BLゲームのモブ(俺)は誰にも見つからないはずだった

はちのす

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DLC本編

文化祭初日③

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「美術部はこっちれす…」


いまだに痛む舌を外気に晒してクールダウンさせながら、道案内をする。

しかし、そんな俺の健気な頑張りに対して、江隅は時折こちらをチラッと見て小馬鹿にしたような笑みを浮かべるのだ。

(この…!今度アツアツのおでん食わしてやるっ!)

かなり古めかしい仕返しを模索しながら進むと、美術室が遠目に見えてくる。
展示を見にきたらしい何人かの人影が教室前に集まっていた。


「わぁ…めちゃくちゃ懐かしい」

「田中君、関わりあるの?」

「あ、いや…昔美術系の部活動入ってて。ははは」


…ひえ~危ない危ない!口が滑った。

前にここで過ごした時のことは、江隅には話していない。
説明がややこしくなるし、何よりこの年代の1歳違いは、絶対的な差になる。

だからなるべくバレたくない。
今のところ、江隅とは対等な関係を築けていると思っているんだ。

(まあ精神面で言うと1つ上どころか、かなり歳上なんだけどね!)



「…田中か?」


俺が渾身のセルフツッコミをしていると、懐かしい声が鼓膜を震わせた。
落ち着きつつも圧倒的な圧のある声…まさか!


「しゅ、秀先輩!!」


振り返ると、私服姿の秀先輩がこちらへ向かってきていた。
俺はその姿を認めると、あまりの懐かしさから駆け出してしまう。

別にそんなつもりは無かったのに、秀先輩が驚いた顔で両手を広げるものだから、そのまま胸にダイブする。
そんな俺を少しよろめきながら受け止めると、不敵な笑みを浮かべた。


「久しぶりだな」

「秀先輩!わぁ…お久しぶりです。最近はちゃんと寝てますか?!」

「まあ、自己管理はしている」

「うわぁ、信用ならないですね」


大丈夫、と言いながらめちゃくちゃ疲弊していたのを知ってるからね。
今もちょっとよろめいていたし。


「田中こそ、転校後全く顔を見せなかったな…流石に堪えた」

「う、すみません…」


先輩の腕の中でしゅん、としていると後ろから声が掛かる。


「僕、帰るね」

「わぁ!ごめんって、待って江隅ぃ!」


江隅は踵を返して、教室へと戻ろうとしていた。
慌てて声をかけると、秀先輩がポンポンと頭を撫でてくる。


「すまない、連れがいたんだな」


おもむろに顔を近づけると、俺の耳元で“17時に校門前まで来られるか?”と囁いた。
…一人で来いと、そう言うことなんだろう。

僅かに頷くことで答えを返すと、先輩はサッと身を引いた。


「俺は後で展示を見ることにする…そちらの彼によろしく」

「え…あ、行っちゃった」

「良かったの?さっきの人と一緒に見たかったんじゃない」

「大丈夫!しっかし、文化祭でたまたま先輩に会えるとか、奇跡的な確率だな~」

「そうだね…で、先輩ってウチの?何で田中君はこっちのOBに知り合いがいるの」


(あ…墓穴掘った)


「ま、前にちょっとね!話せば長くなるなぁ」

「じゃあいいや…更にどうでもいいけど、田中君の知り合いって美形揃いだね。」

「グッ、たまたまです」


“そういうゲームシステムです。“
なんて言えるはずもなく、俺は危うく面食いという不名誉なレッテルを貼られるところだった。
いや、もしかすると江隅の中ではそのイメージになってしまったかもしれない。


ジト目でこちらを見てくる江隅にヒヤヒヤしながら、いくつかの出し物を回った俺たちは学校を後にした。
…フリをして校門へと向かう。


陽が傾き始め、あたりは少し赤みを帯びている。


時刻は16:50、先輩との約束の時間が近づいていた。



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