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もう1人の転移者
しおりを挟むアンナさんに席に着くよう促され、食事を取り始めるが、俺はもう既に食事なんて気分ではなくなってしまった。
(クエストとか、魔王とか……何なのもう)
考えれば考えるほど、天変地異の大問題が起きてるじゃないか……!
思わず食べる手が止まる。
「……口に合わなかったかしら?」
「あ、ちょっと考え事をしてました。すみません」
頂いたものはしっかり食べなければ……と味を感じられなくなった口で頬張る。
「そうよね、色々あったもの。あまり無理しないのよ?」
アンナさんは心配そうにこちらを伺っている。
「ありがとうございます……もう大丈夫です。あの、国王のお触れってどういうものなんですか?」
「あら!興味あるかしら。ちょっと長くなるけど、魔王のことから話すわね」
アンナさんが話してくれたのはこうだ。
元々この世界には人と魔族がいて、基本的には人間優勢で今まで過ごして来たらしい。
だが、15年前に魔王と目される存在が生まれたことによって、そのパワーバランスが崩れたと発表された。
時期を同じくして、市街地でも魔族が目撃されるようになった。
それ以降は実力のある者が勇者として、魔王討伐戦を行っているらしい。
「ただねぇ……この国のどんなに強い勇者でも、魔王に一度も勝てたことがないらしいのよ」
「え、めちゃくちゃ強いじゃないですか!」
「困ったものよねぇ。国も騎士団を派遣しているんだけど、どうもねぇ。それで、国王様が魔術師を雇って異世界から勇者を召喚するって仰って」
「……ん?異世界から勇者?」
「そう。異世界の力の強い人を召喚して、魔王を倒して貰おうってことらしいの」
(え?あの学生くん、そんな実力者には見えなかったけどな)
どう見ても、ただのチャラい大学生だったけど。俺は他人ながらあの学生の境遇が不安になってしまった。
(いや、あの学生に巻き込まれて俺もこっちに連れてこられちゃったワケだし)
とばっちりもいいとこだ。
「その、異世界の人ってどこにいるんですか?」
「今は王宮に住われてるんじゃないかしら?金の髪で黒の瞳の、それはそれは素敵な殿方らしいわ」
(王宮の皆様!きっとその勇者、髪をブリーチしているだけですよ~!)
そのうち、生え際から黒の髪の毛が出てきておったまげることだろう。
とにかく、アンナさんとの会話で状況が整理できてきた。
俺は学生くんの召喚?とやらに間違って入り込んでしまって、目的地の王宮ではなく、何処かの草原に放り出されたってことだ。
(むしろ良かったかもしれない)
もし王宮に召喚されてたら、魔王討伐に駆り出されるか、役立たずと判明してポイッと捨てられるかだ。
(最悪、国の失態を隠すために監禁とか…もしくは処刑とか…?!)
俺は思わずブルリ、と身を震わせた。
万が一、国が異世界者が2人いることを知ってしまったらどうなるだろうか。
(……何が何でも見つかりたくない)
そのために有効な手段、それは村人Aになりきることだ。
「アンナさん、ここでの暮らしのことを教えてくれませんか?」
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