BLゲームのモブ(俺)は誰にも見つからないはずだった

はちのす

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DLC本編

文化祭初日①

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「秀先輩のアバター!」


マップ上に表示されたちみっこい秀先輩を眺めてみる。

現在地は近くの大学みたいだが、こんな遅くまで残っているのだろうか。

ちなみに今の時刻は19時。
…まあ、大学1年と考えれば妥当なのかもしれない。

秀先輩のことだ。
初年度から風が吹く隙間もないくらい、予定を組んでいるんだろう。

きちんと寝てるのかな…と顔面蒼白な先輩を思い出していたその時、ふと江隅の顔が頭を過る。


「そういえばめちゃくちゃ普通に接してたけど、江隅って攻略キャラなのかな?」


前髪で顔が見え難いから、というのもあるかもしれないけど、現時点で飛び抜けたイケメンってわけではないし…。

このゲームでは異質な存在な気がしている。

そこまで考えはしたものの、俺は何せ考えるより行動の人間だ。

頭を使い過ぎて、既に欠伸が止まらない。


「ふぁあ~、まあ江隅はないでしょ。DLCで新キャラが増えたとは言ってなかったし。うん」


レポートを半寝状態で書き上げ、シャットダウンしよう、と思ったらちみっこい秀先輩と目があった。


「秀先輩、おやすみなさい」


画面上に映る先輩が、こちらに向かって手を振ったような気がした。


【レポート】

✔︎分岐ストーリー "人格形成"





「おっはよう江隅ィ!」

「おはよう、よく逃げなかったね」

「え?逃げるってなんでよ」


俺の1ミリも理解出来ていない顔を見て、江隅は肩を竦ませて前を歩き出す。

(もしかして、俺が昨日の江隅を見て怖気付いたと思った…とか?)

そうだとしたら、俺が江隅の想像よりも数倍図太いってこと、思い知らさなきゃな。


「コソコソ…えい!」

「っ?!」


助走をつけて、先を歩く江隅の背に抱きつく。
驚いて息が詰まったような声は聞こえたけど、ふらつく事もなくその場で留まる。
さすが江隅。


「俺を恐れさせようったって5年早いぞ!」

「何でそんな具体的なの…っていうか重いんだけど」


江隅は俺の宣言を意にも介さない。
しかも俺自身は、まるで服についた埃のように、サッと払われた。

5年なのは現実世界での実年齢も勿論加味して…いや、なんでもない。
虚しくなるからやめよっと。


「なんだよ~」

「行くなら早く行くよ」


早足がさらに加速し、俺を振り切らんとするその背中を追い回すことに専念しよう。



ザワザワ…

『たこ焼き売ってま~す!』

『舞台の観劇はいかがですかぁ』

『そんなことより映画部!映画部で秋のホラー映画ショーを開催してます!全人類参加して!!!』


いつもの学園内とは打って変わって、活気のある声が響く。

一部癖のある勧誘もあるが、みんな今日にかけて準備を頑張ってきたからこそ楽しんでもらいたい一心で声かけをし続けている。


「いや~やっぱ良いね、文化祭!」

「そんなに来たかったの?」

「そりゃあもう数年ぶ…ゴホン、一年に一度のお祭りだからね」


ふぅん、と至極どうでも良いというような反応を示した江隅。

(この~!思春期真っ只中かぁ?!)

ツンツン~!と頬を突こうとしてヒラリとかわされた。


「一々その絡みをするなら帰るから」

「す、すみませんでしたぁっ!もうしないから、置いてかないでぇ」


せっかく昨日打ち解けられた(と一方的に思っている)江隅と、さらに仲を深めるチャンスなのに…!

腕を掴む…のは思い止まり、袖の端の方をちょっと摘んだ。

というのも、話もせずズンズン歩いたら、この人混みに呑まれて逸れてしまいそうだからだ。

クイっと袖を引っ張り、少し高い位置にある江隅を見上げて懇願する。


「ね、江隅。お願い!一緒に回ろ」

「…はぁ、いいよ。元々そのつもりで来てはいるから」

「よかった~!じゃあまず最初に、メイド喫茶行こうよ!」

「田中君だけで行って、と言いたいところだけど約束した手前行くよ」


こうして一緒に展示を回る友を獲得した俺は、ルンルンで校舎に足を踏み入れた。
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