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DLC本編
文化祭2日目①
しおりを挟む(アイツ来ねぇな)
"僕"……俺は、人が行き交う校門前で、ここ数日で馴染みになった顔を待っていた。
「あれ、江隅君?どうしたんですか、こんなところで。」
「ああ、待ち合わせしてるんですけど……どうやら、すっぽかされたみたいです」
「もしかして、田中君ですか?彼、そんなタイプには見えないですが…特に休みの連絡も入ってませんし」
柔和な態度で俺に話しかけてくるコイツは担任の模布だ。
模布は明らかに補習回数の多い俺に対しても特に侮蔑の目線を向けてこない、話が分かる奴。
…とまあ、それはどうでも良いとして、問題は田中だ。
「もう15分も待ち惚けなんです」
アイツあんだけ楽しみにしてやがったのに、待ち合わせに来すらしない。
こんな状況になって初めてアイツの連絡先も何も知らない事に気が付いたのも、それを少し心許無く感じたのも癪だ。
俺は、鬱陶しい前髪を首を振って均すと、教室へ向かうため踵を返そうとした。
ガシッ!
後ろから肩を掴まれ振り返ると、模布がニッコリと笑みを深めながらこちらを見ている。
(…嫌な予感がする)
「もしかしたら田中君、体調不良とかかもしれませんねぇ……そうだ、江隅君。折角待ち合わせしてたんですし、様子を見てきてはくれませんか?」
「いえ…僕たち、そこまで仲良くはないので」
「そんな事言わずに!きっと貴方が来てくれたら田中君も喜びますよ…残念ながら、先生はクラスの監督をしなければなりませんので」
そう言いながら、模布は何かが記載されたメモ用紙を渡してくる。
話の流れから、多分田中の住所かなんかだろう。
「随分と用意がいいですね」
「偶々ですよ。じゃ、頼みましたからね~!」
怪しい挙動をした模布を追いかける気力も起きない……クソ面倒い。
でも、諍いのない学園生活のために"優等生"を気取っている俺としては、担任の願いを放り出す訳にはいかない。
「はぁ、仕方ない」
俺は地図アプリに住所を打ち込むと、案内されるがままに歩みを進めた。
学校へ向かう生徒たちとは逆流する形だからか、いつもは向かない奇異の目が俺に突き刺さる。
そう自覚すると、過去の記憶がフラッシュバックしそうになり、拳を強く握る。
(…まただ。)
昨日も出店を回っている時に、田中の友人とやらに見られた時も平常心を保てなかった。
昔からの悪い癖だ。
この髪で虐められることが多かった俺は、人の関心が俺に向くのが耐えられなかった。
なら相手の目を閉じさせてしまえばいいと、片っ端から片付けていったら厄介な奴らに目の敵にされた。
まあ、そりゃそうか。
下らない記憶を思い出してないで、サッサと頼まれごとを終わらせよう。
(アイツ、寝坊だったら強めのデコピンしてやろう)
アホみたいに快活に笑うあの顔を思い浮かべ、早足で目的地に向かった。
ピンポーンピンポーン…
静かなフロアに呼び出し音が虚しく響く。
「あ?うんともすんとも言わないな」
(本気で寝こけてるか…なんかあったかだよな。)
深く息を吐いて、とりあえず報告しようと学園まで引き返そうとしたが、念のためとドアの取手を押してみる。
「…開いた」
不用心にも程があるだろ。
もう一度住所が合っているか確かめて、少し扉を開いて呼びかけた。
「田中君!大分遅刻してるんだけど、起きてる?」
…また返事がない。
「入るからね。文句なら模布に言って」
まだ一度も起きていないのか、暗い部屋を手探りで確認していく。
ワンルームらしく、入り口からそう遠くないあたりに、家具が置かれている気がする。
「あ、ライトのスイッチあった…は?」
パチッと電気を付けたその部屋はもぬけの殻だった。
ベッドには何かが寝ていたような形跡は残ってはいたが、部屋の主は何処にも見当たらない。
軽く部屋を見渡すと、通学鞄が雑多に置かれているし、ウチの制服がハンガーに掛けられている。
どう見ても登校したとは考えられない。
じゃあ何処に行ったのか。
(開きっぱなしの玄関ドア、もぬけの殻状態の部屋、登校した様子がない部屋…クソ、何かあったんじゃねえか!)
慌てて学校に電話しようとスマートフォンを取り出したところで、勝手に起動したパソコンに気が付いた。
「俺、触ってないよな…なんで動いてんだ」
悪いとは思いつつ、画面を覗き込むと、そこには探し求めていた"アイツ"が映っていた。
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