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晴れて
しおりを挟むマニアックさんの部屋に到着すると、彼は既に本部とやらと連絡を取り始めていたらしい。
仕事が早いのは良いけど、当の本人を置いていかないでくれよ……!
「ああ、来たか。そうです、コイツがその特殊体質のやつです」
『君がユウトくんか。サポートメンバーとして日本支所を支えてくれているようだね』
俺の予想に反して、穏やかで物腰が柔らかそうな声で話しかけられる。
優しそうなおじさん、という表現が適切なのかもしれない。
『大変な苦労があったそうだね。それでも君はその境遇を耐え抜き、未来へと一歩先に導く存在になった。私からも、感謝を伝えさせてくれ』
ありがとう、とゆっくり噛みしめる様な言葉を掛けられ、何故だか自然と鼻の奥がツンと痛んだ。
「いえ、そんな……」
「……コイツの言う治療薬、試す価値はありますよ。やってみますか」
『そうだね、マネジメントは君に任せよう。期待しているよ』
「りょーかい」
軽いトーンで返答すると、繋がっていた通信を遮断したのか、画面が暗転する。
「ちょ、そんな突然切っちゃって良いんですか? 」
「俺はあの狸じじいは好かんからな」
「たぬ、えっ……そんな風には見えなかったんですけど」
「そうでもなきゃこの組織の上座には座れないんだよ。これからユウトも密接に関わることになるんだ。それを頭に入れておけよ」
「あんなに優しそうだったのに……って、え?密接って? 」
俺は聞き間違いかとも思ったが、マニアックさんはいつも通りのあのトーンで、なんてことない様に続ける。
「マネジメントは任せると言われただろ、つまりお前と上の研究者は俺の部下」
「え、は、はぁああああ??! 」
「うるさっ、おま、スイッチに毒されたか」
それはスイッチに失礼ですよ!とフォローしたかったが、よく考えてみると声量が大きすぎることは事実なので何も言えなかった。
まあそれはそれとして。
「マニアックさんの部下になるって……カイは分かりますけど、俺は何をすればいいんですか?」
「俺に美味いフレンチトーストとパフェを作ってくれ」
ドヤッとした顔で言い放った要求は意外と甘党なマニアックさんならではのオーダーだった。
あのフレンチトースト気に入ってくれてたんだ。じゃあパフェはカスタード系の……じゃなくて!
「いつもと変わらないじゃないですか……。これまでと何か変わることってあるんですか?」
「そうだな。権限がサポートメンバーよりもある。インドア派ではあるが、晴れてお前も立派なヒーローってことだよ。ビジネスネームも決めておけよ」
そう言うと、不意に俺の頭に手を乗せ、くしゃりと撫でられる。
驚いてマニアックさんの方を見ると、見たことのない様な柔らかな笑みをたたえながら
「ユウト」
と、名前を呼んだ。
じわりと体温が上がる、そんな感覚に襲われる。
(……っは、驚きすぎて息止まってた! )
「マニアックさ「リヒトだ」……リ、リヒトさん」
「正式なヒーローへの昇格、おめでとう。スイッチに言ったら癇癪を起こすな」
プッと楽しそうに笑いながら、自席に戻っていってしまう。
じゃあ、明日から起こしに来いよ、なんて明らかに専門外なことを言い渡されるが、俺は今天にまで登る様な思いでいるから全く気にならなかった。
(やっと、やっと皆と同じ土俵で、皆の手助けができるんだ……! )
俺は、フワフワとその辺を漂う様な気持ちで、食堂に戻っていった。
丁度同じ様なタイミングでアジトに戻ってきたスイッチに、また部屋に連れ込まれて軟禁されそうになるなんて、今の俺には知る由もない。
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