BLゲームのモブ(俺)は誰にも見つからないはずだった

はちのす

文字の大きさ
上 下
116 / 145
DLC本編

人違いでした!!!

しおりを挟む



「なるほど、そういう事だったんですね。今日の準備はもう終わっていますので、お家に帰ってゆっくり休んでくださいね」


江隅に言われた通り職員室に向かうと、モブ先生はソワソワと落ち着きなく立ったり座ったりを繰り返していた。

どうやら俺が目を覚ますのを待っていたらしいけど、その光景が面白くて数秒外から眺めてしまった。


「先生、肝が冷えました…」

「いやぁ寝不足で…どこも痛くないんですけど、しっかり寝ちゃったみたいです。すみませんでした!てへ」

「江隅君も見たことがないくらい慌ててたんですよ…よくよくお礼を言ってくださいね」


先生に見送られながら職員室を後にした時、ふとあることに気がつく。


「あ、そういえば鞄とか全く持ってきてないじゃん…置き去りになってるかも」


教室に向かうと、案の定。
俺の鞄だけ机の上に放置されていた。
他のみんなはもう下校しているようで、教室はもぬけの殻だった。

もちろん江隅も例外ではなく。


「優しいんだか薄情なんだか微妙だ…っ!!」


クッ、と奥歯を噛み締めていると、ふと窓の外の旧校舎に視線が奪われる。


「あれ、屋上に…人影?」


嘉賀先輩がいたあの屋上に、小さな人影を見つけたのだ。
見間違いかな、と思ってよくよく目を凝らすが、やはり確実に何かしらの影が見える。

そう認識すると、怒涛のように、記憶がフラッシュバックしていった。


「先輩、なわけないか。でも、気になる…」


一度気になったら止められない性分の男、田中。
自分の目で確かめるために、屋上に向かう他、選択肢なんてない!!!

『もしかすると、万が一、いや1%の確率くらいで嘉賀先輩かも』そんな考えが頭を占拠していた。

…そう、その時の脳みそは、学園の不文律なんてすっぽりと抜け落ちていたんだ。





『おっ邪魔しまぁ~す…』


未だに少し建て付けが悪いドアノブを握り、限りなく小声で侵入宣言をしながらゆっくりとドアを開く。

だが、パッと見渡しても誰もいない。


「ん、誰もいない?…上かな」


(そういえば嘉賀先輩も、いつも給水タンクあたりで寛いでたもんな)

軽やかに梯子を登り始めた俺だが…梯子を登りきることは叶わなかった。


「っ」


梯子の中腹くらいで見えた光景に絶句してし、思わずその場で動作停止してしまう。

夕陽による逆光で詳しくは見えないが、怒鳴る声や影で何が起こっているかは判別できる。


ゴロリと転がる生徒、約3名。
そしてそれを足蹴にする生徒が1名。

明らかに喧嘩の跡、だ。
…この雰囲気、嘉賀先輩じゃない。


(え、待って待って!俺、突然違う世界観の作品に迷い込んだ?

ク○ーズ?!ヤンキー漫画か何か?!?!)


盛大にビビった俺は、その生徒の視界に入る前に脱兎の如く逃げだした。

それこそ、あの世紀の怪盗のように。

バタン!とドアが閉まる音を聞きつけた人影が、視線を下に移す。


「あ"?…なんかいたか」


転がる生徒に視線を戻した人影は、寝転ぶ生徒の頭を踵で踏み抜く。


「テメェら、まだいやがんのか。ただの喧嘩に数は要らねぇだろ」

「っ、違…」

「は?じゃあ今の音はなんだよ」

「知らねぇ…っぐ!」


床に転がり呻く体を苛立たしげに蹴り上げ、前髪を掻き上げる。


「はぁあ…またかよ、面倒くせえな」


フワリと吹いた風が、陽を受けて輝く茶の髪の毛を持ち上げた。
しおりを挟む
感想 193

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。 幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。 席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。 田山の明日はどっちだ!! ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。 BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。 11/21 本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

処理中です...