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DLC本編

再会、ときどき主人公。

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先生との攻防戦をなんとか間一髪で逃げ切った。
その勝利に酔いしれていたからか…すっかり失念していた。

(そうだ、みんな2年生になって教室変わってるんだった…!!)

前に割り当てられていた教室を覗いてみたけど、パッとしないモブ顔ばかり。
イケメンにだけ許される、あのキラキラフィルターはどこにもかかっていなかった。

そんなことは露も知らず、モブたちは優しく『誰か探してるんですか?』などと声をかけてくれる。


「ありがとう茶髪君…教室を間違えたみたいだ」


声をかけてくれた茶髪の生徒に感謝を述べると、その子はにこりと笑って席に戻ってゆく。

するとどうだろう、それまで茶髪君として認識していたのに、周りのモブに溶け込むように消えていった。

そんな光景を見る度、俺の心は抉られていく。

(ほんっとこの世界ってモブの扱い雑だな…!!!)


「この世界の仕組みはイケメンが作ったに違いない。リアルモブとして圧倒的に許せん。」


ブツブツと愚痴りながら2階に続く階段を登っていると、ふと考えが浮かんだ。


「もしかして、屋上にいたりなんかしないよな…?」





屋上に続く道は、1年前となんにも変わっていなかった。

お弁当もパンも何も持って来ていないから、なんだか変な気分だけど…懐かしさに高揚する。

(ドッキリ的な感じで、ドアをババーン!と開け放って入ってみよっかな。)


「皆どんな反応するかな…ぐふふ。
黒木にはバレちゃってるけど、なんかあいつ内緒にしそうだし。」

「何を?」

「いやそりゃぁ田中 is back … ってぇぇえい?!」


バッと効果音がつきそうなほど勢いよく振り返る。

と、そこには爽やかスマイルを称えた売れっ子新人俳優が、ほぼゼロ距離で佇んでいた。ニンジャか!!


「おかえり」

「ち、近い近い近い…ただいま…」


あまりの近さにロボットのように“近い”と連呼していたら、
首に手を回され、グッと距離を縮められた。

1年の時を経た主人は、さらに身長が伸びており、平均的な身長の俺なんかはすっぽりと腕に包まれてしまう。

視界は主人の胸の辺りで彷徨っていたが、顎を上げられ、強制的に目線が合う。


「なんで一番に会いにこなかった?」

「ピェ」

「変な鳴き声出しても誤魔化されないから」

「うわぁ、主人さんが本気だぁ…!!」


主人は少し逡巡すると、小さな声でポツポツと話し始めた。


「田中…俺、最近めっちゃ活躍してるんだけど、見てくれてる?」

「へっ?」

「田中が、離れてったことを後悔させるくらい有名になってやろうって決意して頑張ったんだけど…失敗だった?」


笑みはそのままに、切なげに眉を下げるその表情で、主人がどれだけの想いでこの一年を過ごしたか伝わって来てしまう。

そのずっしりとした感情を一身に受け、胸が詰まる。

主人は沈黙をどう受け取ったのか、少し肩を下げながらゆっくりと体を離した。


「…そっか」


反射的に、離れていく腕を捕まえた。


「あ、えっと…ごめん!事情があって見れてないんだ。本当にごめん。
 よければ、その主人が出たやつ…また一緒に観たいんだ。

 …駄目、かな?」


頭ひとつ以上差が開いてしまったけど、負けじと見上げて目線を合わせる。
主人は目を丸くしてフリーズしていた。


「…はぁ、田中ってそういうとこあるよな。」

「マジでごめんって」

「キスしてくれたら許す」

「は?」

「ほら」


主人はそのままの体勢で軽く目を閉じた。


「なんで?え、ここで?誰もいないけど、公共の場よ?」

「…」


(ガン無視!!)


早く屋上に入りたいけど、全く動いてくれなさそうな雰囲気だ。
…かくなる上は!!

右頬に狙いを定め、衝突する勢いで突っ込んだ。

(誰が甘い雰囲気にしてやるかぁぁあ!)


「チェストォォオオ!!」

「こら」


何かを察知した主人は、勢いよく背伸びした俺の頬をガッチリと掴み


「…っん!」


あろうことか口に誘導しやがった…!
数秒動きを封じられて、ゆっくりと解放される。


「ごちそうさま」

「…っ変態!!破廉恥!!てかめっちゃ身長高くなりやがって!!何cmだよ!!!!」


ニヤッと微笑みを残し、身を翻して屋上へ向かった背中をバタバタと追いかけた。


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