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1章 ようこそ魔法の世界!

7 大事にはしたくないんですが…

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ギィィ…


と音を立てて扉が開かれた。


(この扉、大きさに比例してめちゃくちゃ重いんだけど…!!)


開け放った扉の先に、3人の男性がいるのを確認できた。

セシルさんと、
青いローブを羽織った2人組だ。

片方は肩ぐらいの黒の髪と赤の目、もう一人は明るい赤の短髪に金色の目をしていた。

赤髪の男性は体格が良く、異常なほどニコニコしており、今にも駆け寄ってきそうな勢いだ。

反対に、黒髪の男性は線が細いが、鋭利な刃物のような雰囲気を持っていた。

俺はマーナガルムに小声で話しかけた。



「マーナガルムさん、凄い見られてる…」


「ふむ、そうだな。やはりマーナと呼べ。親しみがあっていい。」


(今その話してねえよ!!!)


扉近くでおバカなやり取りをしていたら、セシルさんが困ったような顔で声をかけてきた。



「おはよう、カンザキくん。良く眠れたかな?」


「あ、その節はありがとうございました。快調です。」


「そう、良かった。…で、後ろにいるのはマーナガルム様かな?
どうしてこうなったのか聞いてもいいかい?」


(道案内を頼んだら脅すやら言い始めましたって…どう答えればいいのやら…

…ん?マーナガルム…様…?)


ーセシルさんの口から「様」…?


呆気に取られているうち、マーナガルムが俺の横をすり抜け3人に対峙した。



「おい小童、カンザキに何をしていた。
僅かだがカンザキの身体にお前の無属性魔法の残滓が付いていた。
よもや読心を使ったのではあるまいな?」


読心、その単語が出てきた瞬間、セシルさんの表情が凍りついた。


「マーナガルム様、読心については、状況把握に必要でしたので止むを得ず…。」


「…ふん、どうだかな。」


(え、ドクシン?…独身?脈絡おかし過ぎるでしょ。なんで急にそんなプライベートなこと…)


何にせよ悲しそうな顔しているし、あまり触れない方がいいか。

と思考を明後日の方向へ飛ばしていると、戯けたような声が聞こえた。


「おいおいセシル校長。こりゃどういう状況だ?迷子保護に訪れたら、レアキャラのマーナガルム様が俺たちに敵意剥き出しじゃないか。」


声の発生源は赤髪の人だった。
ちょっと困り顔でセシルさんとマーナガルムを見遣る。

黒髪の人は無言でこちらをじとりと見ていた。


(ふ、雰囲気最悪~!)


社会人になってからここまで感情を露わにする人たちに囲まれなかったためか、
非常にやり辛い。


「マーナガルムさん、どうにかしてくれ…」


マーナガルムはツーンと窓の外を見ている。

無視するなよ!
え、もしや…


「…マーナ。」


「なんだ?カンザキ。」

ー嬉しそうな声色でこちらを振り返る。


(まずい、愛称で呼ばないと反応しなくなってしまった…!)


とんでもない事態に途方に暮れていると

小声のやり取りが聞こえていなかったのか、セシルさんは沈んだ面持ちで俺に声を掛けてきた。

一度マーナガルムのことは無視することにしたようだ。



「カンザキくん。さっき伝えたように、持たざる者の君を保護している間は、離れを使用する事になった。
日中は魔獣もそこまで活発にはならないから、学院に来てもいいよう手配したよ。

この二人が君の身の回りの世話を担当してくれる。」



紹介を受け、すぐに赤髪の人が手を握ってきた。



「ダリアだ!学院では剣技の指導担当をしている。よろしくな!」


「カンザキです。よろしく…」


言い切る前に、ダリアさんはそのまま手をブンブンと振り出した。


(痛い痛い痛い!)


この人めちゃくちゃ力強い…シェイクハンドのレベルじゃないぞこれ。

半泣き状態でその手を受け入れていると、マーナが尻尾でダリアさんの手を払い落とした。



「うお!あ、すまんなあ!ついついやり過ぎてしまった。」



ガハハ!と笑いながら軽い調子で謝ってきた。

それで済まされるなら警察要らないんですよ…と恨めしい気持ちを抑え込んだ。



「バールだ。火魔法の指導担当をしている。」


「カンザキです。よろしくお願いします。」


バールさんは相変わらずこちらをじとりと見ていた。
い、居心地が悪い…



「うん。じゃあ、これから何か分からないことがあれば、この二人に聞いてみてね。
あ、食堂は7時から22時まで開いてるから、いつでも使っていいよ。

それと、日中は記憶を思い出す手掛かりとして、展示館を見て回るといいと思う。」


「展示館?」


「持たざる者の世界の過去の記録文書だったり、写真や絵画も飾ってあるんだ。きっと役立つよ。」



調べたいことがあったため、ありがたいお誘いだった。

本当にここが俺のいた世界ではないのか、実は今も同じ世界にいてただ単に魔法が秘匿されていたのでは…という可能性が捨て切れていなかったのだ。



「カンザキくん?」


「あ、すみません。ありがとうございます。」


「体調悪かったら言ってね?心配だから」


「大丈夫です。ご配慮ありがとうございます。」



セシルさんは相変わらず優しい。
この面子では唯一の常識人って感じだ。

セシルさんのためにも、何か出来ることも探したい。
当面の目標だな。



「で、マーナガルム様は…」


「無論カンザキと共にいよう。展示台には分体を置いておくから問題ない。」


(おいおいそりゃ一緒に生活するってこと?!目立ちまくるだろ!!)


「マーナ、何もそこまでしなくても…」


「森には魔獣がウジャウジャいるぞ。それらから守ってやると言っているんだ。」


「ありがとうございます!!!」


よし、こちらでは話がまとまった。
お手軽防御壁も手に入った事だし、ポジティブに行く事にしよう。



「「「マーナ…?」」」

大の大人3人の熱い視線は無視して、
早めにこの部屋を立ち去りたい。



「では、ありがとうございました。
皆様のお手を煩わせられませんので、
離れはマーナに案内して貰います。」


「そういうことだ。カンザキは貰っていくぞ、小童」



ー俺は物じゃないんだからね!!



「セシルさん、明日は何時にここに伺えば良いでしょうか。」


「あ、うん。ちょっと早いけど、7時に来れるかい?お願いしたいことがあるんだ。」


「喜んで承ります。では。」



またマーナが何か言う前に校長室を後にした。
本当はもっと聞きたいこともあったし、お礼も言いたかったが、あの雰囲気最悪のまま図太く話を続けるメンタルはなかった。


(分からないことがあったらマーナに聞けばいいか。)


一悶着あったが、無事に生活の基盤をゲットすることができたし、良しとしよう。


(それにしても…)


隣を歩く巨躯を見つめる。
凛々しく、気高いその立ち姿に胸が高鳴る。


(このビジュアル、すげえ中ニ心を擽る!
これだけでも、この世界にきた甲斐があったなあ~)


何でこんなに懐かれたのか分からないけどな…!

とりあえず、マーナがどう言う存在なのかは分からないけど、敬う対象なのは分かった。


…明日から、大事になったりしなきゃいいけど。


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