残業リーマンの異世界休暇

はちのす

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2章 新生活スタート

32 魔獣部

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「あ、カンザキ…と、ザック君…?」


教室に戻ると、ユージンが既に席についていた。

俺たちの取り合わせを不思議に思ったらしい。怪訝そうにこちらを見ている。



「ユージン。部活は問題なかったか?」


「あ、うん…これから1年は週に1度昼に部活のミーティングをする事になったんだ。」


「そうか。1年って何かと大変だな。」


「1年間の我慢だよ。…カンザキはザック君とご飯食べたの?」


「ああ、1人で突っ立ってたら声をかけてくれたんだ。優しいよな。」



友達になったんだぜ!と自慢したいところだったが、どことなく気恥ずかしくてやめた。

そう言うと、ユージンは眉間にシワを寄せ、次の時間の支度をするザックに視線を向けた。


(…え、何か剣呑な感じ?)



「へぇ、そうなのか。」


「ユージン?どうかしたのか?」


「いや、何でもない。…ザック君とは俺が居ない時に昼食を食べるんだよね?」


「ああ…あ、後は休校日にも一緒に食べようって約束したんだ。
転入してきてから初めての休日だから、楽しみなんだ。」


「休校日に…?そっか…」

 

ユージンが俺に向き直る。



「なあ、カンザキ。それならもう一日の休校日、街に遊びに行かないか?ザック君の予定よりも先に。」


「え?どうしたんだ急に…別にいいけど。
最初の休校日って事は明後日か。」



こっちに来てから森と学院しか見ていない俺にとっては嬉しい誘いだが…何を焦ってんだ?



「ありがとう!買いたいものがあったんだよな。」


「そうなのか。それは丁度よかった。
…あの赤黒コンビも来るのか?」


「赤黒コンビ…?あ、あいつらのことか。
誘う予定はなかったけど、会ってみるか?」


「いや、いない方が都合がいいんだ。2人で行こう。」


ユージンは驚いたようにこちらをみる。
そりゃそうだよな。ユージンにしてみると大切な友達だし、いない方がいいなんて言うのは失礼だよな。


「どうした?あの2人、何か気に障るようなことしたか?」


「違うんだ…えっと、ユージンと2人で出かけられたらと思ってだな。」


するとユージンは目を見開き、こちらを凝視してきた。

やっぱり気持ち悪すぎる言い訳だったかもしれない。
でも交友関係を広げたくない、と素直にいうのもどうかと思うし…

停止しているユージンを横目に、今出来る最大限のフォローをする。


「ほ、ほら。俺世間知らずなところがあるから、ユージンの友達に変に思われたくないし。」


「あ、ああ…そういうことか。」


「気持ち悪かったよな。すまん。」



そんなこんなを話しているうちに、俺たちの席に影が落ちた。



「カンザキ、魔獣部の見学はいつにする。」


「あ、ザック。そうだな、来週にしたい。」


「魔獣部…?」


「あ、そうそう。俺、魔獣部に入ろうかと思って。」


「…ザック君と一緒だから?」


「それもあるけど、俺、魔獣の世話するのが好きだから向いてるかなと思ったんだ。」



魔獣といっても、マーナとか、グリフとかの相手しかした事ないけどな。



「そっ…か。合う所があって良かったな。」


「じゃあ今日の放課後に部長に話しておく。カンザキも一緒に来るか?」


「あー、俺先生に呼び出されてて。10分くらいなら時間があるから、それでもいいか?」


「問題ないだろう。じゃあ後でな。」



ザックが去った後、すぐに先生が入ってきて授業が始まった。

俺は、ユージンのやけに落ち込んだ様子が気になっていたが、話しかけても普通に対応される。
1人で思い耽っている時のような、悩んだ様子は見せない。

相手から話してくれなければ、人の心を知る術はないからな。

はぐらかされた俺は、気になりながらもユージンが話してくれるまで待つしかなかった。


******


リンゴーンリンリンゴーン…


独特なチャイムの音と共に授業が終了した。


「じゃ、また明日な。ユージン。
部活頑張れ。」


「…ああ、有難う。」


さて、個人授業の前に終わらせないといけないし、魔獣部の部長さんの所に向かいますか。



「ここが魔獣部部室だ。」


本館の1階、保健室などがある並びに、小さな部屋があった。

控えめな文字で"魔獣部"と書かれた看板が下がっている。


「部長、体験入部したいって奴連れてきました。」


ノックもそこそこに、ザックは扉を開け放つ。

広くはない個室の中、魔獣の食事らしき肉を調理している男性がいた。

腰まである真っ赤な髪をしており、瞳は緑色をしている。ザックと丁度反対の色合いだ。

筋肉がなさそうで、背格好も現代人の俺よりも弱々しい。むしろ病的なほど細いと言える。

エプロンをつけ料理をする姿は、優しそうな顔付きも相まって、どこぞの主婦の様だ。



「え、本当っ?!入部希望者なの?!」


「あ、カンザキです。よろしくお願いします。」


「ええ、よろしくお願いします!はぁあ、入部希望者なんて久しぶりだから、どうしたらいいのか…!」



持った包丁はそのままに、こちらに近づいてこようとする。



「エメル部長、包丁は置いてください。」


「あ!ごめんごめん。つい興奮しちゃって…」


エメル部長、おっちょこちょいというか…ちょっとした変人なのかもしれないな。



「いえ、大丈夫です。…実は、良ければ来週くらいに活動の体験をしてみたくてお話に来たんです。」


「勿論だよ!主な活動は、日に一回の餌やりなんだ。基本的に手が空いてる人が当番制でやってる。
あとは半年に一度、森に調査に入って生態系の調査も行ってるよ。」


「じゃあいつでも参加できそうですね。月曜日に同行しても良いですか?」


「俺も行こう。餌場を案内するぞ。」


「勿論いいよっ!じゃあ、ザックくん。カンザキくんの案内をよろしくね。僕は餌の準備をしておくから。」


大体餌やりは40分程で終わるらしい。
忙しすぎず、ちょうどいい。

1人で担当するなら、毎週1回かそこらの餌やりで活動は回るだろう。


「じゃあ今日はお話に伺っただけですので、また月曜日に伺います。」


「そういや先生に呼び出されてるのか。気を付けろよ。」


「カンザキくん、月曜日待ってるね~!」


俺は元気なエメル部長と嬉しそうなザックに見送られながら、今日の試験対策講座へと向かうのだった。
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