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ヒーロー登場!

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「ハァッ…」


店を飛び出し、追って来る店長を封じ込めるために硬く扉を閉ざした。

俺はそのまま、扉を背にして座り込んでしまった。

色々起こりすぎて、キャパオーバーだ。
いまや店長の形見となってしまったスマホを握りしめる。


「なんなんだよ、もう…」


今思えば、今日は朝から可笑しい事だらけだった。


駐輪場の自転車は全く使われていなかったし、通行人はおらず、道ゆく人は…


「もしかして、あのフラフラした人達…店長と同じ…?!」


愛車のボルトで駆け抜けていたから、奴らを回避できていたのか。
もし、今日寝坊しないで徒歩だったら…

俺は考えついた可能性に身震いし、昨日の自身を褒め称えた。


(よくやった!昨日の俺!!)


この一帯が、どういう状況なのかも分からない。
でも、もう外も安全じゃないことだけは分かった。

何も考えたくなくなってくる…けど、


「アイツらを倒す方法…考えなきゃ」


ずっと逃げ回っているだけでは、いつか追い詰められる。
B級ホラー映画が大好きだった俺は、散々その結末を見てきた。


(朝から誰にも会ってないし、もしかしたらもう生き残りは俺しかいないかもしれない。)


ただ、死してなお動き続ける店長を見て一つ思ったことがある。


「何が何でもあんな風にはなりたくない…っ!」


俺は俺として生を全うしたい。


俺は決意新たに、自分の頬をブッ叩いて気合を入れ直した。


「うっし…もうここらに俺しか残ってなくても、俺はやるぞ!!!」


******


まず、やることの計画を立てなければ。

"勝敗は情報で決まる"、これは一昨日見たホラー映画の名言だ。


「自分がその状況に置かれてみると、その言葉が正しいことが身に染みてわかるなあ…」


何にしても、まずは状況の確認が必要だ。

店長のスマホを開く。

あのメッセージ、今考えると俺に対する警告だったのかもしれない。

あの人はパスワードをかけていなかったから、すんなりと開いた。


「ふふ…店長、警戒心なさすぎだろ」


直ぐそこに店長がいるような、ちょっと擽ったい気持ちになる。

ホーム画面に飛ぶかと思いきや、店長が最後まで見ていた写真が表示された。


(ネットのスクリーンショットっぽいな)


ニュースを見ていたらしく、昨日付けの記事が保存されていた。

そこに書かれていたのは


「…ぞ、ゾンビウィルス…!?」


"未知のゾンビウィルス、漏出"


という刺激的な見出しだった。

普段だったら『どうせガセネタだろう』と笑い飛ばす所だが、あの店長を見た後では信じるしかない。


"○○年10月4日、都内某所にてウィルスの感染者を確認。
世界的に流行しているこのウィルスは、感染後2時間の潜伏期間を経て発症する。
血液の媒介で感染する事が判明しており…"


恐ろしい単語が羅列されている。


(皆、血液の媒介で感染したのか…?

ってことは、俺…)


スマホに店長の血がこびりついていた。
俺はそれをガッツリ触ってしまっている。


「…the end」


終わった。なんとも、短い余生だった。

目の前で店長が手を振っている幻覚が見えた。


(店長、今そっちに行くからな…。)


いやいや、もしかしたら対処法が書いてあるかも、という希望を持って記事を読み進める。


"血液に含まれたウィルスは傷口への侵入により、その活性化を認められた。未だに治療法は発見されていない。"


「九死に一生とはこの事か…っ!!」


このウィルスは傷口に侵入しなければ活性化しないらしい。

手を確認して見ても、特に傷は認められない。


(この1時間かそこらで、生死の分岐点が多すぎる…っ!)


俺はヘトヘトになり、スマホを閉じた。

通信環境にも障害が生じているのか、開いている間、途中から圏外になってしまったのだ。

スマホで調べられることは少なさそうだな…
本当は警察に連絡を取ってみたかったけど、仕方ない。


あとは、自分の足で確認しなければ。


俺は震える足に喝を入れ、一歩を踏み出した。


「いざ、出陣…っ!」


と、意気込んだ瞬間。


ドォォオオオオオオン!!!!!


突如鳴り響く轟音、激震。


「ひぇぇえっ?!」


俺は半ば飛び上がりながら、ポストの陰に隠れる。

何かが地面に落ちたようなそんな音だった。


「な、何?!なんなの?!何今の揺れ!!!」


ドガガガガタッッ!!


「ぴえぇ…」


轟音は止まることなく、今度は叩き付けるような音も聞こえてきた。


「もうダメだ…何もかもが俺の知ってる日本じゃない…っ」


俺は混乱して、走り出す。


「とりあえず逃げなきゃ…!」


走り出した俺の目の先で、何かが勢いよく横切った。
まさに目にも留まらぬ早さだった。


「えっ…?な、なに?」


思わず走るのをやめ、横切ったものを目で追うと…

視線の先には、ゾンビの身体が地面に突き刺さるように転がっていた。


「え、えぇ?」


『ハァーッハッハッハッ!!!大勝利!』



ビクゥゥウウ!!

俺の鼓膜を震わすほどの大声があたりを支配する。

その大声をかき鳴らす発生源を確認すると、
待ち望んでいた、人のシルエットがあった。


しかも、め、めちゃくちゃ元気だ…!


「…人間っ!?」


『ん?…おお!もしや、生き残りか?!』


彼は俺を見つけると、一目散にこちらに駆け寄ってくる。


『俺が到着したからには、もう大丈夫!!
我ら自警団<ビジランテ>が君を救おう!!』


キラキラと光る白髪のヒーローは、
自信ありげな笑顔で手を差し伸べた。
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