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1章 ようこそ魔法の世界!
1 残業疲れのせいだから!
しおりを挟むカタカタカタ…
キーボードを軽快に、かつ恨めしく打ち付ける。
薄暗いオフィスのデスクにポツリと一箇所だけ灯る光。
俺以外の従業員は既に退社している。
中小企業特有の手狭な空間にはデスクが無機質に並んでいた。
「今何時…ぁ…まずい、日跨いだわ」
ー今日も残業お疲れさん、俺。
入社4年目にして、最高記録の週30時間の残業を熟した俺にはもう怖いものは無い。
入社したての時は随分と優しくされていたもんだ。
蝶よ花よと大事にされていたあの頃はもう既に遠い昔になってしまった。
既卒の煌めきを失った頃に、掌を返したかの様な業務の山を渡された。聳え立つノルマ。
達成できなければ、上長からの叱責を受ける。
回避する為の残業を続けていたら、気付けば身も心も磨耗していた。
この頃、あの怒鳴り散らす小太り部長も、ヤケにスキンシップの激しい取引先も、全てが画面を隔てた先で生きている様な感覚になっていた。
脳がストレスによって麻痺しているんだろう。
12時を僅かに過ぎた時計を背に、急いで帰り支度を始めた。
「あと15分で終電、間に合わなきゃ今月3回目のタクシーだ…!」
流石にそれは収支が合わない。
ああもう…何でこんなに働かなきゃならん!
「2ヶ月位、何も考えず過ごせる長期休みが欲しいな…」
そんな淡い夢を胸に抱きながら、駅への道のりを急いだ。
ーーーーーーーー
「…この列車が〇〇駅への最終列車となります。お乗り遅れのございません様…」
陸上選手もビックリのダッシュで、何とかホームへ続く階段へと辿り着いた。
(いやいや、自分でも驚きの速さだったな…駅ダッシュギネス新記録にでも登録できるんじゃないか?)
残業疲れからか、そんなアホな事を考えつつ、階段へと一歩踏み出した。
片足だけ、踏み出した…よな…?
「な、何で!!!」
ふと気がつくと、両足とも地面についていなかった。
「階段に飛びこんでるんだよおおおおおおおおお!!!!!!」
勿論そこに地面などあるわけもなく、勢いよくジャンプをブチかました俺は、階段を転げ落ちていった。
ーそれもこれも、残業疲れのせいだぁぁあ!!
ーーーーーーーーー
微風が頬を撫でる
ーなんだかポカポカするなあ…
いつのまにやら寝てしまっていたようだ。
ふと、さっきの不運(ドジ)を思い出した。
ーあれ、俺階段から落ちて…え?
「身体、痛くない…!」
え、そんなに強靭な肉体でもないのに、もしや無傷?!
ガバリと上体を起こした俺の視界に入ったのは
「そ、草原…?」
芝の様なフカフカな草が生茂る、草原でした。
(んんんんんんん?)
(待て待て、状況を整理しよう。終電で帰りたい俺は駅の階段から誤って飛び降りて…)
グルリと周りを見渡してみても、草、木、草、木、草…
(頭強打して幻覚でも見てんのか?
都心部でこんな草原見た事もないぞ…)
しかも、お天道様が頭上に昇っているのだ。
(明らかに数時間が経過しているし、そもそも状況がおかし過ぎる。)
こういう時は考えていても仕方がない。
周辺の調査と洒落込みますか。
大きな伸びをして、眼前の森を見据える。
「何にせよ、今日のクライアントとの取引は白紙だ!むしろ清々してしまっている自分がいる!!!」
持ち前のポジティブさで最適解出してやりましょう!
自分を鼓舞しながら何故か痛まない身体を動かし、鬱蒼とした森に足を踏み入れた。
一先ず、今の状況を理解出来る情報を入手しなくては。
ギョロロロロという謎の鳴き声を空に聞きながら、この森の異質さに目を背けた。
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