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2章 新生活スタート

54 境遇

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ついに俺の境遇をこの世界の人に話す機会が訪れたか。
すぐに帰れるなら、この話は墓まで持っていくつもりだった。

だけど、これほど関わる人が増えると、その関係に深みが出ると、情が移るってものだ。


「わかった。話すよ…俺の予知が出来ないのは、多分俺の体質のせいだ。魔力絶縁体…って言ってたか」

「絶縁体って…魔法を遮断するってこと?そんな事が人体で起こるの?持たざる者だって、魔法は通じるのにぃ」

「いやそれが分かったら苦労しないんだけど…」

「っていうかぁ、誰が言ってたのそれ。眉唾じゃない?」

「セシルさんに魔法を掛けられた時に言われた」

「げ、セシルって校長のことぉ?カンザキって癖のある方向に知り合いの幅が広いよねぇ~」


セシル、という名前を聞いた途端、グリムがべっと舌を出して至極嫌そうな表情をする。
マーナもそうだけど、皆セシルさんを毛嫌いしているようだ。

そんなに嫌がらなくても…セシルさんはいい人だぞ!


「で、その体質になったのはいつ?生まれてすぐなの?」

「あぁそれが…俺はこの学院に辿り着く前は魔法の無い世界にいたからな。多分それが影響してる」

「ん、ん~?世界って言った?」

「そう、世界」


グリムはコテン、と首を傾げて、ん~?と唸り続けている。
数秒後、自分の中で結論が出たらしいグリムは、俺の目をじっと見つめてくる。

その様子が小型犬のようで、魔王と解っても怖さを感じないのはこれが理由かと一人納得した。
つまり、なんだか可愛い。


「カンザキって別の世界から来たの?」

「ああそうだ。グリムの他には話していないから、他言無用で頼む」

「…それって、オレが聞いちゃっていい話だった?」

「何を言うんだ、グリムだから話した」

「~っあ、ありがとぉ」


グリムは何故かポッと顔を赤らめると、机に突っ伏した。
そのまま、う~!やら、あ~!と声を上げ始めたので困惑してしまう。


「そっか、オレだから…そっかぁ」

「何をブツブツ言ってるんだ?」

「いや、魔法以上に殺傷能力が高いものってあるんだなぁと思って」

「は、なんだそれ」

「気にしないでぇ~それより、カンザキは魔法が使えないんだねぇ。元いた世界はどんなところだったの?すごく気になる。」

「ああ、魔法は無い代わりに、あらゆる技術が発展していたよ」

「ギジュツ…それってどんなもの?知りたいっ!」


グリムは人懐っこく笑みを浮かべて、俺に元の世界の話をねだってきた。
懐かしさも相まって、話し込んでしまっていたところに、休憩終了の鐘が鳴る。

少しすれば、ハイル先生が再び教室に戻ってきてしまうだろう。
早めに移動しなきゃ、という考えは同じのようで、グリムも急いで席を立ち上がった。


「あ~、残念…ねぇ、また元の世界の話をして欲しいなぁ」

「勿論。俺としても、昔の話をできる相手がいるのは安らぎになるからな」

「…もしかして、元の世界には戻れないの?」

「今のところは。まあ、気長に探してるから」

「ごめんねぇ、オレ…自分が聞きたいからって、辛いこと話させたねぇ」


しゅんと萎んでしまったグリムは、俺の半歩後ろをトボトボとついて来る。

(本当に気にしてないのに…)

俺と同じくらいの位置にある頭をポンポンと撫でると、驚きで肩を揺らした。


「また話そう。模擬試験頑張ろうな」

「…うん、そうだねぇ!」


グリムは自分の頭を撫でる俺の手を両手で抑えつけてニコッと微笑むと、
そのまま俺の手を引っ張って教室まで走る。


(元気が出たようでよかった…俺はすでに息が切れてるんだけど)



教室に戻ると、すでにハイル先生が教室で待機していた。


「お二人とも、もう試験が始まりますよ。どうかしたんですか?」

「オレのお手洗いに付き合って貰ってたのぉ、何してたかは秘密ぅ♡…あーあ、頑張ったから、息切れちゃったねぇ?」


(言い訳にしてはグレーすぎる!)

グリムが放った怪しさ満点の言い訳が教室に響く。瞬間、そこかしこから、ガタッ!と机を動かすような音が聞こえてきた。
絶対ドン引きされてるだろ、これ!


「おいグリム、誤解を招くような事を言うな」

「ん~?オレ、何にも言ってないけどなぁ」


グリムはニヤニヤと笑いながら、クラスメイトに視線を配る。
悪戯っ子か、さすが魔王。


「はぁ、仲がいいことは伝わりましたから、お座りになってください。試験を始めますよ」

「はぁい!」



各々が着席したことを確認すると、試験開始の合図が鳴った。


よし、あと3教科。
…見栄えしない点は取らないように頑張ろう。



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