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DLC本編
確信犯だ!!!
しおりを挟む「あ、江隅!おはよ~う」
「田中君、おはよう…朝から元気だね」
江隅は朝からシャッキリとしていて、俺のテンションにも嫌な顔せず挨拶を返してくれる。
かくいう俺も、今日は朝風呂も入ってきたから、朝からものすごく快調だ。
昨日のおっちょこちょいで、魅惑の香水を全部ブチ撒けてしまったので念のための対策。
どの程度持続するものか分からないけど、やりすぎなんてことはないはず。
モブ枠である江隅はいいとして、主人たちに遭遇してしまったら、数時間動けなくなっちゃうからね!
…自分で言ってて悲しくなってきたな。
「江隅、今日は補習だよね」
「…思い出させないでよ」
「残念だなぁ、せっかく一緒に帰れると思ったのになぁ…。」
「そっか。…まあ、明日以降にでも一緒に帰ろうよ」
そういうと、江隅はサッサと席に着いてしまう。
この適度な距離感がちょうどいいなあ、なんて思いながら、文化祭前の最終授業とやらが過ぎて行った。
「ねね江隅!この用紙ってどこに貼るの?」
「それはあっち。それ貼ったら、次はこの展示物を貼って来てくれない?」
「うっす!!田中様におまかせあれ~!!!」
「はいはい」
江隅は1日かそこらで俺の扱いを完全にマスターしたらしく、視線も寄越さず俺をあしらう。
「こっちも見ないなんて!やんなっちゃうわ!!プリプリ」
「怒る時の擬音ってそれで正しいの?」
「ん?プンプンか…?」
馬鹿話で適度に時間を潰していたら、あっという間に終業時間。
今日はホームルームは無いようで、クラスのモブたちも各々部活へ向かったり、駄弁ったりと自由に過ごしている。
俺もそろそろ帰ろうかな、なんて思っていたその時、教室の外がザワついていることに気がついた。
そのざわめきは、ジワジワとこの教室にまで伝播しているようだった。
「え?なんかあったの?」
「さあ…」
江隅はまたも興味なさげだったので、つい悪戯心が働いて、ほっぺを突いてみた。
ツンツン…
「何すんの」
「え~?なんか構ってくれないから…」
「…」
面倒臭い彼女のように、身をくねらせ江隅に擦り寄る。
だが、江隅はこちらなんて全く見ておらず、目線が合わない。
むしろ俺の後ろの虚空を見ている。
え、こんなに近寄ってんのに見てすらくれないの…!!
「あれ?江隅?どしたの…お、怒った?」
「田中君の知り合い?その人」
(え…)
そう問い掛けられ、江隅の視線の先を追うように後ろを振り向くと…
モブの花園に、にこやかな笑顔のキラキラ王子が佇んでいた。
「…里田?」
「迎えに来たよ!ほら、一緒に帰ろ!!」
「え、いやいやいや…なんで教室知ってんの」
「それは秘密っ」
ニッコニコの里田に“なんか怖えよ!“とツッコミを入れた瞬間、いつの間にか静まり返っていた教室の空気に気が付いた。
(あ、これはマズった。)
「里田、ハウス!!」
「わんっ…えっ?」
「とにかく行くぞ!!!!江隅、じゃあまた明日!」
「なんだ、田中も一緒に走るんじゃん~!待て待て~!!」
挨拶もそこそこに、爆速で教室を出る羽目になった。
件のキラキラ王子様は鬼ごっことでも思っているのか、何だか楽しそうだ。
江隅にろくな返事が出来ていないけど、今のを見ていたら嫌でも関係性は理解できるだろう。
(…そう、クラス中に知られてしまったってわけ!)
涙をちょちょ切らせながら、家までの道を走る。
そうやって爆速の走りを披露した、はずなのに。
リーチの長さを考慮してもなお速度で負け、体力で負け、俺は息もプライドも絶え絶えになっていた。
「っ、はぁ…里田、ストップ!」
「あれ、追いかけっこ終わり~?」
すでに家まであと数分というところで、俺は限界を迎えた。なんだこいつ、余裕綽々なのが腹立つな!
里田は光を受けて輝く髪を靡かせ、小首を傾げた。
「もしかして、怒られてる?」
「き、っ気付いて、なかったんかいっ…は」
俺は脱力した気分で、近くのベンチに座り込んだ。
休憩だということを理解したらしく、里田も俺の隣に腰掛けた。
「あ~、モブでいたかったのに…」
「なになに、何の話?」
「いや、皆にお前と友達なのバレたなぁって…里田たち学校でめっちゃ噂されてんだよ。イケメン集団って。」
「え~!それ、田中もそう思ってくれてるってこと?」
里田は既に近かった間合いをぐんと詰めてくる。
お互いのシャツが触れ、しっとりとした汗の熱気も伝わっていた。
…なんか距離が近いぞ。
「田中、この顔好き?」
「は?」
「ほら、よく見て」
俺の手を掴むと、力強く引き寄せて顔に手を添えさせられる。
(こいつ、本気だ…!!)
息がかかりそうなほど近付いた里田の顔は、少し上気しており、壮絶なオーラを放っている。
いや、色気と言った方が正しいかもしれない。
もう片方の腕は腰に回され、少しの抵抗も許されない。
真っ直ぐに見つめられ、視線をどこに持っていけばいいか分からなくなる。
へ、ヘルプミー!!!!
「里田、」
「ねぇ、返事は?この顔、好き?」
「い、イケメン…です」
「好きかどうか聞いてるんだけどなぁ」
里田は俺の腰をがっしりと捕まえながら、なんてことないように歩き出す。
「じゃあ田中の家、教えて?」
「へ、何でよ」
「ハウス、でしょ。命令は守らなきゃ」
(それ、里田ハウスに帰れってことなんですけど…)
何度説明しても、はにゃ?という反応ではぐらかされる。
これはもう確信犯です、検挙!!
「田中の家に、レッツゴ~!」
「あ、そっちじゃないから!もー、分かんないのに先に歩き出すなよ!!」
こうして、里田の圧倒的なボケパワーに負け、なし崩し的にマイハウスを目指さざるを得なくなったわけだ。
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