残業リーマンの異世界休暇

はちのす

文字の大きさ
上 下
47 / 68
2章 新生活スタート

43 自由とは

しおりを挟む


俺の言葉の意味を理解したマーナは、
目が零れ落ちそうなほど見開かれ、握った手を振るわせていた。

何度か口を開こうとして、言葉が出てこないのかそのまま閉じるを繰り返している。

…なんか金魚みたいだ。


「マーナがもし出たいなら、って思っただけだ。気乗りしないなら断って欲しい。」


「そうじゃないが…私が出て行けば、国家的な問題になりかねない…。」


「そう言うこともあるかもしれないけど、それよりも前に、マーナはマーナとして選びたい道を選んで欲しいんだ。」


ピコピコと忙しなく動く耳が可愛くて、優しく撫でてしまう。


「んっ…!」


…考え事の邪魔をしてしまったらしい。

慌てて手を離そうとすると、逆にマーナに腕を掴まれ、身体全体で擦り寄られた。


「…っはぁ、ずっと共にいてもいいのか?」


「マーナが嫌になるまでな。」


(あとは俺が帰り方を見つけるまで…か。)


「カンザキッ…!」


ギュッと抱きつかれ、ぐりぐりと頭を擦り付けられる。


「あとグリフにも声をかけないと」


「なっ…?!」


マーナは上半身を離し、"嫌だ!"とでも言うかのように毛を逆立てた。

珍しく、唸り声まで上げている。


「え、もしかして、グリフのこと苦手だったか?」


「違う!…私だけではないのか、旅をする者は!」


「ごめん、さっきの話だとグリフもマーナと同じ状況だって聞いたからな…」


「む"、う…そ、そうだ。」


「それなら、置いては行けないだろ?」


「……」


先程まで喜びで引きちぎれんばかりの動きを見せていた尻尾が、今や垂れ下がって足の間に入ってしまっている。


(え、俺そんなやばいこと言ったかな…?)


考えられるのは、マーナが俺と一緒にいたいと言う…独占欲。

俺は顔が勝手に赤くなっていくのを感じた。

こんなにも大切に思ってもらえるとは、予想外だったな…


「マーナ、2人で行きたいと思ってくれるのは嬉しい。でも、出来れば、グリフの意思も尊重したい。」


それじゃダメか?と、優しく笑って問いかけてみるとマーナは再び抱きついてきて、小さく頷いてくれた。


これが答えだ。


「ありがとうマーナ。グリフには明日聞いてみる。」


「カンザキ、私は…恐らくグリフもだ。こうして連れ出そうとしてくれたヤツはなかった。

だからこそ、その感情を独占したいと、愛のように注がれたいと…そう思ってしまうんだ。」


それは困った…!!


「大丈夫だ。きっとこの先も、俺がいなくなったり、死んだ後にもきっと俺と同じような人は現れる。」


「私は、カンザキがいい。」


「はは…」


聞かん坊の子供のように、耳をペタリと折り曲げて"聞こえません"のポーズをしている。


「さて、色々教えてくれてありがとう…とりあえず、食事済ませようか。」


マーナは食事中、ずっと尻尾を揺らして嬉しそうにしていたことを追記しておこう。


しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

BlueRose

雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会 しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。 その直紘には色々なウワサがあり…? アンチ王道気味です。 加筆&修正しました。 話思いついたら追加します。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...