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DLC本編

思考回路

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髪を梳く指の感覚で目を覚ました。

寝惚けた目に入ってくる家具の数々は、どれもマイハウスにありそうもない秀逸なデザイン。

(あ、ここ嘉賀先輩の家だ…)


「いつまで寝てんだ」

「アデッ!」


額に鋭い痛みが走ったと思ったら、なぜか嘉賀先輩にデコピン攻撃をされていた。


「酷い!!俺、折角一大決心で尻を明け渡したのに…っ!!」

「その言い方、癪に障るな」


先輩を恨みがましく見つめると、水のペットボトルを額に押し付けられた。


「冷やしたからノーカンだろ」

「そんなわけないですよね?!」

「うるせぇ…」


あんなことをした後だと言うのに、先輩の温度感は全く変わらない。
…むしろ最中なんて、ドロ甘すぎて糖分過多で死ぬかと思った。


「思ったんですけど…先輩、この一年で何かありました?」

「詮索好きか?身を滅ぼすぞ」

「嘉賀先輩に限ってそんなことしないでしょ」

「…お前本当にそう言うとこだぞ、自覚しろよ」


先輩は、まだ動けない俺を気遣ってか、ベッドの縁に腰掛ける。
手に持っていたペットボトルの水を飲み干すと、気怠げに話し始めた。


「家のこと、話したことあったか?」

「ん~、ないです。多分」

「だろうな。まあ、よくあるゴタついた家だ。金はあるから余計にタチが悪ぃ」

「そんなもんですか」

「ああ。胸糞悪りぃ奴等だったから、親父が死んで家督を譲られた時に、親族諸共破門した」

「え?」

「揉めたんだよ、色々な。それこそ、親しい人間を端から端まで疑うくらいには」


嘉賀先輩の瞳の色は暗く、虚空を見つめている。


「結局、家督をついで褒められたもんじゃない組織を回してる」

「ん、ん?」

「散々抱いた後に言うのもなんだが…今後俺には深く関わるな。貸し借りをチャラにしてそれで終いだ」

「ちょ、ちょっと待ってください、先輩…そんなの聞けないですよ」

「なんだ、今度はお前が駄々を捏ねるのか?」


嘉賀先輩は愉快そうに片側の口角を少し上げ、俺の頸に手を添える。

するりと撫でつけられ、その擽ったさに身を捩る。


「…っ、擽ったい」

「お前の願いを聞かせろ、物によっては考える」


(どうしよう…)

さっきまでは、意気揚々と先輩のパワーを利用してやろうと思ってたのに、そんな話を聞くと気軽に頼めない。

最低限でも、身を守れる方法…そうかッ!


「ヤンキーから隠れられる方法、教えてください!!!」

「は?」

「いや、先輩の居なくなった屋上に、別のヤンキーが居座ってるんですよ…」

「ハッ、興味深いな。で、何をやらかしたんだ?お前」

「何もやらかしてないですって!ちょ~っと覗き見したらバレたかも、ってだけですぅ~!!」

「目は合ってないのか」

「目?あ、はい」

「じゃあ大丈夫だろ。
チンピラの共通言語はガンの付け合いだ。目が合ってないならソイツらも覚えてない
……ってか願いってそれかよ、拍子抜けだな」


溜息をついて、どうでも良さそうに話を終えると、先輩は緩慢な動きで俺を抱えた。


「あれ、先輩?」

「どうせ動けねぇだろ、風呂入れてやる」

「な、何から何まで、すみません…」

「願いとやら、着替えるまでに別のを考えろよ。流石に吊り合いが取れねぇ」



わしゃわしゃと犬のように洗われながら、お願いについて考えてみる。

先輩にはああ言ったけど、結局俺も元の世界に帰んなきゃ駄目だ。
そう思うと、先輩の言っていた"会えるのはこれで最後"っていうのも、あながち間違っていないかもしれない。

でも、嫌だな…みんなとは本当の友達のように、もしかしたらそれ以上に想い合っていけるかもしれないのに。

(うう…寂しがっちゃ駄目だ、俺。俺の世界は妹のいる場所だもん)

涙で目が霞みそうになったが、なんとか堪える。

早いもので、ここでもう3日を過ごしている。
そう考えると、帰還までも、あっという間なんだろう。

コンディショナーを流し落とすお湯がカーテンになり、俺の情けない顔を隠した。

(大人の癖して情けないなぁ…)


「オイ、最後に顔流すぞ…あ?なんて顔してんだよ」

「あぇ、なんでもないです!」

「はぐらかすな。テメェのその顔を見ると…あの日を思い出す」


(あの日…?)

先輩の声色は硬いままだ。


「転校先も連絡先も何も残さず消えやがって、意味分かんねぇ」


そっか、1年前に転校を告げた日か。


「ごめんなさい、事情があって言えなくて…」

「その時から俺はお前のことが一切理解出来ねぇ。
思い返すと、最初からお前はおかしな奴だった。お前程考えが読めない奴は初めてだ」

「あれ、これ貶されてますよね?」

「当たり前だろ」


顔にバシャッとお湯をかけられ、
続けざまにふわふわのタオルで顔を軽く拭かれる。


「わぷぷ…!」

「田中」

「え、…っん」


先輩がご機嫌ナナメっぽかったのでされるがままになっていた俺だが、ようやくタオルが退けられて光が見えた。

首から掛けられたタオルで、頬を撫でられ…そのまま、口付けられた。

温かな舌が滑り込んできて、口内と思考を塗り潰していく。


「っは…今度は何かしら残していけよ」


先輩はそう言って俺を磨き上げると、送迎すると目立つからと裏口から俺を帰路に就かせた。
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