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DLC本編
秀先輩といっしょ!
しおりを挟む校門前に向かって歩き始めると、秀先輩の居場所は遠目からでも一目瞭然になっていた。
『あのめちゃくちゃカッコイイ人、私服だね。モデルかな…俳優かも』
『誰か待ってそう!うわ~いいなぁ羨ましい』
今日は色々な世代が男女問わず集まっていることもあり、秀先輩の周りには遠巻きながらもその様子を見つめる観衆の輪が出来上がっていた。
(何コレ怖すぎる…!帰りたくなってきたぞ)
俺にはその人垣を分入ることは出来ず、その周辺をうろちょろしてしまう。
秀先輩は、ハイネックのニット、スキニーパンツ、薄手のトレンチコートと、デートでも外れない格好をしていた。
もちろん制服姿でも圧倒的存在感だったが、私服姿は更にその異質さを浮き彫りにさせている。
じっと観察していたら、秀先輩とバッチリ目が合う。
少し微笑んで歩き出した秀先輩に、周囲はどよめき出した。
思わず後ずさってしまった俺に罪はないはず。
「ま、秀先輩!目立つ、目立ちますから!」
「逃げないでくれ」
「ひょぇ」
ガシッと腕を掴まれ、退路を絶たれた。
…いや別に逃げたい訳じゃないんだけどね?!
(聴こえる…聴こえるぞ。『え、あんな奴がツレなの?!私の方がいいでしょ!』みたいな心の声が…)
「秀先輩って罪なオトコ…」
「君にだけは言われたくないな」
先輩は俺の手を取り、ゆっくりと歩き出した。
「秀先輩っ、ど、どこ行くんですか?」
「どこに行こうか。行きたいところはあるか?」
先輩はとにかく注目されているこの状況から離れようとしてくれているらしい。
きっとこの感じだと、どこに行っても注目されかねないな。
(イケメンも苦労してるんだな…)
「先輩が良ければ、俺の家…来ます?」
「…は、いいのか?」
「もちろんです!とはいえ、何もないんですけど。お話しするには十分だと思いますよ」
「いやそうではなくて…まあいいか。」
はぁ、と短くため息を吐いている姿に、俺は気付いてしまった。
(あれ、俺…やらかした?)
いきなり家どうぞ、なんて言われても普通困るよな。
…でも待てよ、この兄弟には半ば強制的に連れ去られたわけだ。
少しのわがままは聞いてもらわなくちゃな!
「おいでませ~!」
「お邪魔します」
「何にもなくて、コンビニに立ち寄ることになっちゃってすみませんでした…」
「何を気にしているんだ。それくらい普通にするぞ」
「へっ、秀先輩って毎食外食してそうなイメージでした」
「そんなことをしたら体を壊すぞ…食生活は至って普通の大学生だ」
あ、そうか。秀先輩も、今は大学生なんだ。
「秀先輩は何を専攻しているんですか?」
「あぁ、そうかまだ進路が決まる前だったな。あの時は」
そう言いながら、秀先輩はスマートフォンを操作し始めた。
目の前に差し出された画面を見ると、展覧会のような会場に佇む秀先輩の姿が写っている。
「美術品ですか?凄い…素敵な作品ばかりですね」
「そうか、ありがとう」
「あり、がとう…?まさかこの絵画って」
「俺の作品だ。今は油彩を専攻している」
「す、凄すぎる…まだ大学1年生ですよね?!もしかして飾られているんですか?」
「ああ、これは高校在学中に描いたものだが、今年になって飾られたんだ」
どこか照れ臭そうな顔をしながら、スマートフォンを仕舞い込んだ先輩は、こちらに向き直った。
「…君と出会わなければ、この道には進まなかった」
「え?何でまた俺なんですか」
「元々経営学の方に進もうかと考えていたんだ。でも、自らを表現した絵に、裏も下心もない賞賛を得られた瞬間、生の喜びを知った気がしたよ」
どうしようもない理由だと思ったか?そう呟いた先輩の表情は、発言内容の割に晴れやかな表情をしていた。
「今しか表現できないことは確かに存在する。その感覚を逃さないように生きると決めた」
「そうなんですね…」
なんだか大それたことをした事になってる…そんな気が気じゃない状況で思考をぐるぐると回していたから、横から伸びて来た腕に絡め取られても反応なんて出来なかった。
「こうして君がこの腕に戻ってきたんだ、この機会も逃せないだろう?」
「せ、んぱい…」
「随分驚いた顔をするんだな、俺はこんなにも君を意識しているのに」
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