BLゲームのモブ(俺)は誰にも見つからないはずだった

はちのす

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DLC本編

"ストーリー"

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ふわふわとした微睡の中、頭に軽い重みを感じた。

押さえつけられている訳ではなくて、これは…


「なでてる…?」

「そ、撫でてる。おはよ、田中」


瞼を薄く開くと、眩しく輝く金髪が視界に入った。


「まぶ」

「~~ッブハ!!起き抜けの一言、面白すぎる」


ケタケタと楽しそうに笑うそのイケメンが里田だと認識したところで、突然寝落ち前の情事を思い出した。

里田はぼふっと顔を赤くした俺を間近で目撃したのか、目を丸くしてこちらを見ている。
先生との時もそうだったけど、俺ってやっぱり顔に出やすいらしい。


「あれ、なにその反応…恥ずかしくなっちゃった?」

「違うやい!なんか揶揄われて微妙な心境なだけだもん!!」

「ふぅん…俺は初めてだったし、今もめちゃくちゃ緊張してるよ」


今度はこちらが目を丸くする番だ。

いや、たしかにロッカーの変では、本番もしていないのに結婚だとか言い出したからまさかとは思っていたけど…

(この顔面で経験ゼロ…しかも俺が初めて、だと…?!)

俺は改めて自分のしでかした事に震えるしかない。


「すっごく可愛かったから、またしたいな…ダメ?」


当の本人は何も考えていないのか、キュルン!と効果音が聞こえてきそうな表情でこちらを窺い見ている。


「脱DTの相手が俺でよかったの?!というか"またしたい"?!?!
自分で言うのもなんだけど、特に面白味も可愛げもある奴じゃないんだけど!」

「むぅ、前も言ったけど、田中がいーの。この話題は終わり!」


里田はすっぽんぽんの俺の腹にグリグリと頭を押し付けてくる。


「友達以上、恋人未満ってこう言うことなんだね」

「…っ、それは」


そう、先ほどの情事の中で、里田に問われた事。

俺たちは、主人達とは、友達なのか?と。

…俺は、的確に答えられなかった。
好意は伝えられているが、付き合おうとは言われていない。
する事はしてしまった上で、この関係性にはどんな名前が付けられるのか。

里田はそれでもいいと、そう言ってくれたが、そんなわけにもいかないだろう。


「田中」


グズグズと思考を繰り返していた俺の頬をグワシ!と引っ捕まえて、視線を合わせられる。


「ぎぇ?!」

「難しく考えないで、好きと思ったら誰かの手を取って。でも、誰かに決められなかったら、俺たちに相談して。」

「相談…?」

「そ。その時のために、話し合っておくから」


え、何を?

という問いは里田に届かなかったようで、上機嫌に帰り支度を始めている。


「そだ、体大丈夫?」

「あ、ハイ」

「よかった!じゃ、明日ね!」


そのまま嵐のような勢いで、家を飛び出していった。

…怒涛。


「はぁあ…今一人にされると、ちょっと寂しいし、虚しいじゃんか」


俺は子鹿のように震える上半身をやっとの思いで起こして、パソコンを起動させた。

怠惰にガチャを引くと、画面に"R"と言う英字が連続して2回浮かぶ。
またこれかぁ、なんて思っていたけど、今日の特典は魅惑の香水ではなかった。

もっと禍々しく、アダルティなものだった。


「なにこれ…恐ろしい形状なんだけど…!!!」


いつのまにか手に握っていたのは、ゴニョゴニョの場所に挿入する玩具。

ゴツゴツとした凹凸がついており、その異形さが現実離れしている。なんか持っているだけで呪われそうな色をしていた。


「誰がこんなものケツに入れるか!要らないんだけど!!」


その呪具を机にポイッと放り投げた所で気付いたのだが、机にはそこそこの大きさのボトルが放置されていた。


「これがもう一つの特典…うげ、ローションじゃんこれ!」


もう嫌だ…早く寝たい…と机上のものから目を逸らしながら、今日の記録を入力していく。

カタカタ…カチッ


「よし!レポート終りょ…う?」


エンターキーを押すと、数行に集約……されなかった。


「え、な、なんで?ちゃんと打って保存したのに」


カチカチとクリックしてみても、なにも起こる事はなかった。

(おかしいぞ…何でだ?)

今までは大体あんな事やこんな事があったら、何かしらのクリア条件に関わっていた。
なのに、何も残らない…なんて。

ふとそこでとんでもない可能性に辿り着いてしまった。

こんな事象、ゲームシステム的に考えられる可能性は一つ。


「ストーリー進行じゃ…ない?」


その後は頭が真っ白になり、どう言う行動を取ったのかも覚えていない。
兎にも角にも、俺は一睡もできないまま文化祭準備日を迎える事になった。
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