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謎の本
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春の朗らかな日差しが瞼を刺激する。
まだ開き切らない目の代わりに、耳が控えめに囀る鳥の声を拾った。
「ふわぁ、あ…春って何でこんなに布団から出られなくなっちゃうんだろ」
ぬくい布団の中で、もぞもぞと芋虫のように体を動かす。
こちらの世界で、妹との仲良しウハウハ共同生活が始まり、かれこれ数週間。
春眠暁を覚えず。俺こと惰眠貪りマンは、学園生活の中でも貴重な休日の午前中を布団の中で有耶無耶にしていた。
「ゲーム世界と現実世界が融合したって気が付いた時はどうなることかと思ったけど、昔は出来なかったアオハルを謳歌出来るのは嬉しいなぁ。皆ともまた会えるし!」
大きめの独り言は、布団の羽毛に吸収されていった。
…そして訪れる静寂。
「…別に暇人じゃないし。本当だし」
言い訳がましいけど、早々に出来た新たな友人と遊びに出掛けてしまった妹は家におらず、特にいつものメンバーと遊ぶ予定なんてものも立ててなかった俺は、必然的に布団とお友達になっていたのだ。
(これじゃあ、あの世界の二の舞だ。)
「せっかく訪れた高校生活。楽しく過ごしたいよね!こんな布団とお友達になるんじゃなくてね!」
そう思い立って飛び起きた矢先。
この世界ではまだ若人である筈なのに、日頃の運動不足が祟りバランスを崩す。
あろうことか誰もいないこの空間で、ベッドサイドでボックスステップを踏むことになってしまった。
「うわっ、とと…へぶしっ!」
結局足がもつれて、本棚の前で盛大に転けた。
…俺、ツイてなさすぎない?
「もう!なんなんだ…ん?」
惨めに這いつくばった、俺の視線の先。
そこには、背表紙に何も書かれていない一冊の分厚い本が、本棚の最下段に収まっていた。
(こんなのあったっけ…アルバムかな?全く記憶にないけど)
よっこらせ、と起き上がりつつそのアルバムを引き抜くと、思いもよらぬ重量に驚く。
「ひぇ?!俺、こんなずっしりとしたアルバム作れる程の写真撮ったっけか…いや、泣いてないですけど」
アルバムのカバーや表紙を注視してみると、背表紙だけでなく、表裏どちらにも何の印刷もされていないことに気が付いた。
何じゃこりゃ。
恐る恐るページを開いてみると、そこには…
「えっ、この写真って」
あるはずもない、世界が融合する前のスチルが収められていた。
「う、うわ。どうしよ、これこの世界にあっちゃいけないものじゃ…」
時系列に並べられているらしいその写真たちは、俺の記憶を揺り動かす。
「あ、これ、俺が初めてこっちの世界に飛ばされた時に見た学生証…これは1人海賊ごっこした時のやつか?何であるんだよ!」
ペラリとページを捲ると、俺視点だけじゃない構図の写真も存在していた。
いつの間に撮られたんだよ!
「うげ、これは式で寝まくって先生に名前を覚えられちゃった時か…あ。主人達と初めて昼ご飯食べた時のもある」
(…とすると、もしかして。)
テンポよくページを捲り続けると、あるページを境として、写真の様子がおかしくなっていく。
それに呼応して、俺の体温も鰻登りだ。
「ッ肌色の画面占有率が高すぎる!!」
バターン!とアルバムを派手に閉じると、意識の外へ追い出すように本棚に押し込んだ。
(やばい。やばいぞ。)
「妹にこんなもの持ってると気が付かれたら、ヤバすぎる…捨てなければ」
でも、あの日々がなかったら、今の生活もない。
そう思うと、なんだか捨てがたいような…どうしよう。
うんうん頭を捻り、唸り声を上げていると、ふと解決策が頭に浮かんだ。
「これ、アルバムに見えるから開きたくなるんだ。普通の本っぽく作り替えちゃえば開こうとも思わないよね!」
思い立ったら即行動な俺は、すぐにアルバムを覆っていたカバーを引っぺがすと、偽装を始める。
これぞ日曜大工ってね!大工仕事でもないけど。
一心不乱に偽装工作を続けること数時間。
「…よし、完璧だ。」
満足気に手元の本…もとい、アルバムを見つめる。
どこから見ても普通の本。
最下段に入っていたら、一生手に取らず終わるような地味なカバーだ。
「いやー、我ながら惚れ惚れするほどの手腕。全くもって地味な本だ」
一仕事終えたと思うと、お腹が減ってきた。
「スーパーに買い物にでも行くかぁ」
重い腰を上げ、のっそりと昼飯の買い出しへ向かう。
ろくな服に着替えもしないまま家を出た俺が、上から下まで隙のないオーラを纏った主人に遭遇するまで
…あと15分。
***************
皆様
突然の更新で驚かせてしまい、申し訳ございません。
先般告知しておりました、『モブ(俺)』の同人誌が…本当に出ます。
4/2(投稿時、4/3と誤植しました。大罪)
同人の総本山、某デカサイトで開かれるJ庭というイベントで、サークルのスペースをいただくことが出来ました!やったー!
各方面の様々なBL作品が集うイベント、見逃せねぇぜ…!
鋭意製作中ですが、弊サークルではこの謎の本を出す予定ですので、是非お立ち寄りください。
不慣れすぎて虚無になってたら励ましてやってください。
内容は、以下の通りです。
【モブ(俺)謎の本】
✔︎本編(掲載済みのお話。かなり改稿しています)
✔︎番外編 『夏休み、何も起こらないはずがなく…』
✔︎番外編 『授業中の駆け引き』
こちらに掲載している本編を改稿して冊子化、DLCはまた別の機会に作ろうかなと思っています。
番外編は、アルファポリス様で更新する2~3話分くらいの分量で考えています。
つまり、今書いている…ってコト?!
是非はちのすに「絶対出せよ」と呪いをかけていただければ嬉しいです。
通販はイベントで残部が出れば検討いたします。少部数で刷る&残る数が未知数なので、あるかも程度に思っていただければと思います。
では、当日お越しくださる皆様にお会いできることを楽しみにしております。
はちのす
まだ開き切らない目の代わりに、耳が控えめに囀る鳥の声を拾った。
「ふわぁ、あ…春って何でこんなに布団から出られなくなっちゃうんだろ」
ぬくい布団の中で、もぞもぞと芋虫のように体を動かす。
こちらの世界で、妹との仲良しウハウハ共同生活が始まり、かれこれ数週間。
春眠暁を覚えず。俺こと惰眠貪りマンは、学園生活の中でも貴重な休日の午前中を布団の中で有耶無耶にしていた。
「ゲーム世界と現実世界が融合したって気が付いた時はどうなることかと思ったけど、昔は出来なかったアオハルを謳歌出来るのは嬉しいなぁ。皆ともまた会えるし!」
大きめの独り言は、布団の羽毛に吸収されていった。
…そして訪れる静寂。
「…別に暇人じゃないし。本当だし」
言い訳がましいけど、早々に出来た新たな友人と遊びに出掛けてしまった妹は家におらず、特にいつものメンバーと遊ぶ予定なんてものも立ててなかった俺は、必然的に布団とお友達になっていたのだ。
(これじゃあ、あの世界の二の舞だ。)
「せっかく訪れた高校生活。楽しく過ごしたいよね!こんな布団とお友達になるんじゃなくてね!」
そう思い立って飛び起きた矢先。
この世界ではまだ若人である筈なのに、日頃の運動不足が祟りバランスを崩す。
あろうことか誰もいないこの空間で、ベッドサイドでボックスステップを踏むことになってしまった。
「うわっ、とと…へぶしっ!」
結局足がもつれて、本棚の前で盛大に転けた。
…俺、ツイてなさすぎない?
「もう!なんなんだ…ん?」
惨めに這いつくばった、俺の視線の先。
そこには、背表紙に何も書かれていない一冊の分厚い本が、本棚の最下段に収まっていた。
(こんなのあったっけ…アルバムかな?全く記憶にないけど)
よっこらせ、と起き上がりつつそのアルバムを引き抜くと、思いもよらぬ重量に驚く。
「ひぇ?!俺、こんなずっしりとしたアルバム作れる程の写真撮ったっけか…いや、泣いてないですけど」
アルバムのカバーや表紙を注視してみると、背表紙だけでなく、表裏どちらにも何の印刷もされていないことに気が付いた。
何じゃこりゃ。
恐る恐るページを開いてみると、そこには…
「えっ、この写真って」
あるはずもない、世界が融合する前のスチルが収められていた。
「う、うわ。どうしよ、これこの世界にあっちゃいけないものじゃ…」
時系列に並べられているらしいその写真たちは、俺の記憶を揺り動かす。
「あ、これ、俺が初めてこっちの世界に飛ばされた時に見た学生証…これは1人海賊ごっこした時のやつか?何であるんだよ!」
ペラリとページを捲ると、俺視点だけじゃない構図の写真も存在していた。
いつの間に撮られたんだよ!
「うげ、これは式で寝まくって先生に名前を覚えられちゃった時か…あ。主人達と初めて昼ご飯食べた時のもある」
(…とすると、もしかして。)
テンポよくページを捲り続けると、あるページを境として、写真の様子がおかしくなっていく。
それに呼応して、俺の体温も鰻登りだ。
「ッ肌色の画面占有率が高すぎる!!」
バターン!とアルバムを派手に閉じると、意識の外へ追い出すように本棚に押し込んだ。
(やばい。やばいぞ。)
「妹にこんなもの持ってると気が付かれたら、ヤバすぎる…捨てなければ」
でも、あの日々がなかったら、今の生活もない。
そう思うと、なんだか捨てがたいような…どうしよう。
うんうん頭を捻り、唸り声を上げていると、ふと解決策が頭に浮かんだ。
「これ、アルバムに見えるから開きたくなるんだ。普通の本っぽく作り替えちゃえば開こうとも思わないよね!」
思い立ったら即行動な俺は、すぐにアルバムを覆っていたカバーを引っぺがすと、偽装を始める。
これぞ日曜大工ってね!大工仕事でもないけど。
一心不乱に偽装工作を続けること数時間。
「…よし、完璧だ。」
満足気に手元の本…もとい、アルバムを見つめる。
どこから見ても普通の本。
最下段に入っていたら、一生手に取らず終わるような地味なカバーだ。
「いやー、我ながら惚れ惚れするほどの手腕。全くもって地味な本だ」
一仕事終えたと思うと、お腹が減ってきた。
「スーパーに買い物にでも行くかぁ」
重い腰を上げ、のっそりと昼飯の買い出しへ向かう。
ろくな服に着替えもしないまま家を出た俺が、上から下まで隙のないオーラを纏った主人に遭遇するまで
…あと15分。
***************
皆様
突然の更新で驚かせてしまい、申し訳ございません。
先般告知しておりました、『モブ(俺)』の同人誌が…本当に出ます。
4/2(投稿時、4/3と誤植しました。大罪)
同人の総本山、某デカサイトで開かれるJ庭というイベントで、サークルのスペースをいただくことが出来ました!やったー!
各方面の様々なBL作品が集うイベント、見逃せねぇぜ…!
鋭意製作中ですが、弊サークルではこの謎の本を出す予定ですので、是非お立ち寄りください。
不慣れすぎて虚無になってたら励ましてやってください。
内容は、以下の通りです。
【モブ(俺)謎の本】
✔︎本編(掲載済みのお話。かなり改稿しています)
✔︎番外編 『夏休み、何も起こらないはずがなく…』
✔︎番外編 『授業中の駆け引き』
こちらに掲載している本編を改稿して冊子化、DLCはまた別の機会に作ろうかなと思っています。
番外編は、アルファポリス様で更新する2~3話分くらいの分量で考えています。
つまり、今書いている…ってコト?!
是非はちのすに「絶対出せよ」と呪いをかけていただければ嬉しいです。
通販はイベントで残部が出れば検討いたします。少部数で刷る&残る数が未知数なので、あるかも程度に思っていただければと思います。
では、当日お越しくださる皆様にお会いできることを楽しみにしております。
はちのす
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