村長は俺の顔を見てニヤリと笑った。
「そりゃ、俺らの中で黒髪なんて生まれないからだ。黒の色を纏って生まれるのは魔物だけって言い伝えがあるんだよ」
「それ、本当ですか」
「この国で生まれたヤツなら皆知ってる。そうだな、子供の頃から周りに教えられて育つ類の伝承だ。ま、その話自体を知らないあたりから既に可笑しいんだけどな」
ガクッと肩から力が抜ける感じがした。
知らぬ間に、超初歩的なところで思いっきりやらかしていたみたいだ。
これはもう弁解の仕様がない。
「あの、他言無用でお願いできませんか……?」
「勿論だ、話してくれ」
村長はニカッと笑い、俺に話を促してくる。
「俺、その転移の召喚術に巻き込まれたみたいで……」
俺は村長に、大きな穴に落ちていった人を助けるために覗き込んだら誤って落ちてしまったこと、
アンナさんには偶然出会ったことを包み隠さず話した。
「あぁ、あの婆さん意地悪いからな。多分お前が異世界からの人間だって気付いてたと思うぞ」
「えっ?!じゃあ黒髪のこと黙ってたのもわざとってことですか……?!」
「まあ、推測だが。これから長く住む土地だから、隠し事はするなってことなんじゃないか?
それに関しては俺も同意だ。これから村の仲間になるってのに、長の俺が素性を知らないのはな」
「いやでもここに来るまで距離あったし教えてくれても……って、え?」
(今なんて…)
村長はニカッと笑ったまま、俺に手を差し出してきた。
「歓迎するぜ?」
「~!!い、いいんですか?」
「ああ。異世界が何か知ったこっちゃないけどな……うちは働ける男の数が減ってるんだ。そんな事情は気にしてられないってわけだ」
俺は喜びと感動で胸が締め付けられる感覚を覚えた。
粗野な言葉だけど、聞き方を変えれば物凄い励ましの言葉だ。
嬉しさでちょっと目を潤ませていると、村長が「ただし」と付け加える。
「まあ…その細っこい身体はどうにかして鍛えないとな?」
繋がれた俺の腕を持ち上げられると、
村長の腕とは違う生っ白い細い腕が露出する。
「ウッ、元の世界は肉体労働とかあんまり無かったんです」
「へぇ?異世界とやらはどうなってんだろうな」
村長は異世界の暮らしに興味を持ったようで、目を輝かせながら聞いてくる。
「長くなるので、またの機会に…」
「あ、そうだったな。ちょうど村に空き家があるんだ。元々アンナの婆さんの息子が住んでた家だ」
「え、アンナさん息子さんいらしたんですね!」
「ああ、昨年だったか。魔王の討伐軍に参加して、まだ帰ってきていない」
「……そう、なんですね」
「いつ帰ってきても良いよう、家は壊してなかったんだ。まさか、それがこんな形で役立つとは何があるか分からないな!」
(アンナさんの息子さんもクエストに参加してたんだ……まだまだ聞けてないことが沢山あったんだな)
「じゃあ、案内がてら村民に挨拶して回るか」
俺と村長は連れ立って住民の皆さんに挨拶に回った。
みんな黒髪を見て驚いたような表情をするが、すぐ笑いかけてくれる。
「ここの村はとっても人が温かいんですね」
「自慢の村だからな。そうだ、名前を聞いていなかったな。俺はリドだ」
「あ!すみません、俺は有といいます」
「ユウか、よろしくな。今日から俺達の仲間になるわけだ。困りごとは村長の俺に言ってくれ」
村長は俺を空き家に通すと、ちょっとしたドヤ顔で仁王立ちしていた。
俺がやったらギャグにしかならないけど、顔が良いから何やっても様になる。
「ありがとうございます!」
急遽始まった、とばっちり異世界生活。
住む場所も決まって、幸先良しです!
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