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お兄ちゃん、占われる

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繁華街を少し外れた夜道。
もう日はとっくに形を潜め、あと数時間で夜明けと言ったところだ。

俺は拳を突き上げて叫んだ。


「今日の式、最高だったぁぁあ!」

「うわ、煩っ!お前、飲酒量ちゃんと見極めろよ…もう25だろ!」

「説教かよ、たくまのくせに!」


今俺は最高に気分が良い。
何故なら、友人の晴れ舞台を見届けて、何の気兼ねもなく大量に飲酒したからだ。

まあ、腐れ縁の拓馬も居るからと、加減も知らずに飲みまくってしまったことは少し反省している。

自分は正確に前進しているつもりでも、足取りはフラフラ。
もう帰らなくても良いから、どこかに座りたい気分だった。


「ねぇたくまぁ…座りたい」

「おいやめろよ、抱き付くなって」


しっしっ、と手で追い払われる。
俺、面倒臭い酔っ払いと同等の扱いをされてる。

(ふーーんだ!)

拓馬なんて知らない!と45度顔を背けると、道の先に椅子が見えた。


「あんなとこに椅子はっけーん!」

「あ!おい、酔っ払い!どこ行くんだよ」


ようやく椅子にありつけた俺は、しっかりと背もたれに背をつけて……ようやくそこで目の前に怪しげなお婆さんがいる事に気が付いた。


「$*◯+~◎%ッ!?!?!」


俺は突然起こったホラー展開に、言語化能力を失って、ただならぬ奇声を上げてしまった。


「いらっしゃい、占い一回3000円さね」

「はぁ、う、占い…??」


このお婆さん、占い師なのか。
そこでようやく周囲の環境に目を配ることができた。

暗がりで気が付かなかったけど、どうやらここは道の行き止まりで、このお婆さんと占い道具である机と椅子、そして謎の水晶しかない。

さっきは椅子しか目に入らなかったんだけど、結構前からここにいたのだろう。
飲み掛けのペットボトルや、ゴミと化した紙が机に広がっている。


(それにしても、こんな時間まで占いをやってる店があるんだ)

「あのう、すみません。俺別に占って欲しいわけじゃ……」

「弟達は元気か?」

「……へ?」

(このお婆ちゃん、今なんて…
"弟"って、そう言ったか?)


そう、俺の家庭は今時珍しい大所帯の4人兄弟で、さらに言うと全員男。

そして俺が "愛野家" の長男なのだ。


「弟達のこと、知ってるんですか?!」


素面だったら目の前のお婆さんのことも疑えただろうに、酒が適量以上入った俺の思考回路は、完全にショートしていた。


「ふぉふぉ、占いのパワーじゃ」

「おおおお…!!」

「さて、お代は後でもらうとして……お主の家じゃが、近いうちに家庭崩壊するじゃろう」


目の前の占い師は、そんなことを宣った。


「え?嘘だよ、なんで?!俺達は慎ましく生きてるし、そもそも超仲良いんだよ?!」


すっかり敬語も忘れて占い師に言い募る。


「それはな、弟達が運命に導かれているからじゃ」

「運、命?」

「そうじゃ、ちょっと官能的な運命じゃ」

「????」

(何を言っているんだ、この占い師は……運命?官能的?)


全く訳の分からないことを並べ立てられ、頭が真っ白になる。
極め付けに、家庭崩壊だと。冗談じゃない、俺は何よりも弟達を大切にしているのに!


「それが良い形で解消されないと、泥沼化家庭崩壊まっしぐらじゃ」 

「え、嫌だよ!どうやったら回避できるんですか!」

「そうじゃなあ…ほれ、一度弟達にハグでもキスでもしてみぃ。家族仲円満の一歩。それで何か変わるじゃろうて」

「ハグ?!キス?!」

「ワシが言えることはここまでじゃ。精々励みなさい」


これまた追い払われるような仕草で、占いの終了を告げられる。

ご祝儀代で薄っぺらくなった財布から、なけなしの3000円を搾取されて、再び道路に放り出された。


「何なんだよ、もう……」


さっきまで一緒に帰ってくれていた筈の拓馬も居なくなってるし、酔いも完全に覚めた。


「……家に帰ろう」


俺は力無く呟いて、来た時よりも寒くなった懐を摩りながら家路についた。


家で待っている、とんでもないトラブルに巻き込まれることも知らずに……。


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