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DLC本編
モブの楽園
しおりを挟むモブ先生に連れられ、お世話になる教室へ向かう。
現実では転校を経験したことないから、すごく新鮮だ。
(なんて挨拶しようかな、1週間だけって中々イレギュラーだし)
実年齢かなり離れている俺でも馴染めるかな…なんて年寄りめいたことを考えていると、モブ先生がこちらを振り返った。
「あ、田中君。そういえば、元々通ってた教室のこと、覚えてる?」
「え、はい…まさか」
「そのまさか。田中君には今回もこの教室で学んでもらいます!」
モブ先生が茶目っ気たっぷりに指し示したのは、一年前に通ったあの教室。
(てか、昼に覗いたばっかりだわ!!)
そう、みんなを探している時に覗いてザワッとさせてしまった教室だ。
「アワワワ…」
「?じゃあ、入るね。次の時間はレクリエーションにしてあって、田中君もすぐ紹介するから一緒に入っていいよ」
モブ先生は俺の葛藤なんてもちろん露知らず、ガラッとドアを開け放ってしまう。
ビシバシと視線が俺に集中するのを感じて、緊張で頭が真っ白になったのは言うまでもない。
就活で何度も集団面接を経験したけど、いまだに視線が集中するのは慣れない。
(みんな野菜、みんな野菜なんだ。にんじん、じゃがいも、ピーマン…)
「みなさん、おはようございます。今日から体験学習で1週間ほど皆と過ごすことになる子を紹介します。田中君、自己紹介よろしくね。」
「た、田中です…!1週間とかビックリするほど短い期間ですけど、仲良くしてください!!よろしくお願いします!」
吃りつつも自己紹介を終えると、控えめな拍手が起きる。
反応が妙に薄い。もしかして、スベった…?
サッと教室を見渡すと、拍手はしているが、なんだかみんな余所余所しい。
それに、やはりというかなんというか…
(見渡す限りの、平・凡ッ…!!)
一人もキラキラオーラを背負っていないことに、もはや安心感すらある。
「じゃあ田中君、あっちの後ろの席に座ってくれるかな?みなさん、教科書見せてあげてね」
「あ、ハイ…」
モブ先生が示した席の隣には、昼に声をかけてくれたあの茶髪君が座っていた。
茶髪君は俺と視線が合わさると、人の良さそうな笑みを浮かべ、小さく手を振ってくれた。
(茶髪君が隣とは…幸先良し!!)
そのまま説明は滞りなく進行していく。
「え~と、みなさん楽しみにされている文化祭についてですが、開催が今週末となりました。
明日最後の授業を終えたのちに、2日間の全校準備、そして文化祭開催という流れですね。」
(そっか、文化祭準備って結構前からちょくちょくやってるんだな…)
ふと教室を見回してみると、その名残のような制作物があちらこちらに置いてある。
「みなさん、後悔の無いように全力で取り組んでくださいね。
あと田中君。みんなに遠慮することなく、是非一緒に準備を楽しんでください。
では、レクリエーションを行います。」
モブ先生はにっこりとした笑顔を浮かべ、俺に配慮の言葉を掛けてくれる。
(モブ先生、一生ついていきますぅ!!)
レクリエーションが終わり先生が退出すると、少しざわめきが戻る。
やはり時期外れ、かつ1週間だけの体験学習ということが気になるのか、周囲のモブは俺を遠巻きに見ていた。
そりゃそうだよな、最初から馴染めるわけないよな…と
半ば諦めモードでいた俺の肩をトントンと叩く指が。
誰かと見上げると、茶髪君が自分の机から身を乗り出してこちらを見ていた。
「このクラスになったんだね、驚いた。先輩かと思ってたよ」
「茶髪君…!!さっきはマジでありがとう。
図々しいけど、1週間仲良くして欲しいな…なんちゃって」
「茶髪君って…あ、そっか名前。
僕、江隅。1週間よろしくね」
茶髪君改め、江隅は文化祭について詳しく教えてくれた。
1年生はよくあるクラスごとの展示企画。2・3年生や各部活では飲食などのイベント系をやるそうだ。
「あ、そうそう…企画展示は夏休みの自由課題を展示するんだ。急に用意するのも無理だろうし、他の人の手伝いとか室内装飾をすることになるかもね。」
「わぁ…圧倒的出遅れ感」
「ま、仕方ないね。田中君ができそうなこと、探していこう」
江隅はそう言いながら、次の授業の準備をしている。
「はい、次は現国。一緒に教科書みよっか。」
「え、江隅マジで良いやつやん」
「いえいえ…」
「いやいや…」
側から見ると奇妙だったと思うが、お互いに謙虚に教科書の端っこをつまんで授業を受けた。
授業内容自体はすでに知っている箇所だったし、暇を見つけて江隅を観察してみた。
一人称は『僕』、第一ボタンまで閉めているワイシャツ、ブレザーも変な癖がついておらず、ふわりと石鹸のような清潔な香りがする。
THE 優等生な見た目と言動。ちょっと前髪が長すぎる事と。茶髪であること以外はお手本のような生徒だ。
授業が終わると、あとの1時間分は文化祭準備に充てられるそうで、みんないそいそと制作を始めている。
「江隅、その髪って地毛?」
「そうだけど、どうしたの?」
「いや、綺麗な色だなと思って!」
「あ…ありがとう」
江隅はストレートに褒められて照れたのか、視線を逸らし口元を押さえてしまった。
髪の間から、少し覗く耳がほんのりピンクになっている。
「あれ、もしかして照れ屋さんなの?うりうり~」
「…僕、準備に取り掛かるから」
「あ!手伝う、手伝うから待って!!」
(なんだか同級生とのじゃれあいって感じで、めちゃくちゃ楽しい。)
まだ少し照れを表情に残しながら、油性ペンを差し出す江隅の様子に、思わず笑みを深めた。
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