BLゲームのモブ(俺)は誰にも見つからないはずだった

はちのす

文字の大きさ
上 下
103 / 145
DLC本編

屋上組!

しおりを挟む


屋上に入るとそこには、いつものメンツが陣取っていた。


「あーーーーー!!!!!ホントに田中だ!!!!本物?!」


「里田ぁ!久しぶりじゃん~!!元気してた?…ッアイテテテ!!」


里田は一目散に俺に駆け寄って抱きつくと、つむじに顎をグリグリと押し付けてる。

どいつもコイツも長身自慢か…?!


「黒木がひさびさ学校来たと思ったら、めっちゃパン買い込んでるし…田中が来たって聞いてびっくりしたや!」


そう言われて黒木を盗み見ると、購買で買ったらしきパンを店の様に広げていた。

いつもはあまり量を食べない黒木だからこそ、異変を感じて問いただしたところ、俺の帰還を知ることになったようだ。


「これ、田中君の分…買う暇なかったでしょ?」

「く、黒木様ぁ…!!」

「え、なら俺の分のおかずも分けてあげる!卵焼きがいい?あ、唐揚げもあるよ!」


里田はよほど嬉しかったのか、興奮した喋り方で自分の弁当の位置まで俺を連れていくが、普通に引き摺られている。

(まるでおもちゃを引き摺り回す犬だ…)


「田中、もみくちゃにされてんな」

「そう思うんだったら助けろよ!!」

「食べ終わったら考えるわ」

「薄情者ッ!!!!」


主人はドカッと隣に座り込んでパンを開け始めた。


「あれ、主人がパンって珍しくない?」

「あぁ、ちょっとな。多分そのうちまた弁当になる」

「そっか」


なるほど、それでさっき階段で遭遇したわけか。


「田中、あ~ん!」


理由を聞いてもいいものかと迷っていた俺の視界に、赤い物体がズイッと侵入してきた。

何かと思い横を見ると、里田がドヤ顔でおかずを差し出していた。


「たこさんウィンナー!あげる」

「めちゃ可愛いもの入ってんじゃん!ありがと」


断るのも悪いかと思い口に含むと、肉の旨味とは少し違う、なんだかちょっと甘い味がした。

(そっか。この形状のウィンナーってこんな味がするんだ。)


「ムフ、そうだね。かわいいね!」

「ん?」

「やっぱり田中ってかわいいなぁ、って」


里田はニコニコと微笑みながら咀嚼する俺を観察している。
前もこんなことあったな。


「なんだよ、こんなモブ顔のどこがかわいいんだよ…」

「ん~なんだろ。仕草とか、雰囲気?そんな感じ。」

「そうですかそうですか…」


諦め半分で黒木にもらったパンを食べ進めていると、里田が何かを思い出したように「あ!」と声を上げた。


「そういえば田中って俺らんクラスになるんだよね?教科書とか持ってるの?」

「あ、そういえば。課題とかもどうしてんだ?」

「俺の、貸す」

「あ~、みんなごめんっ!実は帰ってきたのも期間限定で、また帰ります!てへ」


瞬間、空気が凍った。

いや本当に、比喩じゃなく周辺の気温が何度か下がった気がする…あれ、もしかしてこれヤバい感じ?


「それ、聞いてない」

「冗談やめてよ~!…え、ほんとに?」

「…そんなにそっちがいいのかよ」


三者三様に俺に対して抗議の声を上げる。
主人は、目に見えて落ち込んでしまった。


「…ごめん!事情があって…でも、みんなの顔が見たくて帰ってきちゃった。」


黒木だけは俺がこの世界に留まり続けられないと知っていて、悔しそうな表情を浮かべていた。


「いつ、帰るの」

「1週間とかそこらかな…その間はこの学校に来てもいいって先生からOK貰えたんだ。」

「田中のおばか!!」

「え、今、あの里田から馬鹿という罵声を食らった気がするぞ。」


里田におばか、と罵られた俺は挙動不審になってしまった。

(里田にその言葉を投げつけられる日が来るとは…!!)


「こっちに住めばいいのに!なんで戻っちゃうんだよぉ」


ポカポカと拳で軽く叩かれながら、それは出来ない相談なんだよな…と遠い目をしてしまう。

こちらでのクリア条件を満たした前回は、即頭をぶつけてしまい、帰還させられた。

現実世界では俺がゲームに没頭している、という状態でリアルに時間が経過していたし、
前回も今回も、妹からは納期が言い渡されている。

(やることいっぱい、胸もいっぱい…)


終いには泣き出した里田に完全に抱かれながら、
もう一つ言わなければならないことがあると気がつく。


「あと、進級できてなかったから、みんなの後輩になりますッ!」

「マジ田中…お前本当におばかだな!!」

「おばかおばか!!」

「…おばか」


主人や黒木までもが罵倒に加わり、3人のご機嫌を取るべくハグをして回るハメになったのは、ここだけの秘密だからな!!
しおりを挟む
感想 193

あなたにおすすめの小説

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ヤバい薬、飲んじゃいました。

はちのす
BL
変な薬を飲んだら、皆が俺に惚れてしまった?!迫る無数の手を回避しながら元に戻るまで奮闘する話********イケメン(複数)×平凡※性描写は予告なく入ります。 作者の頭がおかしい短編です。IQを2にしてお読み下さい。 ※色々すっ飛ばしてイチャイチャさせたかったが為の産物です。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。 幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。 席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。 田山の明日はどっちだ!! ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。 BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。 11/21 本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

処理中です...