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1章 ようこそ魔法の世界!

3 国設マジナス学院

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真っ暗な中飛び交う彫像。
何となしに数え始めた。

彫像が1体、彫像が2体、彫像が…


(ハッ!危ない危ない!寝るところだった!)


危うく彫像を100体数えるところだった。
何の力か、彫像が空を飛び交う光景を全く疑問に感じなかったのが恐ろしい。

目を覚ますと、天蓋?と言えばいいのだろうか。
これまたヨーロッパ的なお高そうなベットに寝かされていた。

フカフカやんけェ…
と触り心地を堪能していると

ふと、誰かの会話する声が扉越しに聞こえた。



「…ぇ、…門の前…倒れ…人間です…」



(倒れ…?そうか、俺また意識を失ったのか。踏んだり蹴ったりだな…)



「おや、目を覚ました様ですね。」


「           」



ガチャリと扉が開く音が聞こえ、目線をやると30代程度の男性がこちらに笑みを向けていた。


そこまでは良いのだが、その出立ちに絶句してしまった。

驚くべきことに、その男性は耳の後ろまで伸ばした銀の美髪とサファイアの様な虹彩の瞳を持っていた。

日本人であれば浮いてしまうだろうその色彩も、彫りの深い美しい顔にはピッタリだった。

作り物では醸し出すことのできないその輝きに、一瞬目が眩んだほどだ。

夜空ほどの暗い紺色のローブを纏い、なにやら試験管まで携えている。


ー魔法使いみたい、以外の形容詞が見当たらん。


同時に、もう俺の知る日本ではないのだなと実感してしまった。

銀の人はニコニコとこちらに微笑み掛けている。



「緊張しているのかな?カヴ…彫像は見たことがなかったかい?」


「いえ…少し驚いただけです」



(言えない…!彫像どころか、あなたの出立ちも信じ難いのですが…なんて…!)



「そう、良かった。
起き抜けに申し訳ないけれど、幾つか尋ねたいことがあるんだ。良いかな?」


言葉のまま捉えると、気遣ってくれている様に聞こえる。
が、こちらの様子を窺う風もなく、ほぼ断定と言った声色だ。

その様子に、これまでリーマンとして渡り歩いてきた経験が警鐘を鳴らす。


ーこいつ、一癖あるぞ…


ゆっくりとした足取りでベットの側まで近づいた銀の人は、俺の手の届かないギリギリの範囲で足を止めた。

その優しげな声色のまま、笑みを深めた。



「君、魔力を持っていないね?
どうやって学院にたどり着いたんだい?」


(((マ、マリョク)))


ーああ、神様。
    長期休暇が欲しいとは言いましたが、
    異世界に行きたいとは微塵も思って
    おりませんでした…!!!




この言い草、ここは確実に俺が居ては不味い場所なんだろう。

学院とも言っていたし、確かに関係者以外を置いておいて良いはずがない。


事実を話してしまえば、またあの森に放り出されるかもしれない。

しかし、上手く交わしたところで、魔法とやらで嘘を探知できてしまう可能性もある。


(どどどどうしよ、取り敢えず真実を話して、保護してくれる団体がないか掛け合ってもらうしかないか…!)

ベットから這い出し、立ち上がり銀の人に向かって礼をした。


「あの、まず、休ませて下さって有り難うございました。

私、カンザキと申します。

ここまでの経路の件ですが、この付近の森で目を覚ます前の記憶が無く、お答え出来かねます。申し訳ございません」



一息で言い切ると、勢いに押されたのか、銀の人はキョトンとした表情を浮かべた。


ーやっぱ不味かったか…?


でも、ここまでの道のりは記憶がない以上話すことはできない。

ほとほと困っていると、銀の人は更に近寄り、なんと優しい手つきで頭を撫でてきた。

よく見たら、この銀の人かなり体格がいい。
…じゃなくて、なんで撫でられてるんだ?



「確かに、自己紹介がまだだったね。不躾にごめんね。

私は、このマジナス学院の校長を勤めるセシル。

にしても、記憶が…
この付近は魔力のない人間が近寄れない仕組みになっているんだけれど。

とすると、人攫い…?
しかし記憶まで消去する目的がわからないし…」



銀の人…セシルは意外にも真面目に取り合ってくれている。


(俺の変人センサーが働いてはいたが、もしかすると凄く良い人なのかもしれない。)


セシルはその美しい顔を歪ませながら、考えに耽っていた。

めっちゃ睫毛長いなー、うわ、髪の毛キラキラ光ってる!

などとそっちのけでセシルの顔を観察していると、結論が出たのかサファイアブルーがこちらを向いた。



「わかりました。
幼いながらその振る舞い、教育レベルが非常に高いはず。
きっと、御家族が貴方を探しているよ。

こちらの学院に辿り着いたのも何かの縁です。私の方でもカンザキくんの出自を調べさせてみるよ。」



渡りに船だ!このまま押せば衣食住を確保できるかもしれな…


…ん?


「お、幼い…?!」


「何かあった?」


「いや、セシルさん。私の年齢…何歳に見えてるんですか…?」


「?…そうだね。15、16歳といったところかな。」



ーまさか、


雷に打たれた様な衝撃だった。

もしや、先程からあらゆる物が大きく見えているのは…
セシルが幼い子に語りかける様に話しかけてくるのは…


(俺、小さくなってるぅぅう?!)


窓に反射する自身の顔は、10年程前の、若かりし頃の自分だった。



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