BLゲームのモブ(俺)は誰にも見つからないはずだった

はちのす

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DLC本編

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叫べど虚しく、当たり前だが救援は来ない。

(頑張れ田中!喧嘩を止めなきゃ…!)


「え、江隅…!相手にしちゃダメだって」

「田中、そこで待ってろ。ステイ」

「ハイ!って、あぁ…」


うわぁ、あまりの気迫に思わず肯定の言葉を返してしまった。

江隅は、軽くあしらうように学ランの相手をすると、瞬く間に相手を伸してしまった。

学ランから気怠げに所持品を漁ると、学生証らしき物を持ってこちらに歩いてくる。

かき上げていた前髪もいつも通りになっており、一見いつもの江隅だが、纏う雰囲気がどこか不穏だった。


「あの高校か…割と近いし面倒だな」

「え、江隅!!暴力、ダメ絶対!!」

「…ん?あぁ、田中君いたんだ」


雷が落ちたかと思った。
つまり、驚きと同時に強い衝撃を受けた。

(俺の存在を忘れていた、だと…?!)

今まで江隅はおバカ系優等生だと認識していたから、全く考えもつかなかったけど…この声。

もしかすると、屋上で聞いた声の中の一つだったかもしれない。


「田中君」

「ぴぇっ」

「分かってると思うけど、他言無用だからね」


学ランの学生証をおもむろにカバンにしまいながら、江隅は普段通りの温度感で俺に接してくる。

だが、俺の頭をよぎったとある可能性が、既に確信めいたものに変わっていた。

(もしかして、屋上にいたサッカーヤンキーって…)


「さて、ソレが目を覚ます前に帰ろうか」

「は、はい」

「…怖がらないでよ。僕は田中君を守る護衛なんでしょ」


少し困った表情の江隅が俺の眉間を軽く突いた。

ちょっと控えめなその触れ方が、江隅の人となりを表しているようで少し安心する。


「……うん、百人力だね!」

「そう、向かうところ敵なしってことだよ」

「言うねぇ~!」


江隅は喧嘩になると少しテンションが上がりやすいタイプなんだなぁ、と無理矢理納得する。

いや、そもそも喧嘩なんてしないに越した事はないけども!


「江隅って本当に強かったんだね」

「まぁ…生まれつき」

「うお、強者の発言!ってか、何でいつもは優等生らしくしてるの?」

「らしい、じゃなくて普通の学生なの。ただ変な奴に絡まれるだけ」

「へぇ、中学から?」

「…そう、この髪の色が原因」


江隅は一房髪を摘むと、苛立たしげに弾いた。


「ちょっと江隅、綺麗な髪なのにぞんざいに扱うなよ」

「はは、田中君が言うセリフ?それ」


摘まれていた髪のキューティクルが心配すぎる。
ちょっと触れてみると、心配なんて無用なほどスルリと指を滑り落ちていった。

しかし本当に綺麗な髪だなぁ。

気が済むまで美髪を弄っていたら、江隅が身を捩って俺の手から逃れた。

(…残念)


「にしても、明日は文化祭当日かぁ~!他のクラスを回るのも楽しみだな」

「そうだね、どこ回るの?」

「あぁ、部活系の出し物は見てみたいな…江隅は?」

「僕は別に。田中君との約束がなきゃ行かないつもりだったし」

「え、そうだったの?!じゃあ、俺の行きたいところ一緒に行こう!」

「…それでいいよ」


一人で盛り上がっていると『底抜けに明るいよね、田中君って。』なんて、ちょっとした嫌味をもらった。
だけど、それが毛ほども気にもならない!

(俺の頭の中は明日の文化祭のことで一杯だからね!)







「たっだいマイハウス!」


久々に元気よく、なんならダッシュしながら帰宅を果たした。


「いやはや、今日は良い日だったなぁ…色々な問題が解決したし」


とはいえ、江隅があのサッカーヤンキーっていう事実に大手が掛かってしまった。
そうなると、江隅が人をボールのように蹴り回す危険人物って事になるのだけど…


「そんなふうには見えないよなぁ」


普通に良いヤツっぽいんだよな。


「…とりあえず、今日のガチャとレポートを片付けるかぁ」


今日も2回分…と思ったが、何故か1回分しか出来ないらしい。


「スターが不足しています…スター?」


そんな設定あったっけ?とガチャの説明欄を見ると確かに書いてある。

(そういや最初に説明読んだ時に書いてあったな…スターってどこで手に入るんだ?)


まあいいか、と一回だけガチャを回した。


…あの確定演出はない。


「SRではない…けど、Rだ!!」


次に表示された画面には、昨日と同じくRの文字。

そして秀先輩のアバターが表示されていた。
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