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1章 ようこそ魔法の世界!
9 持たざる者 (sideマーナガルム)
しおりを挟む下等魔獣どもの前を悠々と通り過ぎる。
本来であれば下等魔獣の棲み家に踏み入ることなどあり得ないのだが、
隣の存在を護衛するためと考えれば、取るに足らん労働だ。
*****
「校長室に呼ばれているのですが行き方を教えてくれますか?」
ー 初めに話しかけられた時は驚きすぎて声も出なかった程だ。
ここ数年、生徒に感知されぬまま過ごしていた私が、目の前の持たざる者に話しかけれた。
剰え、道案内を頼まれている。
良く見ると、魔族は持たぬ生き血の乾いた錆色を髪と目に有していた。
精悍な顔立ちは、数倍とも言える巨躯を持つ私に対する恐怖すら微塵も感じてはいなかった。
ただそこにある物に頼み事をしているに過ぎない。
ー 面白い
いつもより暇潰しになりそうなヤツを手に入れたと喜ばしかった。
それが今は…
「…ッ!」
私はその持たざる者の手により籠絡されようとしている。
耳の付け根を撫でつけられ、柔らかく揉まれ、愛おしそうに擽られる。
「ハァッ…」
その手の動きを感じていると、熱い息が漏れた。
ー なんという撫で技…!
耳の手入れは気を許した者にしかさせないが、カンザキが言うには既に耳が動いてしまっていたらしい。
それ程までに入り込まれていた事に驚いた。いや、それを許したのは私だ。
再びフワリと手の感触を感じ、身体が震えた。
力が入らない。
「…キュッ…」
無意識に喉が音を立てる。
そこで気付いたのだが、
なんとカンザキはこちらを見てすらいなかった。
(まさか、今の撫でが、作業…だったと…?!)
また喉が鳴る。
ー 嗚呼、カンザキの渾身の撫でを受けてみたい。
そんな欲望がジリッと目蓋の裏で火花を散らせた。
そうと決まれば、片時も離れてやるものか。
私はカンザキを急かしながら、新居へと足を踏み入れた。
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