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2章 新生活スタート

53 魔法模擬試験、挑戦

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それからの日々は壮絶だった。

魔法模擬試験までの間、ハイル先生のスパルタ剣技に絞られたり、座学を教えてくれる先生方にも根気強く指導をしてもらって、ようやくこの日を迎える。

…魔法模擬試験、当日だ。


「皆さん、よく心して掛かってください。この試験はただの模擬試験ではないですよ。一生を決める大事な試験の、いわば前哨戦です」


(そして、俺にとっては、この学院から友好的かつ合法的にマーナ達を連れ出す手段だ)

この日のために、特に魔獣学に関しての学習を深めてきた。
知識量だけでいえば、このクラストップになれそうだ。

(ライバルは、あろうことか友人のザックなんだけどね)

彼は魔獣部に所属しているだけあって、魔獣に関する理解が尋常じゃなく深かった。
だが、こちらも日頃から同じ屋根の下で生活している“生ける伝説”が味方なんだ。

…絶対に、獲る。



「始め」

試験方式は至って簡単…実技試験と、座学。いわゆるペーパーの試験だ。

魔獣学はそのうち、座学に属する。

ペラリ、と用紙を捲るとそこには記述式らしい問題と、選択式らしい問題の2種が数問並んでいた。


(文字は翻訳出来るから、記述だけ間違えなければ大丈夫)


1.魔獣の中で創世に関わる魔族を答えよ
2.創世の使徒の正しい容姿を答えよ
3.封印されし使徒がどの地で討伐されたか示せ
4.…
5…


ザッと目を通しても、あまり特殊な設問は用意されていなかった。

(討伐…か)

設問内容を見て魔王部所属のグリムの様子が気になったが、今は試験中だ。
とにかく解き切らなければ、と筆を進めた。





「そこまで。筆を置き、その場でお待ちください」


試験終了。
解答用紙はハイル先生によって手ずから回収された。

こういうところは日本のような古典的な手法なんだな。

横目で、チラリとグリムを盗み見る。
特に変わった様子はなさそうだが、大丈夫だろうか。

使徒の魔人に傾倒しているように感じたし、俺としては魔王の関係者ではないかと勘繰っている。
そんな立場から見ると、問題であんな書き方をされたら、気分が良い物ではないだろう。

封印された土地を始めとして、討伐方法なんかも詳細に記載され、設問化されていた。

いずれも魔王を悪として見ているような言葉選びで、もし自分が関係者だったらと考えると気が気ではない。


「なぁ、グリム」

「次は薬学かぁ、面倒だね!オレ、お手洗い行ってくるよぉ」

「待っ…消えるの早いな」


グリムは話を1人で完結させてさっさと消えてしまった。

やはり表情はあまり晴れやかとは言えず、放っておけない。

まあ、どっちにしろ俺もお手洗い行きたいし…うん。

ガタリ、と立ち上がると、ユージンやザックがこちらを振り返った。


「俺もちょっと出てくる。次の試験までには戻る」

「あぁ、分かった」


ユージンたちに見送られながら、お手洗いの方向を目指す…が、目的地一歩手前で探していた姿を発見した。

グリムは空き教室の隅で、虚空を眺めながら、ボーッと突っ立っている。


「どうした、そんなところで突っ立って…用は済んだのか」

「あれぇ、カンザキ?駄目じゃん。追いかけて来ちゃ」

「は、」


グリムが指をクイ、と曲げたかと思うと、背後の扉が音を立てて閉まる。

ガチャ!


「ガチャ…?」

「鍵、かけたの。ちょっとオレとお話ししよっか」

「…あぁ、そのつもりで来た」


椅子が1人でに動き出し、2人用の席が作られる。
少しお互いの距離は遠いが、問題なく話せる程度だ。


「そこ、座って」

「ご丁寧にありがとう」


着席してから少しして、グリムがポツリポツリと離し出した。

語尾の間延びも少なく、真剣な様子で話しているのが伝わってくる。


「何で追いかけて来たの」

「この前、使徒の魔人のことを話してくれただろ?グリムにとっては大切な事で、あの設問みたいに無遠慮な触れられ方はしたくないのかと…そう思った」

「…はぁ、御明察。それで?追いかけて来てどうしようと思ったの」

「どうって…どうもしない」

「え?」

「今だって別に何を出来ている訳でもないだろ。何もしようと思ってない」


グリムは目を瞬かせ、不思議そうな顔をした。探偵のように、顎に指を添えるような仕草をして見せる。


「何もしない…?」

「まあ強いて言うならお喋りはしてるな」

「オレの正体、分かってるんでしょ、何で何もしないの?」


(グリムの正体…?え、そんな話したか?)

突然の問い掛けに動揺を隠せない。

もしや、やはり魔王に傾倒している使徒の従者…とか?
もしくは、魔王に作られた命の末裔…とか。

魔王復活を阻止しなくて良いのか、そんな感じの問い掛けかもしれない。

自分で納得のいく解を見つけ、心の中で小さく頷く。


「グリムはグリムだ。他の何者でもなくて、俺にとってはただの友達…それじゃ駄目か?」

「…っ」


俺の話を聞くうちに伏せられていった瞼は、何かに耐えるように震えた後、雫を数滴溢した。

前回は目を潤ませるだけだったが、今回はさらに動揺するようなことがあったみたいだ。

俺が内心アワアワとしながら、何も出来ないでいると、グリムの瞳が開いた。


視線が交わる。


「カンザキ、聞いて欲しいことがあるの…オレの出自について」

「勿論、どんな話でもどうぞ」

「オレは自分で封印を破って蘇ったんだ」

「そうか……ん?」


(え、封印って何の……ですか?)

なんて、恐ろしくて聞くことができない。それに、今の話の流れで想像が付かないほど馬鹿ではない。

でも、まさか…そんなわけはないよなと思ってハナから除外していた可能性が頭を過る。

(俺ってば、恐ろしく盛大な勘違いをしていたわけね…)

思わず顔を覆って泣き出しそうになりながらも、無駄に共感を示すような行動は控えなければと堪える。


「オレ、暴れる直前の記憶が朧げなんだぁ…沢山の命を生んで、アイツらとも仲良くやってた。その筈なのに」


感情が昂ってしまったのか、顔を伏せて声を震わせた。

(アイツらって、マーナやグリフのことかなぁ)

…何故だろう、俺なんか比べ物にならないほど実力があるグリムの姿が小さく見えた。
そっと隣まで歩み寄り、震える背に手を添えた。

震えが収まると、また話し出す。


「起きたら真っ暗で、身動きが取れないところに縛り付けられているみたいで…すっごく怖かった」

「掛けられた封印は経年劣化とでもいうのかな、弛んでたんだ。術者に気が付かれず抜けられた…というか、術者はもうとっくに死んでるか。」


独白のように続く話を聴く。


「ここに逃げ込んだのは、帝国から逃げられて、かつ学院の生徒っていう身元が欲しかったから…でも、入ってみたらアイツらがいるし。どうなってんのさ、もう!」


最後にはプリプリと怒り出したグリムは、幾分か持ち直したようで、背をさする俺の手を離すまいと抱き込んだ。


「初めて友達になれると思ったカンザキにくっついてるし!あり得ない!」

「はは…それに関しては俺も驚きだよ、偶々なんだ」

「ふーん、それって、君の未来予知が出来ないのとなんか関係ある?」

「…え?」

「魔王だけに予知の力があるって言わなかった?それ、カンザキには効かないんだ…なぁんにも見えない。ねぇ、なんで?」


思わず身を引いてしまった。
こちらを害するつもりは無さそうだが、俺の背景を探るような質問に身構えてしまう。

(…でも、グリムは自分の事を包み隠さず話してくれた。打算はあるかもしれないけど、それでも誠意には誠意で応えたい)

俺は、この世界に飛ばされて初めて、自分の境遇について話す覚悟を決めた。


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